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それぞれの仕事

 ――チサを加えた一行は馬車を走らせ、三日程かけて水の都ミーテルの街に到着する。


 キーリスからは山を二つ越えて来たのだが、タープル村は一つ目の山にあり、チサを拾ったのは二つ目の山を登る前にある草原である。


 三日も寝食を共にしていると、チサも徐々に打ち解けて来ており、サランもこの旅で瑞希から接客のコツを聞き、徐々にではあるが理解し始めている。

 それでも接客の実践をする場は無いので、瑞希が作る料理の調味料の使い方や組み合わせをメモを取ったり、途中に寄った宿等で瑞希が行うロールプレイングと呼ばれる教え方を実践され、その度に自信をつけ始めて来た。


 そして、水の都と言われる所以は海に合った。

 二つ目の山を越えた先には海が広がり、マリジット地方はキーリスから見て、二つ目の山の手前、すなわちチサを拾った辺りからがマリジット地方になる。

 地方の境には特に検問所等は無かったのだが、二つ目の山を越えた先の街道には検問があり、瑞希とドマルが検問でテオリス家の家紋が入ったネックレスを見せ、事情を説明するとすんなりと通してくれた。


 瑞希達はマリジット地方の中心部に当たるミーテルの検問所に並んでいると、辺りからはチサの様な口調が聞こえて来ており、ドマルと共に馬車を引きながら歩いている瑞希はドマルに話しかけた。


「チサもだけど、こっちの地方の人は方言があるんだな?」


「あぁ、マリジット地方は昔から船で貿易をしているからね、他国の人の方言が混じったんじゃないかな?」


「貿易? てことは他にも国があるのか?」


「言ってなかったっけ? カルアリア大陸では、北東~真ん中にかけて広く位置するモノクーン地方、西を位置するマリジット地方、南に位置するのがボアグリカ地方だよ。王都があるのはモノクーン地方の南の方だね。バラン様はモノクーン地方の北側を領地としてるんだ」


「じゃあマリジット地方から船で西に行けばまた別の大陸があるのか?」


「そう、それがモガルム大陸だね。船で行っても一カ月程はかかるから僕も行った事はないなぁ」


「そう考えたらこっちの世界も広いな」


「瑞希の故郷は島国って言ってたよね? やっぱり海も近かったの?」


「俺の住んでた所からはそれなりに近かったけど、育った所は爺さんの所でさ、ココナ村より、タープル村の方が近い感じだったな、それこそ鹿っていう動物を仕留めたりさせられたよ」


「へ~。じゃあこういう検問みたいなのは無かったの?」


「地方からの行き来では別に無かったな。国を跨ぐとあるから、それこそカルアリア大陸からモガルム大陸に移動する時ぐらいじゃないかな?」


「そうなんだ? でも前に話を聞いてたデンシャとかヒコウキとか凄い乗り物もあるんだよね?」


「そんな事言ったらこっちには魔法があるじゃないか? 俺とシャオみたいに魔法で移動が出来るならここに来るのもそこまで時間はかからないだろ?」


「それはそうだけど……いや、でも王都の方では魔法を道具として使えないかって研究しているから、ミズキの言う様な乗り物が未来では生まれるかもしれないね」


「そうだな……そうなったらボルボも楽できるかもな?」


 瑞希はここまで馬車を引っ張ってきたボルボを労いながら首元を撫でる。


「あはは。それでもまだまだ先の話だけどね。ボルボが頑張れる内は頑張って貰わなくちゃ」


「キュイキュイ!」


 ボルボは二人に挟まれて幸せそうに列を並ぶ。

 そんな話をしていると自分達の順番が来たので、前の検問の様に事情を説明し、ネックレスを見せるとそのまま憲兵に領主が住まう城へと案内される。


 城まで連れて来られた瑞希達は領主であるカエラ・ウィミルと対面する。

 仕事の話だからと、ドマルと瑞希だけで行こうかと思ったのだが、シャオが言う事を聞かず、チサも自身の村の事を聞きたいと言い、サランは一人で待つのは心細いという事で、全員で応接間に押しかける事になってしまう。


「すみません仕事の話なのに全員で顔を出してしまって……」


「ええんよ。それにあんたらの事はテオリス様から早馬で書面が届いとるから、話は聞いとるえ? ペムイが欲しいんやんね?」


「その通りです。ただ条件と言うのもバラン様から伺っております」


「そうや。まず書面に合った乳製品と言うのを見せて貰えるやろか?」


 ドマルは応接間に持って来ていた乳製品を並べる。


「左からちーず、ばたー、よーぐるとです。ちーずはそのままでも食べれますがばたーは油ですので、調理に使います。よーぐるとはすぐに食べれますので、彼が作ったじゃむをかけてお召し上がり下さい。事前にそちらの執事の方にも毒味はして頂きました」


