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チサとジャル

黒髪少女に渡された調味料に驚いた瑞希は、黒髪少女の了承を得て自身のシームカにもかけてから口にする。


「美味ぁ! これだよ! これっ! やっぱり醤油じゃないとな!」


 瑞希が普段見せないハイテンションな姿を見ている仲間達はしどろもどろしているが、調味料を渡した黒髪少女は瑞希の喜ぶ姿を嬉しそうな目で見ている。


「ミズキ、そんなに美味いのじゃ? 一口欲しいのじゃ」


「僕も試させて貰って良いかな?」


「わ、私も食べてみたいです!」


 瑞希が三人に小瓶を渡すと、三人は醤油もどきをかけてからシームカを食べてみるが……。


「しょっぱいのじゃ。塩とは違うしょっぱさなのじゃが……」


「う~ん……美味しいけど、僕はたるたるソースの方が好きかな?」


「私もこちらの調味料よりかはミズキさんの作ったソースの方が好きですね」


「前にシャオには説明したけど、味覚っていうのは慣れ親しんだ味を美味しいと感じる部分もあるからな! 俺にはこの味がたまらなく美味しいんだよ。やっぱりどこかにはあるんだな! これってどこで買えるんだ? 外の人に内緒ってのはどういう事だ?」


 テンションが上がったまま醤油もどきを手に入れたい瑞希は、黒髪少女に対し矢継ぎ早に質問を投げかける。


「……村に伝わる作り方やから人には教えれへん」


「ミズキはそんなにそれが好きなら自分で作れば良いのじゃ」


 シャオの言葉に反応した黒髪少女は、ぎょっとした顔で瑞希を見やる。


「無理っ! おれの故郷では醤油って言うんだけど、醤油は時間もかかるし、それこそ自分で作らなくても生まれた時から存在してたから作ろうとも思わなかったしな」


「……生まれた時から? ……村で見た事ないで?」


 瑞希は迂闊にも口を滑らせてしまう。

 瑞希はしまったと内心思いながらも、平静を装うとしているのを感じ取ったドマルが、話をすり替えるために黒髪少女に話しかける。


「あっ! 気付かなくてごめん! 足を怪我してるみたいだけど大丈夫!? 傷薬ならあるよ!」


「……かすり傷。……大丈夫」


「(ナイスドマルっ!)いやいや、足に傷があったら歩きづらいだろ? 治してやるからじっとしてろ」


 瑞希はシャオと手を繋ぐと黒髪少女の足に手をかざし、回復魔法をかけて傷を治す。

 黒髪少女はその光景に再び驚く。


「よし。他に痛い所はないか?」


 黒髪少女は首を振り、一呼吸を置いて話始める。


「……その魔法……回復魔法?」


「おうっ! 他にも怪我してるなら言えよ?」


「……大丈夫。……それよりお願いがある」


「お願い? どうした?」


「……村を助けて欲しい」


「うぬぬ。ミズキの甘さに付け込むつもりなのじゃ!」


「待て待て。困った時はお互い様だろ? 俺に助けられるか分からないけど、村で何があったんだ?」


「……村は今……」


 黒髪少女の話を要約すると、村では今ある病が流行っているらしい。

 その治療法を探るべく、黒髪少女は村を離れ病に効く薬を探し回っているらしく、回復魔法の使い手にも初めて出会った様で、魔法があれば治ると思ったと瑞希達に伝える。

「……ふぅ。……長く話すのは苦手や」


 話を聞いていたシャオは大きくため息をつき黒髪少女に話始める。


「残念じゃが回復魔法は病には効かんのじゃ。怪我等には有効じゃが、それはあくまでも自己治癒能力を促進しておるだけじゃ」


「どうにかしてやりたいけど……お前の村はマリジット地方にあるのか?」


「……そう。……マリジット地方の端っこ。……ペムイを作ってる」


 瑞希とドマルがその言葉に驚く。


「ペムイの産地!? なら君はマリジット地方の領主様からの使いかなにかなの?」


 黒髪少女はふるふると首を振る。


「……ちゃう。……うちは村を救いたくて治療法を探してる」


「じゃあ領主様もその病が流行ってるのは知ってるんだよな?」


「……知ってるけどその病はうちの村とその近くの村々からしか出てない……領主様も探してはくれてる」


「伝染病か?」


「……ちゃう。……ミーテルからも医者は来たけどその人等には移ってへん」


