チサの才能
――マスギ家には昔魔法を使えた先祖が居た。
その先祖は水と土の魔法が得意だったため、それを利用しペムイの田園を魔法で作ったのだ。
しかし、魔族時代と呼ばれる時代に例外なく迫害を受けた先祖はその日以降、魔法の事はひた隠しにしていた。
そのためなのか、マスギ家では徐々に魔法が使える子も生まれなくなり、先祖が残した田園以外は人力にて広げて行ったのだが、チサが生まれた時だけは様子が違った。
チサをが生まれ出た時は深夜で、助産師が取り上げる時には雨が降り始めた。
チサの両親も助産師もその時は気にしていなかったのだが、翌朝、チサの親父が近所の家にチサが生まれた事を報告に出た時に、雨の事を話したが誰も共感をしてくれなかったのだ。
自分の家にだけ雨が降るとは不思議な話もあるものだ……と、深く気にせぬまま報告を終えて帰ってからチサを抱き上げると、手に少しだけ土が付いた。
母親は疲れ果てているため外に出る訳がない。
助産師に聞いても、母親に抱かれるか、そこで寝ているかしかしていないと言われる。
自分がどこかで土を付けて来てしまったかと、その時もまた気にしなかった……。
チサが這いつくばって移動が出来る様になってくると、家の中に土が落ちていたり水滴で濡れていたりする箇所が出てきたのでチサが何かしているのかと気にはしたが、外に出たり、水瓶を触ったりという事はなかった。
チサが言葉を発せれる様になると、おかしな事を言い出した。
体がこそばゆいだとか、その土の中に何か埋まっているだとか、雨が降りそうだとかだ。
もちろん流暢な説明ではなく、土とか、雨とか、単語で話すので、両親は意味がわからず、その後にチサが言っていた事に気付くのだ。
しかし、チサが流暢に話せる様になると徐々に変な事は無くなり、チサに聞いてもそんな事あったの? と本当に知らない様な顔をする。
今では魔法の存在は知っているが親父も、本人ですら魔法という可能性を失念していた。
親父は瑞希とシャオが魔法を使っている所を見た時に、詠唱をしていない事に気付いた。
普通の魔法使いは詠唱をして魔法を使うという事を噂で聞いていた。
ヤエハト村を含め近隣では魔法を使える者はおらず、噂で聞く詠唱をしなければ魔法を使えないという事で、チサの幼少時代の出来事は結びつかなかったが、二人を見た親父は一つの可能性に気付いた。
もしかすると、チサの幼少時代の出来事は魔法だったのではないのかと――。
「……うち、魔法使えるん?」
チサは親父に話を聞き返す。
「お前が小さい頃に雨が降るのを当てたり、土が部屋に入ってたりと変な事が多かったんや。瑞希達が魔法を使ってる所を見た時に、もしかしたらチサは子供の頃に魔法を使ってたんやないかと思ったんや」
「チサは魔法を意識すればそのうち使える様になるのじゃ」
二人の会話にシャオが混ざる。
「……ほんま?」
「お主、魔力を感じた事はないのじゃ?」
「……そんな記憶は無いけど……」
「じゃあ今からお主に魔力を流すのじゃ。その時にどんな感じがしたか言ってみるのじゃ」
シャオはチサの両手を手に取り、魔力を循環させる。
手を繋がれたチサは特に何も感じなかった様だが、少しすると身悶えし始める。
「……こしょばい!」
シャオはすっと手を離す。
「感覚は人それぞれじゃが、チサはそういう感覚なのじゃろう。慣れれば大丈夫じゃ」
「シャオはチサが魔法を使えるって知ってたのか?」
「魔法を使えるとまでは思っとらんのじゃ。ただ、魔力の循環が他の者より落ち着いていたのじゃ」
「俺は未だに魔力を感じてないけど……」
「ミズキは鈍いのじゃ。……まぁわしがいるのじゃからどうって事ないのじゃ」
シャオは気恥ずかしかったのか瑞希から顔を背けながら話すが、瑞希にはばっちり聴こえていたので、グリグリと頭を撫でる。
「……こしょばいの治った」
「お主の身体にわしの魔力を流しただけじゃからな。魔力を感じるという事を出来るのが第一歩じゃ」
「シャオちゃん! 私は使えないんですか!? 私もやって欲しいです!」
「やるのは構わんが、お主には多分感じられんのじゃ」
シャオはサランの手を取り、魔力を流す。
しかし、サランはいつまで経っても何も起きない事に肩を落とす。
「何にも感じなかったです……」
「じゃから言ったじゃろ? 魔力に気付けるのが才能なのじゃ」
「でもミズキさんだって魔力を感じれないって言ったのに……」
「ミズキは特別じゃ。その内魔力も感じれる様になる筈じゃ」
「うぅ……私も魔法を使ってみたかった……」
チサはシャオの話を聞き、自分の両手を見ながら感覚を確かめていた。
「チサが魔法を使えたからと言って危険な事には変わりませんよ?」
「せやからモノクーン地方でペムイを育て始めるまででもええ。育て始めたらチサにその村を手伝わしてくれても構わへん。チサが持ってる才能を開花させる事は俺には出来ひん。親としては子の才能を伸ばしたくなるもんなんや」
「ん〜……それはわかるのですが……」
「……じゃあうちはシャオにも弟子入りしたい」
「わしになのじゃ?」
「……魔法を使える様になりたい。これがあれば田園を広げるのも簡単になる。そうすればペムイをもっと作れる!」
「それだけなのじゃ?」
「……本当はミズキにも弟子入りしたい。この村を襲った病もミズキの知識を知ってればもっと早くに助ける事が出来た……でも先ずは自衛の手段がないとミズキが困る」
「俺も基本的な栄養学の知識しかないんだぞ?」
「……それでもうちより知っとるやろ?」
チサはにんまりと笑顔を見せながら答えた。
「ミズキ、頼む! チサの才能を伸ばしてやってくれ!」
瑞希は根負けしたのか大きく息を吐き出した。
「チサ、十二歳の子供とはいえ、旅に付いてくるなら子供扱いはしない。それと、俺の独断では決めれ無いからミーテルに戻ってからドマルと相談する。それで良いか?」
チサは大きく何度も頷き、サランもまた喜んでいた。
「良かったね〜チサちゃん! しばらくは一緒に居れるね!」
「……ふふ。サラン姉とも一緒」
サランはチサが可愛かったのかギュッと抱きしめながらはしゃいでいる。
「親父さんも旅に出すという危険さは重々承知して下さいよ?」
「わかっとる! ミズキは糠漬けが出来るぐらいまではこっちにおるんやろ?」
「そうですね。予想より発酵が早く進んでいるのであと三、四日ぐらいですね。その間はカパペムイとか糠とかで栄養を摂取して下さい。あと、明日にでも今日食べて貰った自然薯の事を教えますので村の方を連れて山に入ろうと思ってます」
「ほな朝にでも何人かに声をかけといて、昼過ぎにでもこの家に集まる様に言うとくわ!」
「ありがとうございます。じゃあ今日から少しだけ厄介になります」
「……シャオ、一緒にお風呂入ろ!」
「あ、私が髪を洗ってあげますよ!」
「ミズキも一緒に入るのじゃ!」
「あほかっ! さっさと入って来い!」
女子達はどたどたと居間から離れていくと、残された二人には奇妙な間が生まれる。
「……ミズキ……チサを相手するんは成人になってからにしてや?」
「あほかっ!」
夜のマスギ家には大笑いする声が木霊する。
瑞希は頭を抱えながら親父に薦められた酒を口にするのであった――。
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