みたらし団子と二人の結果
瑞希が二人の前に置いた皿には串に刺さった丸く白い物に、透き通った茶色をしたタレがトロリとかかっており、皿の隅っこにはホイップクリームが添えてある。
瑞希も普通ならみたらし団子だけで出すのだが、本日は乳製品の指定があるので、生クリームを添える事にしたのだ。
しかし、餡子と生クリームが合う様に、和菓子と洋菓子には合わせると相乗効果が生まれる美味さもある。
瑞希がチサに醤油と乳製品が合うと言ったのはこの組み合わせも伝えたかったのだ。
「この丸めてあるのはペムイで作ったもんやな? こっちの高く盛ってるのは乳製品やな……ドマルはんの言う通り別々で出して来たんやな」
「本来は別々で食べても美味しいですし、みたらし団子は和菓子、ホイップクリームは洋菓子に使用する乳製品です。是非別々に食べてから、味を比べてみて、その後に一緒にお召し上がり下さい」
瑞希が説明していると、シャオとチサが瑞希の服を軽く引っ張る。
すでにステーキ丼までの食事を済ませた二人は、一本ずつ瑞希にみたらし団子を食べさせて貰ったのだが、二人はその味が気に入ったのかもっともっとと瑞希にせがんだ。
しかし瑞希に、今は晩餐の分を焼くからまた後でと、お代わりが貰えなかったためだ。
「ほなまずはこっちの乳製品から食べるわ……」
「じゃあ私はこちらのみたらし団子という物から……」
カエラはホイップクリームを匙で掬い、口に入れると、濃厚な甘さが舌に広がっていき思わず顔が綻ぶ。
ドマルはタレがこぼれない様に、皿ごと串を持ち上げ、団子を口に入れ引き抜き、口の端に付いたタレをペロリと舐めてから咀嚼する。
もちもちとした団子を素焼きしたので、もちもちの食感に香ばしさも広がり、ジャルと砂糖を使った甘じょっぱいタレが不思議な美味さを生み出している。
「ふふ。やっぱり美味しいわぁ! ドマルはんこっちの串のはどうや?」
「美味しいです! この白いのは香ばしくて、上のタレが甘じょっぱくて……」
「このタレは何で作っとるん?」
「そのタレはジャルと砂糖で作りました!」
「ジャルを!? あれは魚とか料理に使うもんやろ!? それに砂糖を混ぜるなんてもったいないやろ!?」
カエラはそう言いながらもみたらし団子を口にすると、ジャルの味を感じとったのか黙ってしまう。
ドマルは瑞希の言っていた様にみたらし団子にホイップクリームを乗せて食べてみた。
「美味しいっ!」
ドマルの言葉にカエラも真似をして食べる。
「美ん味ぁ……。なんやねんこれ……。ジャルにこんな使い方あったんかいな……」
カエラが再び撃沈してしまうと、シャオとチサもますます食べたくなったのか、瑞希の腕を掴み引っ張る。
「もう! 我慢しろって」
「……無理や」
「無理じゃ! わしももう一本……いや、もっと食べたいのじゃ!」
瑞希が溜め息をついていると、その様子を見ていたカエラは面白かったのかくすくすと笑いだす。
「ミズキはんええやないか? 調理はもう終わったんやろ? 後は皆で騒がしく食べようや! チサちゃんこっちおいで? このみたらし団子食べるやろ?」
チサはカエラの言葉にパッと満面の笑みを溢しながら近づいていき、カエラから団子を受け取るとその団子を食べ、カエラにニコニコと笑顔を見せる。
カエラはその姿があまりにも可愛かったのか、思わず抱きしめて頬ずりをする。
「なんちゅう可愛い笑顔を見せるねんこの子はぁ!」
「……むぅ……団子が食べれにゃい」
「すみません……領主様に対して失礼ですよね……」
瑞希はチサの姿を見て近くにいた老執事に声をかけ、謝る。
「ほっほっほ。チサ殿がミズキ様達を連れて行き、我が地方を救ってくれたのですから、これぐらいの褒美は有って当然でございましょう。それに、あの姿を見ているとどっちが褒美を貰っているかわかりませんがな」
カエラがチサの可愛さに思わず自分の膝に乗せ、小柄なチサの頭を撫でながら、団子を与えている。
