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ペムイの炊き方と卵焼き

 瑞希の目の前に置かれた山盛りの米に似たペムイに瑞希のテンションは最高潮に達する。


「やっぱり米だっ! チサっ! この病が多分わかったぞ!」


 ペムイの正体を見た瑞希は思わず大声を出してチサに断言する。


「なんや急に? 冗談でうちの娘を騙すつもりか?」


「いや、これまでの話を聞いていて、故郷の昔話を思い出してたんですよ! すぐに治せる物じゃないですが、どうにかはなりそうです! とりあえず今はペムイを食べても良いですか!?」


 チサは瑞希の服を軽く引っ張る。


「……ほんまに治るん?」


「大丈夫……だと思うけど、治すために必要な物は食事だよ。まずはペムイを食べて、予想を確信にするところからになるけどな」


 瑞希は笑顔でチサの頭を撫でる。

 チサは嬉しそうな顔で泣き出すと、瑞希は慌ててハンカチを取り出す。


「……おとん治るんや」


「チサ、話は飯を食うてからや。せやないとこの兄さんも確証が持てへんやろ……せやけど、ペムイが毒とか吐かす様やったら覚悟せぇよ?」


「そんな事言うわけないでしょ! じゃあ頂きます!」


 瑞希は手を合わせ、箸を手に持ち米とそっくりな山盛りのペムイにがっつく。


「美味ぁい! チサ! 上手に炊けてるよ!」


 ガツガツと飲む様にペムイを減らして行く瑞希に呆気を取られつつも、サランとシャオは目の前に置かれた箸が使えずにいる。


「おかわりっ! ってどうした二人とも?」


「箸が使えんのじゃ……」


「何でそんな器用に使えるんですか?」


「そりゃこっちの方が使い慣れてるからな。ほら、こうやって持つんだよ」


 瑞希はチサにおかわりを入れて貰った食器を受け取り、二人に箸の持ち方を教える。


「ミズキが料理で使ってるのは見てたのじゃが……難しいのじゃ!」


「私も難しいです!」


「まぁそうだよな……じゃあおむすびにしようか。チサ、少し厨房を借りて良いか? 出来れば案内して貰えると助かる」


 瑞希とチサはペムイを持って席を立つ。

 わずかな時間で直ぐに戻って来た二人は、シャオとサランの前に三角形に握った塩むすびを置く。


「塩を使った塩むすびだけど、これなら手で持ってそのまま食べれるだろ?」


 シャオは嬉しそうに大きなおむすびを手で掴むとかぶりつく。


「もちもちとして、ほのかに甘いのじゃ! こっちの魚はどうなのじゃ?」


「それは多分めちゃくちゃ塩辛いからちびちび食べろよ? この汁もほっとする……これは魚の出汁だよな?」


「……魚を乾燥させた物を一緒に煮込んだ」


 瑞希が喜んでくれているのが嬉しいのか、チサは料理の説明をする。


「お前何で食いもしてへんのに、この魚の味がわかったんや?」


「この辺って山が近いでしょ? 川で魚が取れるとも思いますけど、この魚は硬そうですしね、塩漬けして日持ちしやすくしてミーテルから運んだ物かと思ったんですよ。それに塩辛い方がペムイも進みますしね」


