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カパペムイととろろ汁

 夕食時の居間のテーブルにはいつもと違い、ずらりとおかずが並んでいる。

 瑞希も久々のしっかりとした日本食に心躍りながら、チサからカパを混ぜたペムイ、すなわち麦飯ならぬカパペムイを受け取り手を合わせた。


「野菜天ぷらは塩か、こちらの天つゆに付けて食べて下さい。マグムは塩がオススメです! それでは頂きまぁす!」


 親父とチサはまずカパを混ぜたペムイから口を付ける。


「……ペムイだけの方が美味しい」


「せやな……どうしてもカパの食感が邪魔に感じるな。これも糠漬けが出来たらペムイだけで食べてもええんか?」


「はい! カパの栄養素の代わりに糠漬けで摂取できるので、それまでの我慢です! カパペムイが食べづらかったらこちらのとろろ汁をかけてずるずるっと食べて下さい。このとろろ汁も脚気には良いですよ!」


 親父とチサはとろろをかけてカパペムイを啜る。


「……あれ? 美味しい!」


「このとろとろした汁がカパの食感を軽減するんか! それに出汁が効いてて美味いし、これならするっといくらでも入るわ!」


 親父とチサがとろろ汁に驚いていると、サランはマグムの天ぷらを何とか箸で掴み、塩を付けて食べる。

 サクッとした衣の中からは甘く、ホクホクとした食感が現れ、塩を付けた事により甘みが引き立つのだ。


「美味しいです! すっごく甘いですね! ……でもこれはおかずというより……おやつ?」


「わはは。俺もそう思う! 芋の天ぷらって美味いんだけど、ペムイは進まないんだよな!」


「わしはこっちの唐揚げが食べたいのじゃ!」


 シャオも何とか箸で掴もうとするが、皿の上でコロコロと掴み損ねる。

 やきもきしたのか箸で突き刺そうとしたので、瑞希に止められ、瑞希に手を支えられながら何とか口に入れる。

 カリッとした衣の中からはじゅわっと肉汁が溢れ出し、はふはふと口の中で肉を転がす。

 噛み締めると、しっかりと味の付いた肉と、香味料の香りが鼻から抜け、シャオは思わず茶碗を手に持ちペムイを口に含み咀嚼して飲み込む。


「思わずペムイを口に入れてしまったのじゃ! 唐揚げはペムイが進むのじゃ!」


「だよなっ! こういう味はペムイが進むんだよ!」


 親父もシャオに習い唐揚げを箸で掴み、しげしげと眺める。


「これはミズキが持って来たんか? 何の肉や?」


 親父の質問に箸を進めていたチサとサランの手が止まる。

 二人は既に蛙肉を食べていたので、今更感があるのだが、知らない人は怒り出すのではないかと考えている内に親父が口に入れる。


「うおっ! なんやこれっ!? めちゃくちゃ美味いやんけ! こら確かにペムイが進むわ!」


「間違いないのじゃ! ミズキ、もう一個食べたいのじゃ!」


「次は自分で頑張れよ。箸は挟む物だから突き刺したりしちゃだめだぞ?」


「ぐぬぬぬ……取れたのじゃ!」


 シャオは嬉しそうに二個目の唐揚げを口に運び、ペムイも口に入れ、幸せそうに咀嚼する。

 親父が唐揚げを口にした事により、何肉かという事が流れてほっとしていたチサとサランも唐揚げを食べようと手を伸ばした所で、再び親父が質問する。


「こんな美味い肉があるんやな~、聞きそびれたけど、何の肉や?」


「あぁそれはヤエハト村に向かう途中に襲って来た魔物の肉ですよ!」


「ここら辺の魔物……食べられる魔物なんかおったか? こっちに来る途中って事はチサはその魔物見たんか?」


 矛先はチサに向けられ、チサの目が泳ぐ。

 サランは頑張れという念をチサに送ったのが効いたのか、チサが重々しく口を開く。


「……た、田んぼの周りでたまに見る奴……」


「田んぼの周りで? そんな食えそうな奴おったか? あの気色悪い奴やったらわかるけどな! さすがにそれやないやろ?」


「……それ」


「チサも冗談言う様になったんか? 俺が言ってんのはあのぴょんぴょん飛ぶ奴やぞ?」


「……だからそれ」


「これはビッグフロッグの肉なのじゃ! 美味いのじゃ!」


「……嘘やろ!? 食うてもうたぞ!? ……嘘やろ?」


「……ほんま。ミズキが料理するとこうなる」


