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乳製品とペムイ

 事のあらましをドマルから聞いた瑞希は晩餐に向けてウィミル城の厨房で仕込みをしていた。

 瑞希はドマルからペムイの苗をすでに取り付けたと聞き、さすがドマルと褒めたが、ドマルからも瑞希の知識が役立ったんだと褒め返す。

 加えて、本日の夕食の条件である乳製品とペムイの調和である。

 これに成功すれば、ヤエハト村で病の報酬として分けて貰ったジャル(醤油)がモノクーン地方でも手に入る様になると言われれば頑張らざるを得なかったのだ。


「ふふふ~ん」


「ミズキ、やけに楽しそうじゃな?」


「だってこの晩餐が上手く行けばジャルがキーリスに居ても手に入るんだぞ? それに、忘れてたけど、タープル村にだってジャルは必要なんだよ」


「うな丼に使うんですか?」


「その通り! 蒲焼にはジャルと砂糖は必須でな。これが揃えばいつでもうな丼が食べられる……早く食べてぇな!」


 瑞希はそんな会話をしながら、ホロホロ鶏の胸肉を叩き、ヨーグルトにジャルを少し混ぜて胸肉を漬ける。


「うぇ~……よーぐるとを料理に使うとは聞いていたがこうやって使うのじゃ?」


 シャオはホロホロ鶏もヨーグルトもどちらも好きなのだが、いざ二つを一緒に食べろと言われても気持ち悪さが勝ってしまう。

 チサもまた、ヨーグルト好きとして哀れみの目を向ける。


「……よーぐるとはそのまま食べたい」


「何言ってんだよ? これがヨーグルトの凄さだろ? そのまま食べても良い、料理に使っても良い、こうやって肉を漬けると柔らかくしてくれるしな。ヨーグルトは無事で良かったよ」


「料理が酸っぱくなりそうなのじゃ」


「この料理は元々酸味を足すから問題なし!」


「でもペムイはどうするんですか? ペムイのおかずですか?」


 シャオとチサに交じってサランも質問する。


「ふっふっふ。ペムイはこうやって使うんだよ!」


 瑞希は粉が入った袋を調理台に乗せる。


「これはミズキがヤエハト村で作ってたペムイ粉なのじゃ?」


「その通り! 俺の故郷では上新粉って言ってたけどな。シャオに甘い物でも作ろうと思ってたけど、作ってて良かったよ」


「甘い物じゃと!? 早く作るのじゃ!」


「今日のデザートに作るから待ってろって!」


 瑞希はモーム肉を取り出し、ステーキ用の厚さに切って、すり下ろしたパルマンに漬ける。


「しゃりあぴんすてーきなのじゃ?」


「今回はステーキ丼だ! すり下ろしたパルマンはそのままソースに使うけど、今回はジャルがあるからオニオンソースにするんだよ」


「……モーム肉は美味しいん?」


「あれ? 食べた事ないのか? 普通に焼いたら固いけど、こうやってパルマンに漬けたら柔らかくなるんだよ」


「ミズキさんの料理は本当に不思議ですね?」


「ミズキの魔法じゃな」


 瑞希は漬け込んでいる間に、メースとマク、鰹節と昆布の様な物で、濃いめの出汁を取る。


「……出汁のええ匂い」


「あまり煮込み過ぎても臭みが出るからこの辺で止めて……じゃあクリームソースを作ろうか」


「今日は鶏ガラスープは使わんのじゃ?」


「今日のテーマは和洋折衷なんだけど、どちらかと言えば和に寄せるんだ。だからクリームソースもメース出汁とジャルを使う」


「何を言ってるかわからんが、楽しみには変わらんのじゃ!」


「ミズキさん、そっちの食材は何ですか?」


「……それはエクマ。……ぷりぷりして美味しい」


「さっき執事さんにカエラさんが好きな食材を聞いたらエクマって言ってたから、城にあったのを使わせて貰うんだ!」


「食べた事もないのにいきなり使えるのじゃ?」


「食べた事はなくても見た事はある。というか、こっちでも愛されてるんだなって感心した」


「ミズキさんの故郷では何て言う食材なんですか?」


「これは海老って言うんだ。海老の中でも種類があるけど、バナメイ海老とか車海老に近いな。お子様ランチにも使うから早めに見つかって良かったよ」


 その言葉にシャオが食いつく。


「何じゃと!? はんばーぐだけではないのじゃ!?」


「それだったら唯のハンバーグじゃねぇか……お子様ランチは色んな料理の寄せ集めって言ったろ。その中でもハンバーグとエビフライは鉄板だな」


「えびふらいは食べた事ないのじゃ……食べたいのじゃ!」


「今日はペムイ料理だから駄目だ! 唯でさえ食べ切れないかもしれないのに……」


「そんなに作るんですか?」


「いや、量はそれほど作らないけど、ペムイ料理を指定されると炭水化物ばっかりになるからな……」


「……炭水化物?」


 ペムイが炭水化物と言われ、チサは言葉を繰り返しながら頭を捻る。


「炭水化物は、カパとかペムイに含まれているもので、体に入れるとエネルギーに変わる物だ。要は魔法で言う魔力みたいな物だよ」


「……やったらたくさんとっても良いやん?」


「けど魔力とは違って、体が必要とする以上に取ると余計な所に脂肪がつくし、別の病気にもなる。食事は色んな食材をバランス良く食べる方が良いんだよ。どの食材も食べ過ぎると毒だし、バランスよく食べる事は薬だ」


「……肉もペムイも野菜もそれぞれに意味はあるん?」


「そうだ。筋肉をつけたい人は肉を。でも肉は脂が多いと太る。太りたくない人は野菜を。でも野菜ばかり食べると体力がなくなる。体力をつけたい人は炭水化物を。でも炭水化物とか糖を取り過ぎるとこれも太る。だからこそバランス良く食べるのが健康には良いんだよ」


「……難しい」


「じゃあ脂を捨てて、肉も少な目にして、野菜ばかり食べて、程よくペムイを食べれば良いんですか?」


「ところがそうすると次は美味さを捨てる事になる。動物の脂や植物の油は美味いし、炒め物や揚げ物にする時に使うだろ? モーム乳にも含まれてるしな。だから毎食必死にバランスを心がける必要はないし、今日みたいにペムイに偏ったら、明日は炭水化物を控えるとかしてバランスを取れば良いんだよ。後は人の生活の仕方によっても食べる量、食べる物のバランスは違って来るしな」


「うぬぬ……話がややこしいのじゃ! 美味ければ良いのじゃ!」


「わははは。シャオの食事はきちんと考えて作ってるから安心しろ。俺と居る間はバランス良く食べさせてやるからさ」


「……栄養……おもろいなぁ!」


「まぁ人に合った食事を提供するのも料理人の仕事になるかな? 俺はバランスを考えて食事を作るのは自炊する時だけだし、外食する時はそこまで気にしないぞ? もちろん商売として店で人に料理を提供する時もだ。飲食店の第一前提は美味い事だからな」


 瑞希はそう言いながらも白菜に似たシラムとカマチ、ブナ茸を取り出しスープ用に切っていく。


「スープにもペムイを使うんですか?」


「これは野菜不足になりそうだからスープにするけど、どうせなら懐かしのモーム乳のスープにしようかと思ってな。同じ様な乳製品でもペムイが合わさるとこうなるって比較も面白いだろ?」


 瑞希はそう言うと、海老ならぬエクマを剥き、薄切りにしたパルマンと共にバターで炒めてカパ粉を加えてからモーム乳と出汁を加え、塩、胡椒とジャルで味付けて行くのであった――。

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