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野営と串焼き

 ミーテルを出てからカエラから借りた二頭のウェリーで走らせたものの、辺りが暗くなり始めたので、瑞希達は積まれていた荷物で野営の準備をして、焚火を囲んでいる。


「しまったな……慌てて出たから食材を移すのを忘れてた……保存食は入ってたけど……あんまり美味くないなこれ」


「ぼそぼそするのじゃ……」


「いや、普段の野営が豪華すぎるだけですからね!? 普通はこんな物ですよ!」


 しょんぼりとした瑞希とシャオにサランが突っ込む。


「ほらっ! チサちゃんだって黙って食べてるじゃないですか!」


「チサは元々無口なのじゃ!」


 もそもそと口を動かすチサではあるが、咀嚼していたものをごくりと飲み込むと溜め息をついた。


「チサが溜め息をつきたくなるのもわかるのじゃ……」


 チサはふるふると首を振る。


「……明日には村に着くけど……おとんに怒られる……」


「勝手に出て来たのか?」


 チサは再び首を振る。


「大丈夫ですよ! その時はサランお姉さんが一緒に謝ってあげますよ!」


「サランが一緒に謝っても一緒に怒られるだけなのじゃ」


「……チサちゃんのお父様って怖いですか?」


 チサは素直に頷き、肯定しながらブルブルと震えだす。

 瑞希はそんなチサの頭に手を置き撫でながら慰める。


「お前は村の為に行動を起こしたんだから、それは良い事だよ。ただ、親を心配させるのは駄目だからそこはしっかり怒られろ。もしかしたら回復魔法だって効くかもしれないだろ? そうしたらチサは良くやったって褒められるさ」


 チサは瑞希を見ながらニヤニヤし始める。

 その顔を見たシャオはぶつぶつと文句を言い始める。


「ミズキは本当に子供ったらしなのじゃ……」


「シャオちゃん……お姉さんが抱きしめてあげますよ!」


「いらんのじゃ! 大きなお世話なのじゃっ!」


 サランはシャオの言葉にショックを受け、落ち込んでしまう。


「これでも長姉なのに……お姉さんなのに……」


 サランが足元に落書きをしながらいじけていると、瑞希はチサに質問をする。


「カエラさんはチサの事を知ってたけど、知り合いだったのか?」


 チサは瑞希の言葉に首を傾げるが、その後に首を振る。


「じゃあチサの親父さんと知り合いなのかな……チサの親父さんは有名人とか?」


「……ヤエハト村の村長……ペムイを作る人のまとめ役……」


「あぁ……それなら視察か何かでチサの小さい頃に会ってるんだろうな……ペムイって美味いのか?」


 チサは満面の笑みでコクコクと頷く。


「……数年前まではそんなに好きやなかったけど、食べ方が変わってからめっちゃ美味しいねん!」


 チサはよっぽどペムイが好きなのか上機嫌で話す。


「食べ方が変わってから? それまでは美味しく無かったのか?」


「……ぼそぼそしてた」


「主食なのにぼそぼそしてた……食べ方が変わってから美味しくなった……」


 瑞希が考え事をしていると、周りからガサガサと物音がし始める。

 シャオと瑞希は臨戦態勢に入る。


「考え事は後だな。シャオ、魔物か?」


「くふふ。良い反応なのじゃ!」


「そりゃ野営の場数も踏んできてるからなっ! サランとチサは馬車の中に入ってろ! お前等はじっとしといてくれよ? ちゃんと守るからな」


「「キュー!」」


 瑞希の言葉に二頭のウェリーは良い返事を返す。


「五匹ぐらいの小さい群れじゃな。大した事無いのじゃ」


「どんな見た目だ? 食べられそうか?」


「くふふ。食べても問題なさそうじゃが……見た目はこんなのじゃ!」


 シャオは光球を空中に放り投げ辺りを照らす。

 瑞希とシャオの前方には角が生えた一メートルに満たない蛙の様な魔物の姿が見える。


「蛙か~……まぁ、あの保存食よりマシだろ?」


「あれ食べるんですかっ!?」


 馬車の中から瑞希の言葉にサランが大声で突っ込むが、シャオは嬉しそうに笑う。


「くふふふ。同感じゃ! じゃあさっさと狩ってしまうのじゃ!」


 シャオは瑞希と手を繋ぎ魔物の元に駆け出す。

 瑞希は手に触れると同時に馬車に近い二匹の足元から氷柱が突き出るイメージを固める。

 イメージ通りに氷柱が突き出ると、二匹の魔物に突き刺さるが、他の魔物の一匹が舌を瑞希に伸ばす。

 瑞希は剣を抜き取ると、その舌を受け止めるが、舌が剣に巻き付く。


「シャオっ!」


 瑞希の掛け声と共に剣に魔力が宿ると、魔物の舌がするりと斬れ落ちる。

 瑞希とシャオはそのまま駆け出すと舌を失った魔物に斬りかかり、残った二匹に向けて風の刃を放つ。


「「これで終わりだ(じゃ)っ」」


 別々の方向に向けて手を伸ばした二人の先に居る魔物はその言葉と共に息絶える。

 瑞希は近くにいた魔物の足を剣で切ると、皮を剥ぐ。


「残りの奴はどうするんじゃ?」


「とりあえず食べてから考えようか。美味かったらまた食べれば良いし……毒は無いよな?」


「大丈夫なのじゃ。どうやって食べるのじゃ?」


「調味料も単純な物しか鞄に入れてないしな……串に刺して塩焼きかな?」


「それでもあの保存食よりましなのじゃ」


 瑞希とシャオはもも肉を手に持ち、焚火の側に戻りサランとチサに声をかける。


「お待たせ~丁度良い時に魔物が出てくれて良かったよ」


 馬車を下りたサランは瑞希が捌く肉を見ながら顔を引きつらす。


「ほ、本当に食べるんですか?」


「蛙肉は鶏肉みたいで美味いぞ? 俺も初めて食べる時はたじろいだけど、一回食べたら慣れるって。それにいつも言ってるだろ?」


「食べる事は勉強……ですよね……」


 瑞希は一口大に蛙肉をカットすると、串に刺していく。


「そうだっ! チサ、ジャルを分けて貰えないか?」


「……ミズキならええよ」


 瑞希は馬車に有ったお湯を沸かすような小さな鍋にジャルと砂糖、小瓶に入れていた白ワインに似たマルク酒を入れる。


「本当はみりんとか日本酒が良いんだけど、まぁ白ワインでもおつなもんだろ? 砂糖醤油が不味くなる事は無いしな……シャオ、これを手に持って火球に当てて煮詰めてくれるか?」


「わかったのじゃ?」


「半分は塩と胡椒をかけて塩焼きにするか……」


 瑞希は手早く味付けを施し、焚火の側に串を突き刺して行く。

 味付けをしていない串にはシャオが煮詰めたタレをつけ、焼く。

 それを何度か繰り返し二種類の串焼きが出来上がるのであった――。

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