ペムイの価値
瑞希達に残されたドマルとカエラは中断された商談を続ける。
だが、ドマルはその前にチサの事が気になったので、商談ではなく世間話程度に会話を投げる。
「チサちゃんとはお知り合いでしたか?」
「あの子はペムイを育てとるヤエハト村の村長の娘さんや。あの子が小さい頃に一度会うとるんやけど、覚えてる訳ないわな。月日が経つのは早いわ」
チサは幼く見えるが、キアラと同い年ぐらいにも見える。
小さい頃に会ったという割に、領主をしているカエラの見た目からは熟女という雰囲気は感じられず、ドマルは自分より少し年上ぐらいに思っていた。
「ドマルさん、今うちの年齢を考えてたやろ?」
「うっ! い、いえ! そんな! ……正直に言いますと御綺麗ですので、チサちゃんが覚えてない程の幼子の時にあったというのが不思議に思っていました」
「あら! ありがとう! 言うてもそこそこええ歳やけどな。それにチサちゃんに会うたんはさっきあんたらが連れてた姉ちゃんぐらいの時や。お父はんに連れてかれてヤエハト村の視察に行ったんや」
「あぁ……そう言えば当時の領主様が亡くなられたのは三年程前でしたか……カエラ様の若さで領主を務めるのは大変でしょう?」
「そんな事あらへんよ? うちの周りには助けてくれる人が居るからな! 当時はあまり見向きもされてへんかったペムイを育て続けてくれてたんもヤエハト村周辺の集落の皆や。モノクーン地方の西の方であった魔物の大量発生は知ってるんやんな?」
「はい。バラン様も復興にかなりの財源と時間を使われたと聞いてます」
「ドマルさん達はキーリスから南西に来てここに到着したやろ? 山を一つ越えてから北に行けばその大量発生があった場所らへんなんやけど、そこらの街は壊滅状態になってたんや。そうするとうちの地方に入って来る物も少ななってな……」
「そこでペムイに注目したと?」
「せや。ヤエハト村の周辺では昔から主食としてたんやけど、ミーテルの辺りではまだまだ浸透してへんかったんや。酒とかは造ってたんやけどな。最近は物も回る様になって来たさかい前ほど食べてる訳やないけど、それなりに流通はしとる」
「やはり美味しいんですか?」
「好みによるなぁ。ヤエハト村周辺ではめちゃくちゃ消費する様やけど、ここいらではそこまでや。今は他に主食になる物もあるさかいな」
ドマルは今の話を聞いてチサの病の話を思い出す。
「それってペムイに毒があるとかではないんですよね?」
ドマルの言葉にカエラの眼つきが鋭くなる。
「そんな訳ないやろ? 昔っから食べてる人もおるし、言うてもペムイはマリジット地方を助けてくれた作物や。だからこそ大事にしたい作物やから、扱い方が分からんような所には分けたないんや」
「失礼しました……」
ドマルは頭を下げて非礼を詫びる。
「では、モノクーン地方で起きた魔物の大量発生を機にペムイの量は増やされたんですか?」
「そうや。食糧事情も怖かったしな。お父はんがマスギの旦那に言うて田を広げてもろたんや。おかげでマリジット地方は飢えずに済んだんや」
「物が流通する様になってからもその広さで作られてるんですか?」
「せやな……もしかしてまだペムイを疑っとるんか?」
ドマルはふるふると首を振る。
「いえ、ペムイはマリジット地方でほぼ消費されていますので、余ったペムイはどうしてるのかと思いまして」
「殆どは酒に使っとるな。最近は外でもペムイ酒が出回る様になったやろ?」
「そう言えばそうですね……」
「あれは甘味もあって美味いからな。外でも良う売れるんや! ドマルさんは酒は飲むんか?」
「嗜む程度には頂きますよ。ただ、ペムイ酒はまだ口にしてませんね……」
「ほな兄さんがヤエハト村を解決してくれたらペムイ酒で宴会でもしようや! 領主になってからあほみたいに飲む事も無くなったんや……」
カエラはちらりと執事を見やると、年老いた執事はごほんと咳払いをする。
「あははは……それは構いませんが、ペムイの条件の扱えるかというのはどうやって見るんですか?」
「それを担当するのはあの兄さんやろ? ヤエハト村で実物を見てマスギの旦那から了解を得られればそれで構わへん。うちらもペムイに関しては旦那に任せとるからな」
「では、乳製品は交換に値すると思っても宜しいですか?」
「それはまた別の話や。さっき食べさせてもろたんはよーぐるとだけやろ? ばたーとちーずの活用方法も見せて貰ってからやな。これがあればどんな物が作れるんや?」
「私の食べた物ですと――」
ドマルはカエラに今まで食べた乳製品を使った料理を説明する。
とりわけ自身の好物であるピザを説明する時は熱がこもり、臨場感たっぷりに説明をすると、カエラの口からはじゅるっと言う音が聞こえ始めて来る。
瑞希がこの場に居ればすぐに作る事も可能なのだが、瑞希は今早馬を駆けさせ問題のヤエハト村へと向かっている。
◇◇◇
場所は変わり、ミミカの訓練は順調に進んでいた。
テミルから詠唱を習い、実際に魔法を放つとすぐに成功させるミミカに、テミルはミミカの才能に喜んでいた。
「すごいじゃない! やっぱりミミカには魔法の才能があるわね」
「でもこんなに詠唱をしていたら実践では使えないわ!」
「これはあくまでも魔力を無駄にしないためよ。ここから貴方に合った詠唱に変えて行けば自ずと短くなるわ」
「シャオちゃんやミズキ様みたいに使えるの?」
テミルはミミカの言葉に首を振る。
「あれは例外ね……ミミカの話だとミズキさんの魔力量は相当な量なのよね?」
「シャオちゃんがそう言ってたわ」
「さっきも言ったけど、詠唱と言うのは魔力の漏れを塞ぐ役割があるのよ。ミズキさんがそれをしないままイメージした物をそのまま放出するという事は、大幅に魔力が漏れているのよ」
「でもそれ以上に魔力量があるから問題がないのよね……じゃあシャオちゃんは?」
「あの子の魔力量もミズキ様程ではないにしろ相当量あるはずよ」
「魔力量はどうすれば増えるの?」
「繰り返し魔法を使う事ね。筋肉とかと同じで使えば使うほど成長して行く物よ。だからミミカも毎日とは言わないけど使える時は少しでも使う様にしなさいね」
「はいっ! じゃあ次の詠唱を教えて!」
ミミカはテミルから魔法を習う。
魔法を使える者からすればあの二人は規格外なのだが、それでもミミカはあの二人と肩を並べたいと思う。
魔法を唱えすぎてぐらつく視界の中、二人が帰って来た時に驚かしてやろうと心に秘めミミカは今日もまた気絶して、テミルを困らせるのであった――。
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