 瑞希はちょびちょびと魚をつつきながらペムイをがっつく。


「ええ食いっぷりやな。なんやそこまで腹減ってたんか?」


「いや、ペムイが美味くて美味くて……」


「嬉しい事言うてくれるやないか? 嬢ちゃん達はどうや?」


 サランとシャオは美味いとは思うのだが、日々食べている瑞希の料理に比べると見劣りする様に感じている。


「ミズキが調理したら美味いと思うのじゃ」


 シャオはおむすびを頬張りながら率直な感想を答える。

 その言葉に親父がぴくりと反応するが、チサはシャオの言葉に頷く。


「なんや? お前までそう思うんか? よそ者のこいつがペムイを扱える思っとんのか?」


 シャオやサランはもちろんチサまで頷く。


「……ほんならペムイを炊いてみろや。それができたらお前の言う病の話も信じたる」


「……ミズキ、お願い」


「それは構わないけど、時間かかっても良いか? どうせなら美味いの炊きたいしな! シャオ手伝ってくれ!」


「わかったのじゃ!」


 チサは厨房に案内すると、ペムイを渡し、後ろ髪を引かれる様に厨房を後にしようとするが、瑞希に呼び止められる。


「あっチサ! ペムイを食べ慣れてないシャオ達にもう一品作ってやりたいんだけど、卵とジャルを貰っても良いか?」


「……ええけど何作るん?」


「簡単な卵焼きだよ。ちょうどチサが作った汁物が良い出汁が出てるからな。二種類の卵焼きを作るよ」


「……うちも食べたい」


「……じゃあ大き目の作るか。チサ、丁度時間もかかるから居間に戻ったらサランに箸の使い方を教えてくれるか? こっちはシャオに教えとくからさ」


「……わかった」


 チサはニッと笑うと卵と出汁の場所を教えて厨房を後にする。


「じゃあまずはペムイから行きますか。炊くのは土鍋なんだな……三合……いや五合ぐらい炊いて余ったらおむすびにするか……シャオ水をくれ」


「良いのじゃが、そこに水瓶があるのじゃ」


 シャオは瑞希に魔法で水球を出す。

 瑞希はその水を使い、ボウルの中で米を研ぎ始める。


「そりゃシャオの水のが美味いからな……うん。ちゃんととぎ汁も出るし見たまんま米と一緒だな」


 瑞希は何度か水を入れ替え、ペムイをそのまま水に浸けておく。


「水に浸けておくとさっきみたいにもちもちになるのじゃ?」


「この後土鍋に移し変えて火にかけるんだよ。土鍋は水を吸いやすいから水に浸けっぱなしは良くないんだ。じゃあその間に卵焼きを作ろうか」


 瑞希は二つのボウルに卵を割り、片方はジャル、出汁、自前の砂糖と塩を入れる。

 もう一つには出汁を多目に入れ、ジャルを少し入れる。


「ジャルってカパだけで作ってるのか、白醤油みたいなんだよな。大豆って無いのかな?」


 瑞希はシャオに箸とボウルを渡すと、箸の使い方を教える。


「そうそう。とりあえずはその持ち方を意識して卵を混ぜてみてくれ。慣れて来たらこうやって指先で箸を開ける様になるから」


「む、難しいのじゃ……」


「箸が使える様になったら御褒美にウォルカでシャオとキアラにお子様ランチを作ってやるよ」


「誰がお子様じゃ!?」


「あははは。ペムイがあるなら作れるんだよ! ……いや待てよ……キアラの店なら大人のお子様ランチみたいなアレも作れるか……平打ち麺なら作れるし……」


「……それは美味いんじゃろうな?」


「ん? あぁ、お子様ランチは料理名なだけで、色んな料理の寄せ集めだ。ハンバーグも入ってるぞ!」


「なんじゃと!? すぐに作るのじゃ!」


「シャオが箸を使える様になった時のご褒美にな! じゃあそろそろペムイを土鍋に移して炊いて行こうか! シャオ、中火で火を出してくれるか」


 瑞希は土鍋を竈に設置すると、シャオが魔法で火を出し熱していく。


「後は土鍋が沸騰してきたら弱火にして、パチパチって音がして来たら火を消して蒸らしたら完成だ」


「沸騰させるなら強火で良いのじゃ?」


「土鍋は火が伝わり難いから中火で大丈夫なんだ。そのかわり冷めにくい特徴もあるからな。次は卵焼きと出汁巻きを焼いて行こう」


「焼き方が違うのじゃ?」


「勝手なイメージだけど、卵焼きは二回ぐらいでささっと焼くけど、出汁巻きは出汁が多いから薄く何回も焼くんだよ。まぁ見てろって」


 瑞希は手早く卵焼きを焼いて行く。


「おむれつともまた違うのじゃな」


「卵を焼くだけなのに色んな料理名に変わるのが面白いだろ? 次は出汁巻きだな。その前に土鍋の方は弱火にしてくれ」


 シャオが土鍋の火力を調整すると、瑞希は別の竈で出汁巻きを焼き始める。

 卵を巻いては卵液を足して再び巻いていく。


「綺麗にまとまっていくのじゃな!」


「出汁巻きは焼き過ぎると巻きやすいけど、パサつくし、逆に早く巻くと固まってないから崩れたりするんだ。この辺は慣れだな」


 瑞希は二つの卵焼きを皿に乗せ、少し落ち着いてから切り分け、シャオに断面を見比べさせる。


「卵焼きも確かに層にはなっておるが、出汁巻きの方は断面が重なっててより綺麗なのじゃ!」


「この層の違いは巻いた回数の違いだな」


 ペムイを入れた土鍋はパチパチと音がし始めてくる。


「よし。シャオ、火を消して後片付けしようか」


「了解なのじゃ!」


 二人は並んで洗い物をする。

 火が止められた土鍋からは炊き上がりの香りが漂うのであった――。

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