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サランの初陣とエクマドリア

 カエラとドマルはペムイ酒を飲みながら、料理の登場を今か今かと待ちわびていると一つ目の料理がサランの手によって運び込まれる。

 もちろん調理場には形式上とはいえ、執事の方も見張っていたし、サランの後ろからカエラの御付と思われる老執事が眼光を光らせている。


「まずはモーム乳を使った野菜スープです」


 ではなぜサランが給仕をしているかと言われれば、瑞希の現場に立ってこいという指示があったからだ。


「(何でこの旅初めての給仕が領主様への給仕なんですか!? 恨みますよミズキさん!)」


 瑞希曰く、初めてが領主相手だったらこれからの緊張なんか吹っ飛ぶだろうという事らしい。

 もちろん使用人達から許可を経ての行動なのだが。


「んん? これにはペムイが使われてへんようやけど?」


「えっと、その、これはモーム乳を使った御料理でして、あの……その……」


「あはは。落ち着きなよサランちゃん。カエラ様は取って食ったりはしないからさ」


「ちょっとドマルはん! なんやの人を化け物扱いして!」


「サランちゃんも緊張してるんですから落ち着かせるためですよ。私も初めは緊張しましたしね」


「ほな今は緊張してないんやね?」


「ほぼ毎日顔を合わせてたら緊張も和らぎますよ。失礼があれば改めますのでおっしゃって下さいね?」


「ええんよ。ほなお嬢ちゃん、料理の意図をドマルはんに説明したげて?」


 緊張しているサランはドマルに視線を向けると、にこりと微笑み返され、その顔に安心感を感じて瑞希に教えられた意図を説明する。


「こちらの御料理はモーム乳を使った単純なスープでございます。マリジット地方に入ってからミズキ様が気に入ったメースとマクで出汁を取って、そこにモーム乳を加えています。まずはペムイを使う前にモーム乳の優しい味を堪能して頂ければとの事です」


