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チサの家とペムイの正体

 チサの家に歩いて行くまでに見た風景は既に収穫を終えたであろう田畑である。

 ミーテルから方角で言えば北に位置するヤエハト村は、海から遠ざかり山から流れる川の近くであり、その水を農作物に使っているのであろう。

 瑞希はその光景を見ながら一人考え事をしていた。


「どうしたのじゃ?」


「昨日食った魔物が居ただろ? この辺は湿地だろうからああいう魔物が出たのかと思ってな」


「くふふふ。美味かったのじゃ! 早く瑞希がちゃんと調理したのも食べたいのじゃ!」


「もう昼近くだし、朝は食べずに急いだから腹減ったな」


「もうっ! 呑気に食事の事を考えてないでチサちゃんを助ける事を考えてくださいよ!」


「そうは言っても俺は回復魔法を使うぐらいしか出来ないしな……それよりこの病は足に来る病かな? 親父さんもチサに支えられてるとはいえ歩き辛いみたいだし……肩を貸そうにもよそ者に借りれるかって怒られたしな」


「足から来る病なのに、治らないんですよね? ミーテルでは出てないってカエラ様は仰ってましたし……」

 瑞希達が雑談をしていると、一軒の大きな家に到着する。

 家とは別に倉みたいなものもあり、農作物を刈るための道具も並んでいる。


「着いたで。事情は中で聞かせてもらおか。チサ、案内したれ」


「……こっち」


 瑞希はチサに引っ張られると家の中に案内される。

 チサは玄関に置いてあった水桶と布を持って来て瑞希達に渡す。


「なんじゃ?」


「靴を脱いで入るんだろ?」


 チサは頷き、瑞希達は靴を脱ぎ足を拭く。


「何でわざわざ靴を脱ぐのじゃ?」


「そりゃ畑仕事をしてたら靴が土で汚れるだろ? そのまま家に入ってたら家の中が泥だらけになるだろ。はぁ、開放感と懐かしさが出て来るな」


 瑞希が靴を脱いで漏らした言葉にチサは首を傾げる。


「何で懐かしいんですか?」


「うちの爺さんの家もこんな感じでさ、畑も持ってたから似た様な事してたんだよ」


「その爺さんは元気なのじゃ?」


「俺がミミカぐらいの時に亡くなったよ。それで俺は街の方に引っ越したんだ」


「そうなのじゃ……」


「まぁ今はシャオって家族もいるから気にすんな」


 瑞希はシャオの頭を撫でる。

 その言葉にシャオは嬉しそうに笑みを返す。


「その通りなのじゃ! ミズキとわしは家族なのじゃ!」


 二人の微笑ましい光景をよそに、チサが奥から手招きをする。

 案内された部屋は広く、瑞希からすれば懐かしい手触りの畳の様な物が敷き詰められていた。


「畳があるのか!? いやでも少し手触りが違うな……」


 瑞希が先頭でしゃがみ込み畳を触りながらぶつぶつと何やら呟いているため、後ろにいるシャオが早く行けと促す。


「何や? ワラサを知っとんのか?」


 部屋で座っていたチサの親父が瑞希に話しかける。


「ワラサって言うんですか? 似た様なのを知ってますけどミーテルでもこんなのは見ませんでしたから気になってしまって……」


「この辺でしか使てないからな。ミーテルの方では素足になる習慣も無いやろ? それよりお前等の事を聞かせてもらおか……」


「チサは私達の旅の道中に行き倒れていましたので、事情を聞き旅の同行をしていました」


 瑞希は正座の姿勢で座り、テーブルを挟んだ向かいに座る親父に説明を始める。

 シャオとサランも瑞希の座り方を真似して瑞希の横に、瑞希を挟む様に座っている。


「そうか……まずは娘を助けてもろた事に礼を言う。それはほんまに感謝や」


 親父は瑞希達に軽く頭を下げる。


「ただチサはあかん。あんな書置きだけやったら心配するに決まっとるやろ!」


 チサは二人の間、下座の位置に座っているのだが、顔を伏せ親父の言葉にびくりと肩を震わせる。


「チサちゃんだって皆を救おうと必死でっ……!」


 サランは怒鳴られるチサの擁護しようと会話に口を挟むが、親父の怒りは治まらない。


「必死やったら許される訳やないやろ? こいつはまだ十二歳や! そんな子供が急におらんくなったら誰でも心配するやろ!?」


「それは……そうですが……でも、チサちゃんだって村を心配して!」


「心配してくれるのはありがたい。この病は死人も出とるからな。せやかて何も一人で行かんでもええやろ!?」


「……はよせなおとんも死んでまうやん……」


 チサはぼそりと言葉を漏らす。


「……おかんはこの病と関係ない事で亡くなったけど、おとんがおらんくなったら一人になってまう」


