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焼き蛙とチサの親

 香ばしく焼かれ、芳しい香りが広がるがサランはどうしても串焼きに手が伸びない。

 確かに保存食であったカパ粉を使った押しかためたパンの様な物より、目の前の串焼きからは焼きたての香りと、滴り落ちる肉汁は食欲を誘うのだが、シャオの魔法により見てしまった魔物の姿が脳裏によぎり邪魔をするのだ。

 サランのそんな葛藤を考えてもいない瑞希はシャオに塩味の串焼きを手渡し、自身もタレのかかった串焼きを手に持つ。


「チサちゃんは食べないの?」


「……」


 チサもサランと同じ様な葛藤をしているのだろう。

 瑞希とシャオは二人を尻目に串焼きに口をつける。

 パリッと焼けた表面には反して、中からは肉汁が迸る。

 口内に肉汁が溢れている中、シャオの食べている串焼きはピリッと胡椒が効いているので、肉の臭みなど感じぬまま喉を通る。


「美味い……「美味ぇ〜……蛙の肉なのにホロホロ鶏より美味くないか!?」」


「ぐぬぬ……わしも言おうと思ったのじゃ!」


「それにやっぱり醤油だよ……このあまじょっぱさ本当に美味い……染みるなぁ」


「わしもそっちが食べてみたいのじゃ!」


「肉はまだまだあるからな! どんどん焼いて行こう! 今日は焼き鳥……いや焼き蛙パーティーだっ!」


 普通の感覚なら嬉しくないパーティーの響きなのだが、予想以上に美味しい肉と醤油に似たジャルという調味料のおかげで瑞希のテンションは上がりに上がっていた。


「こっちのジャルを使ったのも美味いのじゃ! ジャル単体で舐めた時はいまいちじゃったが、料理に使うと美味いのじゃ!」


「だろ〜? こっちの塩焼きでも美味いな! 肉の臭さも感じないな」

 

 サランとチサは二人の姿を見て意を決する。

 サランは塩焼きを、チサは馴染みのあるジャルを使った串焼きを手に持ち恐る恐る口にする。

 見た目の醜悪さからは思いもよらない肉の美味さに二人は驚く。


「ミズキさん! これ、これぇ!」


「……うまっ」


「な? 蛙肉も捨てたもんじゃないだろ? どんどん焼くからいっぱい食えよ!」


 瑞希は残った魔物の足も捌くと次々に串焼きを作成していく。

 残った死骸はシャオが魔法で土に穴を開けると、そこに埋めてしまう。


「ミズキさん冒険者なのに討伐報酬を貰わなくて良いんですか?」


「そう言われてもどこが討伐証明になるか分からないからな……お金にも困ってないし、美味しい肉が食べれただけで満足だ! 残った肉はジャルを手に入れたら唐揚げにしようか」


 瑞希はある程度の大きさに切った肉を鞄に入れていたムルの葉で包み込む。


「くふふ。噂のからあげなのじゃ! 食べてみたいのじゃ!」


「……うちも食べたい」


「私も食べたいです!」


「とりあえずはミーテルに戻ってからだな。俺とシャオは外で寝るから二人は馬車の中で寝ろよ? 日が出たら移動し始めるからな」


 二人は返事を返すと馬車に入って行く。

 瑞希はいつもの様にシャオのブラッシングをし始め、シャオが気持ち良さそうに蕩けて行き眠りについたので、瑞希もごろんと横になり眠りにつく。

 何かあればシャオが気付くので気を張らなくて済むのはありがたい。


◇◇◇


 夜が明けてから再び移動を開始してから昼に差し掛かる前にヤエハト村の入り口に到着する。

 チサは馬車から顔を出し、近くにいた村人に声をかけた。

 村人はチサの姿を見るや否や慌てて走り去ってしまう。


「あれ? あの人どこに行ったんだ?」


「……多分おとんの所」


「それなら俺達も向かった方が良くないか?」


「……怖い」


 チサはブルブルと震えているが、サランが後ろから抱きしめる。


「大丈夫ですよ。私は何もできませんが一緒に怒られてあげます。それにミズキさんがどうにかしてくれますよ!」


「なんじゃそりゃ……」


 慌てて戻ってきた村人が強面の中年男性を連れてくる。

 その顔は凄まじく怒ってはいるのだが、どこか顔色が悪い様に思える。


「チサっ!」


 チサは馬車から降りる。

 瑞希達も馬車から降りるとチサに並ぶ。


「……ただいま」


「あんな書き置きだけ残して……俺等がどんだけ心配したかわかっとんのか!?」


「……」


「黙っててもわからんやろ!? どこで何してたんや!?」


「……」


「チサっ!?」


「あの、あの、チサちゃんはこの村で流行っている病を治す方法を探してたんです!」


 サランは慌ててチサを後ろから抱きしめ、代弁するかの様に答える。


「なんやお前等? チサを拐った奴か?」


「さらっ!? そんな事してません! チサちゃんを助けたんです!」


「助けた? ほんまか? どうなんやチサ?」


「……サラン姉の言うてるのはほんまや」


 サラン姉という呼ばれ方にサランは嬉しそうに抱きしめるが、チサの父親は再び怒りだす。


「お前どこまで行っとったんや!?」


 チサは親父の質問に間が空くも、ポツリポツリと語り始めた。


「……ヤエハト村の病を治したかったんや」


「それが何でこないな事になっとんねん! ミーテルの医者にも見てもろたやろ!?」


「……ミーテルが無理ならキーリスまで行けばどうにかなると思ったんや」


 親父はチサの言葉にガリガリと頭を掻き毟る。


「それをお前がやらんでも他の奴がおるやろ!?」


「おとんも最近その病にかかったんやろ!? はよしな死んでまうやんか!」


 チサの言葉に親父の言葉が詰まる。


「……知ってたんか」


「知っとるわ! 誤魔化してるかもしらんけど、毎日一緒におるんやで!? 気付かん訳ないやろ!?」


 チサの親父は娘の迫力に黙ってしまうが、瑞希が会話を続ける。


「私達がチサを助けたのは本当なのですが、私達がここまで来たのは回復魔法がこの病に効くかを試しに来たんです。宜しければ病の事をお聞かせ願えませんか?」


「お前は誰や?」


「キリハラ・ミズキと言います。ミズキが名前で、料理人兼冒険者で、回復魔法を使えます」


「なんや、こっちの名乗り方をしてくれんのか? とりあえずお前等にも話は聞きたいからな。ちょっと家まで着いて来てや」


 チサの親父はそう言うと、振り返り歩き出す。

 しかし、足を悪くしているのか引きずる様にして歩いて行く。

 チサはその姿を見て悲しそうな顔をして慌てて親父を支えに走り寄るのであった――。

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