ステーキ丼と二人の信頼
サランが厨房へ戻って来ると、シャオとチサが何やらもちもちした物を丸めていた。
「二人の様子はどうだった?」
「カエラさんはちきん南蛮を褒めちぎってて、ドマルさんは衣の事をペムイだって当てられましたよ!」
「さすがドマル。何度も俺の料理を食べてるだけはあるな!」
「ミズキさんだったらそうやって人を驚かすと思ったんですって」
サランはドマルの発言を思い出して笑いだす。
「驚かすつもりはないんだけどな……」
「それにカエラ様がドマルさんにあ~んってしてましたよ!」
「……それはどういう状況なんだ?」
「ほっほ。お嬢様は貴方達の事が気に入ってるのでございますよ」
「それなら良いですけど……ドマルって年上にもてそうだしな」
普段は慌てふためいたりするドマルが、時には落ち着いた雰囲気を見せる。
女性から見ると可愛らしくもあり、頼りたくなる時もあるかもしれないと瑞希は一人納得する。
「次のお料理はどういうお料理ですか?」
「最後はモーム肉のステーキ丼だ! もうペムイの準備は出来てるから後は肉を焼いてソースをかけたら完成だよ」
「モーム肉って固いのに大丈夫ですか?」
「今回は擦り下ろしたパルマンに漬け込んで柔らかくしてるから大丈夫だよ」
サランは瑞希の横に用意されているペムイを見る。
「あれ? ペムイは炒飯にしたんですか?」
「よく気付いたな。チャーハンではないけど、オオグの実と刻んだパルマンを混ぜて、バターと塩胡椒、それにジャルで味付けしたガーリックライスだよ」
「がーりっくらいす?」
「直訳するとオオグの実ペムイだな。オオグの実はステーキに良く合うんだ」
「へぇ~」
サランが感心していると、老執事がサランの横から現れる。
「ほぉ。オオグの実を食べるのですかな? 一応味見をさせて頂いて宜しいですかな?」
「構いませんよ。はい、どうぞ」
瑞希は小匙にガーリックライスを乗せ、老執事に手渡す。
老執事はそれを口に入れ咀嚼するとピクリと眉を動かすが、そのまま飲み込む。
「ほっほっほ。オオグの実はこんなにも美味だったのでございますね」
「その代わり量を食べるとしばらく臭いますけどね。一日もすれば大丈夫ですよ」
「いや、先程の御料理でお嬢様が取り乱したのも分かりますな。それに今食べたのが完成ではないのでしょう?」
「そうですね。ここにステーキを乗せてソースをかけて、薬味にスズの葉を添えて、香の物を添えて完成ですね。という訳で肉を焼いていきますね!」
「ほっほ。宜しければ私も後で御相伴に預からせて頂いても宜しいですかな? なまじ味見をしてしまったばかりに完成品が気になってしまいました」
「喜んで! 後で私とサランと一緒に晩餐にしましょう!」
「いやはやこれは楽しみでございますな」
瑞希はシャオに火を頼み、鉄鍋でモーム肉を焼いて行く。
両面を焼き、焼きあがった肉をまな板に乗せ、焼き終わった鉄鍋にジャル、酒、砂糖、酢を合わせた調味料を流し込み、沸騰させる。
そこに肉を漬けていた擦り下ろしパルマンと、擦り下ろしたオオグの実を加え一煮立ちさせる間に、まな板に乗せていた肉を切り、茶碗に入れていたガーリックライスの上に乗せる。
ソースが熱くなり、酒のアルコール分も飛んだので、それを肉の上にかけ、別の小皿にスズの葉とリッカの糠漬けを添える。
「これで完成! スズの葉は食べてる途中に味を変えたければ乗せて食べれば良いって説明してくれ! 俺はこのままシャオ達が丸めてくれている物で甘味を作ってからそのままそっちに持って行くよ」
「畏まりました! 爺やさん行きましょう!」
「ほっほ。これは後で食べるのが楽しみな出来栄えでございますな!」
サランは台車に料理を乗せ、ドマルとカエラが待つ部屋に移動する。
シャオとチサは丸めていた物が無くなったのか、ミズキに声をかける。
「ミズキ、丸め終わったのじゃ! してこれがどんな甘味になるのじゃ!?」
「そしたらこれを茹でるんだけど……その前に二人にステーキ丼を作ろうか?」
「食べるのじゃ! さっきからオオグの実の香りがたまらんかったのじゃ!」
シャオの言葉にチサが頷く
「……臭いのに慣れると食べたくなる」
「わははは。徐々にオオグの実の虜になって来たな? じゃあささっと作るよ」
二人は瑞希の言葉にわくわくしながらステーキ丼が出来上がるのを待つのであった。
◇◇◇
部屋に残された二人は再び次の料理の予想を話し合っていた。
「次の料理が一応最後やんな?」
「そうですね。次の料理と甘味で終わりですので、食事としては次で最後ですね」
「ドマルはんはどんな料理や思うん?」
「そうですね……最後なので、まずペムイは食べ慣れた形で出されるんじゃないでしょうか?」
「でもそれやったらさっきの料理の時に一緒に出せばええんやない?」
「そうですね……私もここでペムイを出された時は真っ白いペムイと他の御料理が一緒に出て来ましたしね……」
「やけど、乳製品と合わせるって条件やし……モーム乳でペムイを炊くとか? ……でもそんなんよう食べんわ」
「あははは。ミズキは美味しい物しか出さないからそれはないでしょう」
ドマルは笑顔でカエラに言葉を返す。
「ミズキはんをえらい信頼しとるんやね~?」
「そりゃもう……彼等と出会ってから私は自分に自信を持てた気がするんですよ」
「自信? ドマルはんは自信が無かったんか?」
「そうですね……人に流されっぱなしでしたし、商談も下手でしたしね」
ドマルは苦笑しながら説明を続ける。
「商談が急に上手くなった訳ではないのですが、それでも相手にきちんと話を聞いて貰える様になりました」
「でも何でミズキはんに出会った事が自信に繋がるんよ?」
「ミズキと旅をする様になって分かったんです。瑞希は料理の知識も凄いですが、そんなことより自分が出来る事、助けられる事なら人に手を差し伸べる優しい男なんです。そんな彼が時々『さすがドマル』って言ってくれるんです」
「うん? 良うわからんけどそれはミズキはんがドマルはんの事を信頼してくれてるっちゅう事やんな?」
「そうなんです。それに彼の中の私はどうやら凄い人みたいなんですよ」
ドマルはそう言いながらくすくす笑う。
「ほな、ドマルはんの自己評価はそんなに凄くはないと?」
「そうですね。ただ、彼が信頼するドマルって奴を私も信用しようと思ったんですよ」
「……なんやまどろっこしいな~。ドマルはんもミズキはんも凄い。それでええやん?」
「あはは。ありがとうございます」
ドマルは照れ臭そうに笑っているとカエラがぽつりと呟いた。
「ふふ。ミズキはんはええ友達をもったんやなぁ……」
二人の会話が終わる頃に、サランが料理を運んでやって来る。
結局何の料理かの予想はうやむやになってしまったが、カエラはドマルの事が少し知れて嬉しかった。
サランが二人の前に料理を並べて行くと、二人が答えを出せなかった料理に心が躍るのであった――。
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