「ならシャオの言い分は正しいだろうけど、一度回復魔法を試してみるか?」


「……ええの?」


「何も収穫が無いのに戻るよりは良いだろ? ただ俺達は先にマリジット地方の領主様に会いに行かなきゃいけないけどそれは構わないか?」


「……それは構わへんけど、ほんまに村まで来てくれるん?」


「目的は似てるからな。良いよなドマル?」


「僕達の目的はペムイの苗を手に入れる事だからね。ついでと言えば聞こえが悪いけど、産地を見るのも仕事の内だよ」


 ドマルは微笑みながら瑞希に返答する。


「……ありがとう」


「治せるか分からないってのは覚えといてくれよ? それともし俺達が力に慣れたら醤油を売ってくれないか?」


「……醤油? ……ジャルの事?」


「ジャルって言うのか? そのジャルは俺も手に入れたかった調味料なんだよ。遅くなったけど、俺は鋼鉄級冒険者兼料理人のミズキ・キリハラって言うんだ」


「……マスギ・チサ。……チサが名前」


「名前が後なのか? ドマルが言ってたマリジット地方の一部って話はチサの所かな?」


「多分そうじゃないかな? マリジット地方でも名が先の所はあるからね」


「じゃあチサ、ジャルの件を成功報酬に俺を雇うって事で良いか?」


 瑞希はチサに手を伸ばし、一時的な契約の代わりに握手を求める。


「……お願いする」


 チサは瑞希の手を強く握り、じっと目を見つめる。


「いつまでも握ってるんじゃないのじゃ! 瑞希はとことん甘いのじゃ!」


 シャオは勝手に話が進んで行き、瑞希とチサの手を離させると、瑞希の腰元に抱き着きながら瑞希に説教をする。

 上目遣いで怒った顔をしているシャオの頭を撫でながら瑞希はいつもの様に料理で釣ろうと画策し始める。


「醤油があれば、シャオに食べさせる美味いレシピが解放されるぞ?」


「ぐぬ……」


「ホロホロ鶏の唐揚げ、オーク肉の角煮、メイチの煮つけ、卵焼き、生姜焼き……」


「ぐぬぬぬ……」


「それにミーテルとかチサの村にもまだ見てない食材があるだろうし、シャオの好きな甘い物も作れるかもしれないな……」


「わかったのじゃ! もう文句は言わんのじゃ!」


「わははは。さすがシャオ、物分かりが早いな~」


 瑞希はシャオの頭をぐりぐりと撫で、今日もシャオのちょろさを感じる。


「その代わりジャルとやらが手に入るまでブラッシングの時間は二倍にするのじゃ! じゃないと魔法は手伝わんのじゃ!」


 シャオとて、いつまでもちょろい訳では無い。

 ただで手伝わされる羽目になる前に、瑞希に条件を突きつける。


「うぐぐ……醤油を手に入れるためなら仕方がない! その条件乗った!」


「くふふふ。なら契約成立なのじゃ! チサとやら回復魔法は任せるのじゃ!」


「……ん。……お願いする」


 チサはシャオに手を伸ばし、シャオもその手を取りお互いに握手を交わす。

 ドマルとサランも自己紹介をしながらチサと握手を交わす。

 自己紹介を終えると食事を済ませ、先に見張りをする瑞希とシャオを残した面子は先に眠りに着く。


「――全く、ミズキは人に甘すぎるのじゃ」


 シャオは瑞希にブラシをかけられながらチサとのやり取りを愚痴る。


「そう言うなって。自分が助ける事が出来るなら助けてあげなくちゃ。出来ない事まで首を突っ込むつもりは無いよ」


「回復魔法は便利じゃが、病までは治せんのじゃ……」


「それも了承は得てるだろ。それにどんな病かもわからないし、もしかしたら俺の知識で治せるかもしれないだろ?」


 シャオは口を閉ざし、二人の間に静寂の空気が流れる。

 少しの間を置いてシャオがぼそりと口を開く。


「……みたいな奴が……いや……ミズキが居て欲しかったのじゃ……」


「何言ってんだ? 今いるだろ?」


「何でもないのじゃ! それより次はこっちの姿でやって欲しいのじゃ!」


 シャオはぼふんと猫の姿に変わると、瑞希の膝の上で丸くなる。


「はいはい……」


 瑞希はシャオの体にブラシを這わせながら、空いている手でシャオの頭を撫でる。

 瑞希はシャオが何を言ったのか理解は出来ないが、空を見上げると満天の星々が二人の姿を照らしているのであった――。

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