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ペムイの苗の条件

 話が長くなりそうな状況に、シャオは我関せずと言わんばかりに食事を続ける。


「……おとん。話は後や。せっかくミズキが作ってくれた料理が冷める」


「おぉ。悪い悪い! 話は後にしよか! この汁はそっちの野菜に使うんやったな?」


「あ、はい! 少し濃いめの天つゆにしたので、ペムイにも合いますよ」


 親父は箸を手に持ち、椎茸のようなブナ茸を天つゆに付けてから口に運ぶ。


「これも美味いな! ブナ茸なんか、煮たり焼いたりぐらいしかせんかったけど、この天ぷらってのもほんま美味いわ!」


「今日は野菜天ぷらだけですけど、魚介類を揚げても美味しいですし、ペムイだけじゃなく、ペムイ酒にも合いますよ」


「ほんまか! そら確かめてみんとな! チサ、酒持ってきてや! ミズキも飲めるやろ?」


「……一杯だけやで?」


「ミズキも飲み過ぎはいかんのじゃ」


 チサはため息を吐きながら、ペムイ酒を取りに席を立つ。

 瑞希と親父は苦笑いしながらお互いの身内の注意を受ける。

 間もなくチサが運んできたペムイ酒が二人の元に置かれる。

 親父は口が広い徳利の様な形をした入れ物に入ったペムイ酒を手に取り、瑞希に注ぎ、瑞希は注がれたペムイ酒の香りを嗅ぐ。


 ふわっと香る花の様な甘い香りを感じると、そのまま口をつけ口の中で転がす。

 甘味が口に広がり、しっかりとした酒精の味わいが鼻から抜け、ごくりと飲み込むと喉が熱くなり、腹の中がぽっと熱くなり酒の花が咲いた様な気がした。


「やはり美味いですね」


「ペムイ酒も故郷には在ったんか?」


「はい! こちらでは日本酒と言って、米から作る故郷が誇る酒です。料理にも使いますし、様々な日本酒が有りました」


「そうかそうか! ミズキの言う通り、天ぷらと合わせて食うと美味いな!」


「ペムイに合うのは、ペムイ酒に合わせても美味いですからね!」


 大人二人が酒盛りをしている横で、シャオはむかごの塩茹でを口にして、懐かしい味に想いを馳せる。


「……くふふ。懐かしい味じゃ」


 ヤエハト村での晩餐もまた楽しげに終えていく。

 晩餐を終え、シャオとサランはむかごを使い、チサの監督の元、箸の練習をしている。

 瑞希達は食後の茶を飲みながら、親父が先程の話を再び口にする。


「ペムイの苗やけどな……瑞希は育てた事はあるんか?」


 当然瑞希にはそんな経験は無い。

 生まれた時から金を出せば精米を購入出来たし、田舎暮らしをしていたとはいえ祖父も田園は持っていなかったのだ。


「それは……無いですね……そうか、苗を貰っても育てる方法がわからないのか」


「それに加えて今年の収穫は終えてるから、ペムイを作るとしても来年からやな。まぁそれまでに田を作るとか、水を引くとかせんとあかんから丁度ええけどな」


「モノクーン地方でペムイを食べれるのはまだまだ先か……」


 瑞希は露骨に落ち込む。


「ペムイが育てられる様な所はあるんか? うちみたいに川から水が引けたりせんと無理やぞ?」


「……それって大きな湖でも大丈夫ですよね?」


「まぁ問題無いな。どっか候補があるんか?」


「もしかしてタープル村ですか?」


 二人の話を聞いていて、瑞希の考えが分かったのかサランが手を止め、二人に口を挟む。


「タープル村なら水もあるし、シームカのせいで漁を続けるだけではと、不安視した人もいると思うんだよ。それにシームカのおかげとも言える料理も作れるだろ?」


「シームカとペムイ……うな丼ですね!」


「そう! シームカはどうしても捌くのが難しいからな、そのまま売りに出すのは難しいかも知れないだろ? ならペムイまで作ってタープル村に、うな丼を食べに来る客を呼べば良いんじゃないかと思ってな。もちろんペムイをモノクーン地方で流通させるにはどんどん田園を広げなきゃ駄目だから、そこら辺のさじ加減はバランさんに丸投げするけどな。俺の仕事は苗を手に入れるまでだからな。でも、提案するぐらいは出来るよな!」


「うちの村をそこまで考えてくれてたんですね! うふふ。ミズキさんの最近の私の扱いは許して上げます!」


 サランは上機嫌に瑞希の提案に納得するが、瑞希がサランを雑に扱うのはこれからも止めない予定だ。


「ほな、場所はどうにかなるとして、後はペムイの育て方やな……うちの領主からは許可貰ってるんか?」


「いや、それはまだなんですよ。一度ミーテルに戻った時も急いでたので、こちらの状況を伝えてカパを集めて貰っただけです。ただ、俺の友人の事ですからどうにかしてますよ!」


「俺もミズキならペムイを渡したいしな! 少なくとも苗は渡せんくなっても、お前等が食べる分ぐらいは分けたるから安心せい!」


 瑞希はそれはそれで良かったと思い、胸を撫で下ろしていると、シャオは徐々にコツを掴んだのか、箸捌きが上手くなって行く。


「ミズキ! どうじゃ!? もうむかごも掴めるのじゃ! ほれほれ!」


「おぉ上手い上手い! 糠漬けが出来るぐらいまではここにいるから、その間には使いこなせそうだな!」


「くふふ。ウォルカに戻ってからのお子様ランチが楽しみなのじゃ〜!」


「……シャオはお子様なん?」


「ち、違うのじゃ! そういう料理名なのじゃ! わしの大好物も入ってるのじゃ!」


「……シャオの好物……うちも食べてみたい!」


「こっちには材料が無いのじゃ。それに瑞希はウォルカで待つ二人にも作ってやりたいみたいなのじゃ」


「……うちも食べたいなぁ」


 チサがシャオとの会話で落ち込んでいると、親父がその姿を見て瑞希に相談を持ちかける。


「ミズキ、チサの事なんやけどな……ミズキの元で色んな事を見せたってくれへんか?」


「……え?」


 親父の言葉に一番驚いたのは当の本人であるチサだ。


「正直、チサは婿を取ってこっちでペムイを育ててくれたらええと思ってたけど、今回の病の件でそうやないって事が分かった。今後の村の事を考えたらここだけしか知らんってのも考えもんやと思ったんや」


「でも流石に子供を連れてくのは……」


「……え!?」


 チサは再び瑞希の言葉に驚く。


「……ずるい! シャオは私よりちっさいのに!」


「あほ。シャオはこの中で一番強いぞ? むしろ俺がシャオを頼ってるぐらいだ」


「くふふふ! その通りじゃ!」


 シャオは瑞希に頼りにされてるのが嬉しいのか、ふんぞり返って笑顔を見せる。


「……サランは強くないやろ?」


 チサも諦めきれないのかサランを引き合いに出して食い下がる。


「サランはこの旅迄だよ。ウォルカに戻れば料理店で仕事がある」


「……そうなんサラン?」


「そうだね。名残惜しいのが本音だけど、私の雇い主は別の方だからね。私はミズキさんに習った事をそのお店で実践するんだ」


 サランは笑顔でチサに答える。

 親父は瑞希とサランの話を聞きながら考え込む。


「……チサに魔法の才能があるかもしれんねんけど、魔法が使えたらどうや?」


 親父の何気ない一言に、話を聞いていたシャオ以外の面々が驚く。

 チサ自身もそんな話は初めて聞いたので、身を乗り出し親父に問い詰めるのであった――。

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