 チサはそう伝えながら唐揚げに手を伸ばし、口に入れる。

 串焼きで食べた時よりも衣により肉汁が閉じ込められているため、チサはにんまりと笑いながら咀嚼する。


「……あかん。これは美味いわ」


 いつの間にやら唐揚げを食べていたサランも便乗する。


「串焼きも美味しかったですけど、これも美味しいですね! これで店を出したら絶対流行りますよ!」


「俺の故郷にはそういう店もあるぞ? 唐揚げ専門店もあるし、食べ歩き出来るように串に刺してる店もある。これが店によって味が違うから面白いんだよ」


 親父は瑞希の言葉を聞き、箸を置く。


「お口に合いませんでしたか?」


「いや、めっちゃ美味いで。あれがこんなに美味いのにも驚いたんやけど……ミズキ、聞いてええんかわからんのやけど……お前の故郷ってどこや?」


「えっ?」


「ペムイを扱ってるんはこの辺だけやと思ってるんやが、ミズキはペムイ……米か? それを熟知しとるやろ? 後はこの箸や。マリジット地方でもこれを使って飯を食う奴は少ないんや……ミズキは恩人やし、言いたくないんやったら別に聞かんけどな」


「別に言いたくない訳ではないのですが……信じて貰えない様な話ですよ?」


「今更お前を疑うかいな。それにどこの生まれかってペムイを大事にしてくれる奴に悪い奴はおらんやろ?」


 親父は瑞希の言葉を豪快に笑い飛ばす。


「そうですね……ここで出会えたのも何かの縁ですしね。俺の故郷は日本と言う所です」


「にほん? 聞いた事無いな? どこの地方にあるんや?」


「ここの世界にはありません。俺は別の世界から来たみたいです」


「……えっと……待て待て待て。……ほんまか?」


「本当です。だからこそ俺の知ってる食材に似てるペムイを扱う事も出来るんです」


 瑞希は自分の置かれている現状を説明する――。

 瑞希の話を聞いたチサは納得する。


「……やからか」


「こっちで知り合ってお世話になってる人にしか言ってませんけどね。今では俺の友人ですが、その友人にも初対面の時は【竜の息吹】に当てられたんだと泣かれましたよ」


「ほな、お前こっちには故郷とか家族はおらんのか?」


「居ませんね。元々故郷でも親や祖父母も亡くなってたのであまり気にしてませんけど……しいて言うなら米とか醤油、こっちで言うペムイやジャルなんかは恋しかったですが」


 瑞希は笑いながら説明を続けた。


「それに今はシャオっていう妹も居ますし、ペムイやジャルにも出会えた。仕事もありますし、こっちで知り合った人は良い人ばかりです。なぁシャオ?」


 瑞希はシャオの頭を撫でる。


「くふふ。世話のかかる兄なのじゃ」


「口元に米粒付けながら言われるとどっちが世話がかかるかわかんねぇけどな?」


 瑞希はそう言いながらシャオの口元についたペムイ粒を取る。

 シャオから視線を戻すと親父はボロボロと泣き始めていた。


「お前はよぉ~……何でこう俺を泣かすねん!」


「泣く所ありましたか?」


「お前の故郷がこっちに無いんやったらここを故郷にしたらええぞ!? ここにはペムイもジャルもある! ミズキやったら俺ん家に住んでもええんやぞ! なぁチサ!」


 チサは突拍子もない親父の言葉にうんうんと頷く。


「駄目ですよっ! ミズキさんは私の師匠なんですから! これからもお仕事があります!」


「そんなんこっちでやったらええやんけ! どや? ミズキ?」


「わははは。ヤエハト村は懐かしくも感じますけど、俺は折角ですから色々な所に旅に行きたいんですよ。友達も行商人をしてますし、どこかで店を出す事になったら親父さんの力も借りたいですけど」


「なんぼでも貸したるわ! 俺に出来る事があったら言うてくれ!」


「本当ですか!? じゃあペムイとジャルを分けて下さい!」


「あの魔物をこんな美味い物にしてくれる奴やったら安心して渡したるわ!」


「あと、順番が前後するんですが、ペムイの苗も頂けませんか?」


「……ペムイの苗か」


 瑞希の身の上話を聞き、瑞希の料理を認め、瑞希の為に力を貸すと言った親父はペムイの苗と聞き、難色を示すのであった――。

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