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異世界で始める飲食巡り~誰でも使える魔法の作り方~  作者: 正岡千之
第一章 瑞希の長い一日、さよならココナ村
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シャオへのプレゼント

 瑞希達は報酬を受け取りギルドを後にする。

 ドマルは馬車もあるので先に爺さんの宿に向かい、瑞希はギルド職員であるテミルに聞いた雑貨店にシャオと一緒に向かって歩いていた。


――おい、聞いたかよ? モノクーン地方の領主様の娘が行方不明なんだとよ。


――マジかよ? 誘拐か何かか? 領主様もとことんついてないよな……。


 そんな村人の噂話を聞き流し露店を見流していると、八百屋の様な店が目に留まり、瑞希はその店に駆け寄る。


「おぉ! 見ろシャオ! 見た目でわからん野菜が色々あるぞ! これはどんな味だ? なんだこのでかいジャガイモみたいなのは!」


「ミズキ! 寄り道しとらんと早く行くのじゃ!」


「待て待て! ちょっと野菜を買って行こう! お姉さん!こっちの野菜はどんな味ですか?」


 五十代ぐらいのふくよかな御婦人に向けてお姉さんと平然と言えるのは、瑞希が飲食店で培った接客術だろう。


「やだよ! 上手いねこの子は! これはパルマンと言って切ると涙が出てくるんだけど、火を通すと甘いよ! あんたがさっき言ってたでかいのはグムグムさね! そのままでは食べれないけど茹でるとホクホクして塩だけで食べれるよ!」


(形は少し違うけど、玉ねぎみたいな物と、見たまんまでかいジャガイモかな? 普段使ってる物との違いは名前と見た目か?)


「この赤色の小さいのは?」


「それは苦くて子供達が大嫌いなモロンさね! 大人になると美味しいんだけどね~」


(ふむふむ。ピーマンみたいな物かな?)


「お姉さん! 甘い野菜はありますか?」


「あるさね! そこの棒みたいなのがカマチって言って煮ると甘くなるよ!」


(これは細長い人参みたいだな。色は多少違うけど、これなら大丈夫そうだ)


 瑞希は新しい食材を嬉しそうに物色していると、服の端をシャオにぐいぐいと引っ張られる。


「いつまでここにおるのじゃ! 早く行くぞ!」


「ごめんごめん! 見た事もない物ばかりだから嬉しくなってな!」


「ここの野菜が珍しいって事はあんた達この辺の人じゃないね? その子はあんたの娘……にしてはちょっと大きいね、妹かい? 爺さんみたいな喋り方だね~?」


「行商人の友達と南の方から来たんですよ! 妹は爺ちゃんに育てられたんで口調が変わってるんですが、爺ちゃんが亡くなってからは、冒険者の旅をしていた僕についていくって泣き喚いちゃって」


「ありゃりゃ! まだ小っちゃいのに大変だね~! ならうちの野菜をいっぱい食べさせてやんな! いっぱいお日様を浴びたうちの野菜を食べりゃすくすくと大きく育つさね!」


「じゃあ、パルマンとグムグム、それとカマチを下さい!」


「あいよ! たっぷり詰めてやるさね!」


 御婦人がそう言うと、麻袋の様な物にどさどさと野菜を詰めていく。相場がわからない瑞希だが、野菜ぐらい手持ちの報奨金があれば大丈夫だろうと思っていると……。


「5百コルで良いよ!」


「やすっ!お姉さんそれは悪いよ!」


 詰められた野菜の量と手持ちの金から考えるとあまりにも安い価格を提示されて瑞希は焦る。


「何言ってんだいこの子は! お嬢ちゃんにも食わせなきゃなんないんだから遠慮なんかしなくていいさね! それにこんなババアをお姉さんなんて言ってくれるなんて嬉しいじゃないか! ほらお嬢ちゃんを待たせてるんだから受け取りな!」


 御婦人が豪快に笑いながら野菜を瑞希に押し付けてくるので、瑞希は慌てて銅貨を一枚手渡す。


「じゃあお釣りの5百コルさね! また来とくれよ!」


 瑞希は千コル銅貨より小さく四角い銅貨を五枚受け取り、シャオに引かれるまま店を後にした。


 野菜を持ちながら歩いているとシャオが口を開く。


「……で。誰が泣き喚いたのじゃ?」


「俺の()であり、相棒のシャオちゃんだな」


「誰が泣き喚くか! お主も良くスラスラと口からでまかせが出るもんじゃな!」


「飲食店で働いてると、色んな客がいるからな。話を合わせなきゃいけない時もあるし、好き好んではつかないけど、必要な時は嘘もつけるさ」


「大体、お姉さん等とみえみえの嘘をつきおってからに……」


「あれはそういうもんなんだよ。俺から見て倍以上の年上ぐらいはお姉さんだ」


「お主、もしやそういう趣味が……」


「あほか! あれも一種の接客術だよ! ちゃんと人をみて言葉を選ぶのも大事なの!」


 年の離れた兄妹に見えなくもない二人がギャアギャアと騒ぎながら歩いていると、テミルに聞いていた外套を買える雑貨店に到着し、二人は雑貨店の扉をノックして中へと入っていく。