 チサの言葉にテーブルを囲んで座る五人に静寂が訪れる。


「愛されてますね?」


 瑞希が親父に笑いかける。


「うっさいわ。あんなチサ、確かに俺もいま病に侵されとる。それでもそんな急に死んでまう病やないやろ?」


「……でも確実に弱っていくのは知っとる」


 チサは実際に亡くなってしまった村人を見て来たのだろう。

 自分が想像する最悪の結果にせぬ様にいてもたってもいられなくなり、家を飛び出した様だ。


「とりあえず試しに回復魔法をかけてみましょうか。どこに効くかは分からないので全身にかけてみても良いですか?」


 瑞希は立ち上がるとシャオの手を借りようと、手を伸ばすが、シャオは涙目で瑞希を見上げる。


「どうしたシャオ?」


「足が痛いのじゃ……」


「真似して正座で座るからだよ……ほら足伸ばせ、回復魔法をかけるから」


 シャオは足を伸ばし、瑞希の手がシャオの足に触れる。


「っ! くすぐったいのじゃ!」


「しょうがないだろ。大体足の痺れなんかほっといても取れるんだぞ?」


 瑞希はさっさと回復魔法を使いシャオの足の痺れを取ってしまう。


「治ったのじゃ! この座り方はもうせんのじゃ!」


「足が痺れる前に足を崩せよ……」


 二人の会話にクスクスとチサが笑う。

 今度こそはと思い親父の元に行こうとするが、サランが手を上げる。


「あ、あの私にも回復魔法を……」


 足が痺れたサランが瑞希に回復魔法を求めるのだが……。


「お前もか……チサ、足を触ってやれ」


「……任された」


「何で私には使ってくれないんですか!?」


「俺は今から親父さんに回復魔法をかけなきゃならんから忙しいの」


「そんな、すぐじゃないですか!? あははははっ! ダメっ! チサちゃん! 止めて!」


「……ほれほれ」


 さっきまでの重い空気はどこに行ったのかチサとサランは楽しそうにじゃれ合っている。

 しっかりしている様に見えてもチサは子供なのだろう。

 近しい姉の様なサランとじゃれ合うのは楽しい様だ。

 そんな中、瑞希は親父の体に触れ回復魔法を使用していく。

 特に歩く時に引きずっていた足には入念にかけてみた。


「どうですか?」


「……あかんな。確かに細かい切り傷みたいなんは綺麗に治ったけど、体の怠さとか足の痺れは取れてへん……」


「やはり回復魔法で病までは治らんのじゃ……」


 じゃれ終えたチサも、どこかで瑞希ならどうにかしてくれると思っていたが、回復魔法の結果に残念そうな顔をして顔を下げる。


「体の怠さに、足の痺れ……一つ確認したいのですが、ペムイは日常的に食べてるんですよね?」


「お前もペムイを疑っとんのか? ミーテルの医者と同じ様な事言うつもりか? ペムイは少し前までミーテルの奴等も食べとったんやで?」


「気になるのはチサに聞いた食べ方が変わったという所です。私もペムイをまだ食べてないので、宜しければ普段の食事を食べさせて貰えませんか?」


「ええやろ。丁度昼時や、チサ、飯の準備してくれへんか?」


「……分かった」


 チサは料理に取り掛かろうと席を立つ。


「俺も手伝おうか?」


 チサは首を振り瑞希を制止する。


「じゃあ私が手伝おうか?」


 チサは少し考えたが、サランの言葉にはコクリと頷いた。


「じゃあミズキさんはチサちゃんと私の料理を楽しみにしといてくださいね!」


「そうか。じゃあチサの料理を楽しみにしとくよ!」


「私も手伝うんですよっ!」


 瑞希はサランをからかい、チサ達はそのまま部屋を出る。

 取り残された瑞希達は親父からチサの話を聞くが、なんの事はない、口は悪いが娘想いの良い親という事がわかり、瑞希も負けじとシャオの可愛さを語る。

 そうこうしている内に、サランは魚の塩漬けを乗せた皿の他に空の食器を持って来る。


「料理はこれだけなのじゃ?」


「今チサちゃんが持って来るのよ。私も取ってきます」


 チサとサランは鍋と木桶の様な物を運び込んできて、空いていた食器に汁物と、白く輝くペムイと思われる物を盛り付けて行くのだが、チサの盛り付けるペムイは山の様に盛り付けていくのであった――。

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― 新着の感想 ―
[一言] 栄養学の知識が無い時代だからこうなるのか。 ついに念願の食材とご対面ですね。
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