シャオはチサのその姿を見て、羨ましいのか、悔しいのか、地団太を踏んでいると、ドマルに手招きをされたので近づいて行くと、ドマルから団子の乗った皿を受け取り、こちらも満面の笑みを見せながら瑞希の元に帰って来た。
「お前等なぁ……ちゃんと後で焼いてやるって言ったろ?」
「それまで我慢できる訳ないのじゃ! ミズキよ、仕事が終わったのなら早く椅子に座るのじゃ! わしを抱っこするのじゃ!」
「そんなっ! 私達がまだ食べてないのに!」
シャオの言葉に思わず、給仕の仕事を全うしたサランが空腹と料理の誘惑に負け、口を挟む。
「俺も、サランも腹減ってるから後でな! という訳で、いかがでしたでしょうか本日の晩餐は?」
「満足、満足、大満足や! ここまでペムイを使えてる上に、ちゃんと乳製品も生かせるとは思わんかったわ! 約束通りジャルもそっちに流したるから、味良う使てや! ドマルはん、きちんと乳製品も回してや?」
「承りました! ……はぁ~無事に商談が終わって良かった。ミズキもありがとね!」
「おう! と言っても俺はこっちに来てから相変わらず料理しかしてねぇけどな?」
「その料理がヤエハト村を救ったんだから凄いよ!」
「そんな事言ったら、ペムイはお前が話をつけてくれてたんだろ? それはバランさんを救ってるだろ?」
「それも瑞希の料理知識が無かったらどうにもならなかったよ?」
「あほ。いつも言ってるだろ? 俺は俺の出来る事しかしてないよ。今回上手くいったのはたまたまだし、ドマルがこっちでカエラさんとの商談が上手くいってなかったら今日の料理の話も無かっただろ? お互いの仕事が上手くいったんだよ」
二人の話を聞いていたカエラが唐突に笑いだした。
「あはははは! はぁ~……。あんたらほんまに無自覚なんやね?」
カエラは二人の会話に割って入ると、話題の中心の二人は揃って疑問符を浮かべた顔をしていた。
「ミズキはんの知識と料理はやりようによったらうちから金をふんだくる事も出来るんやで? まぁそんな事してきてたら二度と関わりたない人物になったやろうけどな。それにドマルはん! あんたはここ十日間ぐらい毎日うちと会話もしてたし、食事もしてたやろ? うちそんなん今までした事なかったわ。ほんまに楽しかったんやで?」
「「ありがとうございます……?」」
二人は声を揃えて疑問を持ったまま御礼の言葉を返す。
「今回の商談は元々断るのが前提にあったんや。前に一度断っとるからな。……けど二人に会ったら、片やうちの地方の為に奔走してくれる。片やうちの興味を引く話題を出しながら、ペムイと乳製品の可能性も示してくれた。あんたらがお互いを認め合ってたからうちも首を縦に振る結果になったんやで? その答え合わせが今日の晩餐や。ほんまに美味しかったし、こっちでも乳製品を取り入れたくなった! なんやろな……あんたら見てると何かしてあげたなるっちゅうか……もちろん無償でやないで? でもあんたらとは長い付き合いをしたいと心から思えたわ」
瑞希とドマルはお互いの顔を見合わせながら、ぷっと吹き出し大笑いする。
二人で行った仕事は今回が初めてだったが、上手くいった事に二人は拳を合わせた。
「……二人は仲良しやなぁ」
「うぅ~お腹が空きましたぁ……」
「うぬぬ……ミズキ! 早く抱っこするのじゃ!」
カエラはチサの頭を撫でながら……
サランは自身の空腹をぼやきながら……
シャオは瑞希への不満を漏らしながら……
そして二人は仕事の達成感に胸を撫でおろしながら、マリジット地方での仕事に幕を閉じる。
瑞希がもたらした知識は黒髪の小さな少女に食事の大切さを気付かせ村を救い、瑞希の言葉はいつも側に居る少女の心を救った。
懐かしさや、新しさ、そんな事に気付かせる瑞希の料理は、これからも誰かの心に届く優しい魔法なのだろう――。
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