「ごめんくださーい」


 何の反応も返って来なかったのでもう一度大きな声で呼んだ。


「ごめんくださーいっ!」


「……はいよ~」


 店の奥から腰の曲がった老婆が出てきた。


「外套と日常で着る服なんかが欲しいんですが」


「はぁー?」


 老婆は耳が遠いのか、耳の後ろに手を添えて瑞希の言葉を聞こうとする。


「外套と! 日常で着る服は! ありますかっ!?」


「あぁ。あぁ。そっちの方にあるから好きに試着していいよ」


 老婆がプルプルと入口から見て右の方を指さして答える。


「ありがとうございますー!」


 瑞希は大きな声で返事を返すと教えてもらった棚を物色する。


「ミズキよ、あれもお姉さんかの?」


「まだ言ってんのか……さすがにあれはお婆さんだよ」


「くふふ。ミズキから見てもさすがにそうなのじゃな」


(全くシャオの奴……人を小ばかにしやがって……)


 瑞希は棚を物色しながら自身で着る外套や服の他にシャオの服を気に掛け、小声でシャオに話しかける。


「(そういやシャオの服ってどうなってるんだ? さすがに下着は穿いてるよな?)」


「当たり前じゃ! あほ!」


「(バカ! 声が大きい!)」


 瑞希はそっとカウンターの方に目をやると、老婆はカウンターの前に座りこっくりこっくりと舟を漕ぎ始めていた。


「(これはあの人に貰った物じゃから、姿を変えると魔力に返還されるのじゃ)」


「(なるほど。じゃあシャオは靴と外套だけで良いか? ドマルの商品を借りっぱなしなのも悪いからな。今の状態で姿を変えると今着てる服は脱げるんだよな?)」


「(人間が作った服なんか着た事ないから知らんのじゃ。試してみるか?)」


 シャオは試着室の中に入るとぼふんっ。と元の姿に戻ってみた。


「にゃ~ん」


 瑞希は中を覗くと、外套に包まれた猫の姿のシャオが瑞希を見上げている。


「(駄目だこりゃ。シャオ戻っていいぞ)」


 ぼふんっ。


「(そんな上手くは行かないもんだな。逆にそのワンピースは脱げるのか?)」


「(それは可能じゃな。わしも姿を変えられる様になった時は素っ裸じゃったからの)」


(さすが女神様。想像もつかない事をやってのけるな)


 瑞希は仏の様な笑みで笑っている女神を思い返していた。


「じゃあせっかくだからこのリボンをつけるか?」


 瑞希は棚にあった女児用のリボンを手に取りシャオの髪を纏めてリボンを素早く飾りつけてみる。


「おお! シャオは何をしてもかわいいな!」


「う、うるさいのじゃ!」


 シャオは反論しながらも自身の髪形をちらちらと鏡で見てみる。


「お主なんでこんな事までできるんじゃ……」


「店の常連さんの子供に懐かれてたからな。あんまり構ってると仕事にならないから、その女の子の髪をいじってやるんだ。するとその子は喜んで親に報告に行くんだよ。何百回もやってたらそりゃあ出来るようにもなるさ」


「動物以外に子供にも好かれるのかお主は……」


 シャオは呆れながら瑞希の技術を確認するが、鏡に映る自分の姿は嫌いではなかった。


「シャオにはこれからも仲良くしてもらいたいからな。俺の初稼ぎのプレゼントだよ」


「まぁ、狩ったのはわしじゃがな」


「じゃ、じゃあ俺達二人の初稼ぎの証という事で……」


「くふふ。まぁ何でも良いわ」


 シャオはそう言うと、リボンが気に入ったのか嬉しそうに自分の纏められた髪を触っている。


「じゃあ俺は会計をしてくるよ」


 瑞希は外套等の衣類をカウンターに持って行くと、寝ている老婆に大きな声で声をかける。


「おばあさぁん! お会計を! お願いします!」


「はいよ」


 老婆はしょぼしょぼと目を開けると、そろばんの様な物でぱちぱちと計算をしていく。


「全部で2万4千コルだね」


(相場は日本と同じぐらいかな? ドマルがゴブリンの報奨金で買えるとは言ってたけど、シャオの分を考えると妥当だな。となると、さっきの野菜は相当おまけしてくれたんだな。)


 瑞希はさっきの御婦人に心の中で感謝しつつ、馬車に置いてある自身のリュックについて思い返す。


(包丁ケースは布で出来てるから違和感ないけど、リュックは目立つかな……)


「そこに! 掛けてある鞄は! おいくらですか!?」


 瑞希は壁に掛けてある大きめな革のショルダーバックを指さし訊ねる。


「これは1万コルだよ」


「じゃあそれも頂きます!」


 瑞希は金を渡し、今購入した外套を着こむと店を後にする。


「さぁて、宿に戻って食事にしようか!」


「お主の料理が楽しみじゃのう!」


「宿のお爺さんに頼んで厨房を借りて、試しになんか作ってみるさ!」


 シャオは雑貨店に向かって来た時とは違い、髪の毛をゆさゆさと揺らしながら嬉しそうに宿へ向かうのであった――。

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