 カエラがちらりと執事を見ると、執事はコクリと頷く。

 ここまで運ぶには日数が掛かったのだが、シャオの魔法で氷を作り、馬車の一画で冷やしながら運んでいた。


 カエラは匙を手に取ると煌めいたジャムと共にヨーグルトを口にする。

 チサは羨ましそうにその光景を見ているのだが、それには理由がある。

 チサを拾ってからの間に、瑞希は以前作ったジャムをこの時のために再び作ったのだが、当然一緒に移動している仲間にも振る舞った。

 サランは以前にもアイスクリームを食べている上に、旅の道中に散々瑞希の作る料理を食べていたため、耐性が出来ていたのだが、チサには衝撃的な甘味だったのだ。

 それに加えてヨーグルトを気に入り、もっともっとと瑞希にせがむのでシャオが一喝したという経緯がある。


「これは美味しいわぁ! なんやのこの甘味? 果実の甘味なんやけど砂糖も使てんの?」


 ドマルは瑞希に視線を飛ばし、瑞希が説明を始める。


「その上にかかっているのはコロンの実を煮込んで作ったジャムと言います。御察しの通り砂糖を使用して作る物です」


「せやけど、これやとよーぐるとやなくてじゃむの美味しさやない? よーぐるとや無くてええんとちゃう?」


「そうですね、ヨーグルトは甘味を足さなければ酸味がありますので少々食べ辛い物でしたので、ジャムを加えさせて頂きました。なので次はこちらをお試しください」


 瑞希は浅いグラスに盛り付けたアイスクリームを差し出す。


「これもよーぐるとを使たんやろか?」


「もちろんヨーグルトも使ってます。これは砂糖以外は全て乳製品のみで作りました」


 チサは瑞希の作ったアイスクリームを食べていなかった。

 しかし、ヨーグルトも使用していると言う言葉に反応し、食べてみたいという衝動に駆られる。

 カエラはアイスクリームに口に運ぶ。


「冷たい!? そうか、これは魔法を使たんやね? あんさんが言うてた酸味言うのが良う分かるわ。せやけどその酸味が甘さをさっぱり流してくれる……不思議な菓子やわ」


 瑞希はドマルにジャムを使ったヨーグルトではジャムの美味さが目立つのでは無いか? と言う話をされ、急遽応対迄の間にヨーグルトアイスを作ったのだ、完成する頃には呼び出されてしまったため、チサも、そしてシャオですらまだその味を知らない。

 瑞希は後で食べさせるとは言ったのだが、シャオはむくれており、チサは羨望の眼差しでアイスを見ている。


「あんさん、この菓子はまだあるんやろ? そっちの嬢ちゃん達にも出したりぃな? そんな熱い目線で見られたらこの菓子も溶けてまうわ」


 カエラは笑いながらチサとシャオの視線に触れる。

 執事は主人がそう言うと思っていたのか、間を置く事なく、厨房に残していたアイスを全員の元に置いていく。


「気を使わせてしまい申し訳ありません」


「ええんよ。こんな可愛いらしい子らに注目されるのも頷ける味やもんな。そっちの子はうちの領民やろ?」


 カエラはチサを指差し、確認する。

 当の本人はシャオと共に満面の笑みでアイスを口にしているのだが。


「その通りです。この子はペムイを育ててる村から病を治す方法を探して旅をしている所行き倒れており、私達が助けました」


「……そうか。ヤエハト村の子か……あんた姓はなんて言うんや?」


「……マスギ」


「チサちゃんか!? 大きなったなぁ! マスギの旦那はんはどうしたんや!?」


「……? ……うちが家を出た時はまだ元気やったから大丈夫」


「……そうか。ヤエハト村の病の件は堪忍な……こっちではかかる人もおらへんから原因がさっぱりわからんのや……」


 チサはふるふると首を振る。


「……だからミズキ達を村に連れてく」


「この兄さん達を? なんでや?」


 チサの代わりに瑞希が答える。


「私が使う回復魔法を病の方に試してみようという話でして」


「回復魔法か……せやけどあれは……」


 カエラも回復魔法の事は知っているのであろう反応が返って来る。


「それでも試した訳ではないでしょう?」


「……せやな。ほなあんさん、悪いけど急いで村まで向かってくれへんやろか? 早馬と馬車は貸すさかい。御者は出来るんやろ?」


「それは構いませんが……」


「こっちの仕事の続きは僕がやっとくから、ミズキ達はチサちゃんの村に行ってあげなよ。早馬を借りれるなら予定よりも早く行けるからさ」


「ドマルが居るなら安心だよな! なら俺達は先にヤエハト村に向かう。また戻って来るからドマルはこっちで待っててくれ」


「ドマルさんはうちの城で寝泊まりしてくれたらええよ。チサちゃん、ヤエハト村の皆によろしゅうな?」


「……分かった」


 瑞希達は席を立つと、一礼をしてその場を後にする。

 執事に案内され、二頭立ての馬車を借り、チサの生まれ故郷であるヤエハト村を目指すのであった――。

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