「モームはこっちでも多少育てとるから知っとるけど、乳を飲むのは初めてやわ……」


 瑞希はヤエハト村の事で頭が一杯になっており、モーム乳の日持ちを忘れていた。

 行きはシャオの魔法で冷やしながら移動していたが、その状態でも流石に三週間近くは持たず、困っていると、老執事が声を掛けてくれたのだ。

 マリジット地方で乳製品を交換という事で保存の効く乳製品は良いのだが、モーム乳はそうはいかなかった。

 老執事に相談するとモームなら城にもいるという事で、乳が出るのはいるかと確認し、たまたま子を産んだばかりの牝モームがいたので絞らせて貰い、事なきを得た。


 カエラはスープを啜ると、優しい味わいと慣れ親しんだ出汁の味に驚く。


「この出汁に乳なんか入れてどんな味がするかわからんかったけど、これは確かに美味しいわ!」


「へぇ~……魚介の風味とも合うんですね。ミズキは同じスープでも色んな味を作るなぁ」


「野菜だけしか入ってないのも意味はあるん?」


「はい! この後の料理は全てペムイを使用しておりますので、このスープで野菜を食べて欲しいとの事です!」


「そらこっちがペムイ料理を指定したんやから仕方ないわな! ほな次の料理からが本番やね?」


「はい! まずはこちらのスープでお腹を温めて下さい」


 カエラは嬉しそうにミルクスープを啜り、ドマルも瑞希の初めての料理を思い出す。

 懐かしさも感じるのだが、また違う味に嬉しくもある。

 カエラもまた慣れ親しんだ出汁の味なのに、新しい味に瑞希の料理への期待感が高まる。


◇◇◇


 瑞希は石窯の前で次の料理が出来上がるのを待っている。

 シャオとチサはサランと瑞希より先に、出来立ての料理を食べて行く様だ。


「くふふ。初めて食べたスープみたいで懐かしいのじゃ」


「……出汁とモーム乳って合うんやね」


「モーム乳はジャルにも合うぞ? 俺の故郷の人でも嘘だろって疑う人もいるけどな」


 瑞希が二人に説明していると、サランと老執事が戻って来た。


「き、緊張しました!」


「ほっほっほ。乳のスープをお嬢様も喜んでおられましたぞ」


「それは良かった。サラン、食べる早さはどうだ?」


「一品目という事もありましたし、量も少な目でしたのでさらっと無くなりました!」


「了解! じゃあ次からがペムイを使った料理だ! 熱いから気を付けて貰えよ」


「畏まりました!」


 瑞希は石窯から料理を取り出すと、使用人に頼んで作って貰った木製の受け皿に乗せる。

 石窯から出て来た料理はふつふつと小さく沸騰している。


「これは何というお料理ですかな?」


「これは海老ドリア……改めエクマドリアです!」


「ほほう。これはちーずと……モーム乳も使われているのですな? モーム乳をここまで料理に使う方は初めてですな」


「カエラさんの御希望ですからね! じゃあサラン宜しく頼む!」


「はいっ!」


 サランと老執事は厨房を離れて行く。

 瑞希はシャオとチサの前にエクマドリアを置き、火傷しない様に注意をする。


◇◇◇


 カエラの元へ戻って来たサランは、二人の前にエクマドリアを丁寧に置いていく。


「こちらのお料理はペムイを使ったどりあでございます。基本的な味付けは先程のスープと同じですが……冷める前にまずは一口お召し上がり下さい! 大変熱いのでお気を付け下さいね」


「ここからがペムイと乳製品の真骨頂なんやね? ほなまずは一口……」


 ドリアにスプーンを突き刺すとふわっと湯気が立ち昇る。

 カエラはチーズ、クリームソース、ペムイの層を綺麗に全て乗せると、ふぅふぅと息をかけて冷まし、ゆっくりと口に運ぶ。

 表面にはパン粉をふりかけ香ばしさが足されているのだが、濃厚なクリームソースととろけたチーズのコクがペムイを包み込み、食べなれたペムイの新たな一面を発見させられる。


「……美味しいわぁ! これほんまにさっきのスープと同じ味付けなん!?」


「はい! 使っている物は同じです。違いはモーム乳の割合とチーズです!」


「このソースのとろみは何でついとるん?」


「これはばたーとカパ粉を炒めてとろみをつけます」


「はぁ~……こら後の品も楽しみやけど……何でこない少ないんよ!? もう二口か三口で終わってまうやないの!」


 カエラはそう言うと二口目を口に運ぶ。


「――このぷりぷりした食感はエクマやないの! このソースに合ってめっちゃ美味しいわ!」


「ミズキ様がこちらの執事の方にカエラ様の好きな食材を聞いて、この料理になさいました」


 老執事はサランに説明されると、笑顔でカエラに視線を送る。


「嬉しいわぁ! いつも焼いた奴を食べてるけど、こうやって食べるのもええなぁ。これをもっと食べたいわぁ」


「ミズキにも考えがあるんですよ。ねぇサランちゃん?」


「はい! ペムイはお腹に溜まりますから……それにペムイはあまり食べ過ぎると太るそうなので、ミズキ様が量を調整しているそうです」


 サランは笑顔で理由の説明をする。

 しかしその理由を聞いても御立腹のカエラはドマルに八つ当たりの様に言葉をかける。


「ちょっとドマルはん! あんたいっつもこない美味しいもん食べてんの!?」


「そうですね……ミズキが食事を作る時はいつも幸せな気持ちになりますね」


「ずるいわぁ……お嬢ちゃんミズキはんに美味しいて伝えといて! それとこのソースの作り方も料理番の者に教えといて欲しいわ! うちこれめっちゃ好きやわ!」


「うふふ。ミズキ様に伝えておきます! 次のお料理の準備をしても宜しいですか?」


「お願いするわ! こんな量やとすぐ食べ終わるさかいな」


 サランは頭を下げると再び厨房へと戻って行く――。


◇◇◇


 シャオとチサもまた、厨房で熱々のドリアに息を吹きかけながら口に運ぶ。


「以前のクリームソースとはまた違った味わいじゃな? ジャルの風味も感じれるのじゃ」


「……ペムイってこうやって食べても美味しいんや」


「普通に作るならもっと洋風に味を寄せるんだけどな。今日は少し考えもあって和風に寄せてるんだよ」


「どっちにしろ美味いのじゃ!」


 瑞希の考えなど二人には分からないが、目の前のエクマドリアは美味い。

 シャオとチサ、そしてカエラは次の料理を心待ちにするのであった――。

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