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病の原因と治し方

 瑞希は親父を落ち着かせ、縁側に座らせると説明を始める。


「まずペムイに原因があるとは言いましたが、ペムイ自体には何の問題もありません。実際に食べましたが非常に美味しく頂けました。問題は食べ方です」


「食べ方? せやけど俺等労働者はあれぐらい食べへんかったら力が出んのや」


「そうですね。畑仕事は力が入りますから、食べる量も問題ないです。問題なのはオカズの少なさです。チサは前のペムイが美味しく無かったって言ってたよな?」


 チサは頷き返事を返す。


「俺の故郷ではペムイの事を米と呼び、今日食べたペムイの事を精米と言い、その前の段階の物を玄米と言います。チサが美味しくないと言ってるのは玄米の状態のペムイじゃ無いでしょうか?」


「兄さんの言う通りや。ペムイを美味く食べる方法がないかを探して精製する事を見つけたんや。でもそれが何で脚気の原因になるんや?」


「実は米は美味しく食べるために精米すると栄養素が抜けるんです。もちろん白米にも必要な栄養は充分にあるのですが、一つの栄養だけに偏ると人間の身体は上手く機能しません。玄米の状態ではたくさん食べるのも難しいかもしれませんし、問題は玄米の時に存在していた栄養が病になった人からは欠乏してるんです」


「栄養? 腹が膨れればそれでええんやないんか?」


「細かい事は省きますが、人間の体はそこまで単純には出来ていません。ペムイを大量に食べるのは構わないのですが、ビタミンが……ビタミンB1が取れる食材が必要です。脚気が流行る前に主食にしていた食材は無いですか? 玄米の状態で食べてましたか?」


「……玄米も食べてたし、たまにトーチャを食べてた」


「トーチャ? どんな食材だ?」


 チサは指で大きさを表しながら瑞希に説明をする。


「……これぐらいの黄色い豆。煮たりして食べる」


「おぉっ! 大豆か! 大豆もビタミンB1は取れるしそれを食べても良いですね!」


「……いや、ペムイの田を広げる時にトーチャの畑は減らしてしもた……他に方法は無いんか?」


「後はさっき言ったペムイを使う方法です。正確にはペムイを精製する時に出る糠を使います」


「ぬか? あの抜け殻が脚気を治すんか?」


「さっきも言った様にしばらくは我慢して玄米を食べて貰うか、オーク肉やトーチャ等の別の食材を食べて貰うのが最速で出来る対処です。もちろん薬代わりにその糠を水で流し込んで飲んで貰っても良いです」


「別の食材か……しかし病人に肉が食えるとは思えへん……薬と言って糠を飲ますのが一番早いな」


 黙って話を聞いていたシャオが手を上げて瑞希に質問をする。


「サランはまだしもチサが脚気になって無いのは何故なのじゃ?」


「チサは俺達と旅をした時にこっちの食事と全然違う食事をしてたしな……カパを使ったパンも食べてるし……あ、シームカも俺の知ってる鰻と成分が一緒ならビタミンB1が豊富な筈だ!」


「その食材はどこで手に入るんや!?」


「私の生まれた村ですが……ここからかなり遠いです……」


「シームカよりもカパだな! とりあえず親父さんは村の人に玄米を食べるか、糠を飲むかさせて下さい! 私はチサに糠漬けの作り方を教えたらミーテルに戻り領主のカエラさんにカパの調達をお願いしてみます!」


「……糠漬けって何?」


「ここから料理人としての傲慢なのですが、親父さんの作る米……ペムイは美味いです。でもそこにカパを混ぜたり、玄米を食べたりするんじゃなくて、病が治ったら白米を美味しく、それでいて健康の為に必要な食材と一緒に食べれるオカズを伝えて欲しいんです。それに糠漬けなら病人でも食べれますので」


「そんな魔法みたいな料理があるんか!? せやな……俺も白いペムイを今までみたいに食べたいわな!」


「じゃあチサ、ペムイを精製する時に出てくる粉を集めて持って来てくれるか? 蓋の出来る壺があればそれも欲しい」


「……わかった!」


 チサは駆け足で瑞希に頼まれた物を取りに行く。

 説明を聞いた親父は瑞希に頭を下げる。


「チサが兄さん達を連れて来てくれてほんまに助かった。このままやったら俺等は死んでまう所やった!」


「ちょちょちょ! まだ何も解決してないんですから頭を上げてください!」


「いや、病の実態を知れただけでも俺等からしたらすごい前進なんや! この御礼は絶対させて貰う!」


 瑞希は少し考え込み、親父に返答する。


「そうですね……じゃあ病気が良くなったらペムイを分けて貰えませんか? 苗を頂くのが今回マリジット地方に来た理由なのですが、それはカエラさんを私の友人が説得してますので、個人的に精製したペムイを分けて貰えると嬉しいです。妹に作ってやりたい料理がいっぱいあるので」


「そんな事で良いのか? 金でも良いんやで?」


「金はいつでも稼げますが、ペムイは親父さんからしか貰えませんからね。こちらからもお願いします。美味いペムイを分けて下さい」


 瑞希は親父に頭を下げる。


「そんなんせんでもなんぼでもやるわ! それに兄さんは俺らよりペムイを上手く炊けるからな! 兄さんやったら安心してペムイを分けたれるわ!」


 チサが壺と糠を持って戻って来る。

 瑞希の前に荷物を置くと、慌てて居間にある湯飲みを手に取り親父に手渡す。


「……はよ糠を飲んで」


「兄さん……ほんまにこれで治るんやろな?」


「大丈夫です……大事なのは必要な栄養を摂取する事なので、玄米ではなく白米を食べ続けるならなるべく飲む様にはして下さい。糠漬けが完成したらそれを食べる様にすれば一先ず安心ですから」


 親父はチサが持って来た糠を手に乗せると口に入れお茶で流し込む。


「パサパサや……これはキツいな……」


「薬だと思えば大丈夫ですよ。とりあえず重病な人には早く知らせてあげて下さい。親父さんの言葉なら皆さん信用すると思いますので」


「わかった! ほな行ってくるわ!」


 親父は足を引きずりながら移動をし始める。


「サラン……「わかりましたっ! 糠漬けの作り方は私にも教えて下さいよ!」」


 サランは瑞希が言おうとした事を理解したのか、親父に駆け寄り肩を貸す。

 その姿を見て瑞希はサランの理解の早さに微笑む。

 チサもまた安心したのか、瑞希に視線を戻す。


「じゃあ今から糠漬けを作り始めるからとりあえずは厨房に運び込もうか!」


 縁側に残された三人は荷物を持つと、脚気を治す料理、糠漬けを作るために厨房に移動するのであった――。

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