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タープル村の新名物

 調理を済ませたシームカを居間で待つサランの家族の元に運ぶ。

 串は抜いており、仕上げに塩をかけたシンプルな白焼きだが、瑞希は山葵の代わりに辛味大根の様なデエゴをすり下ろして薬味として皿に盛り付けている。

 サランと瑞希がテーブルに運んできた皿の上には真っ白な身がふっくらとしており、鼻をくすぐる香ばしい香りや、魔法の様な飾り切りを作った瑞希が調理したとあれば、いやが上にもサランの弟妹達の期待を高めさせる。


「き、綺麗に焼けてますね……ミズキさん! 怪我や病気にはなってないのですか!?」


 痛い目を見たサランの父であるオラグが瑞希の心配をするが、見た目からして無傷の状態だ。


「大丈夫ですよ。事情は後で説明しますが、こちらのシームカと呼ばれる魔物は問題なく食べられます。先程既に味見を済ませましたが、健康的には問題ないですね」


「あ、味はどうだったんでしょうか?」


 瑞希はにやっと笑いながら、手を伸ばし皿を進める。


「それは是非ご賞味下さい! もしも体調が悪くなったり、口が腫れたりしても回復魔法を使えますので御心配なく。もちろんそんな事は起きませんよ」


 オラグと瑞希の会話の長さに我慢が出来なかった子供達と、味見をさせて貰えなかったシャオが一緒になって二人を非難する。


「話が長いのじゃ! 早く食べるのじゃっ!」


「父ちゃん長い~! 先に食べるよ~!」


「私も~!」


「僕も~!」


「待て待て待てっ!」


 痛い目を見た本人であるオラグはそれでも慎重になり、幼子も混じる弟妹達を止めるが、瑞希を信用しているシャオを始め、ドマルと、つられてサランもさっさと背開きのシームカを口にする。


「「「えっ!?」」」


「やっぱり何か問題があるのかっ!? ミズキさん! 回復魔法を早くっ!」


「「「美味しいっ!」」」


「だろ~?」


 瑞希はシームカを口にした三人に満面の笑顔を見せる。


「身がふわふわしておる上に脂も美味いのじゃ!」


「これは美味しいよっ! 皮の面も香ばしくて風味も良いね!」


「お父さん! これ獲りなよっ! これが獲れるなら大丈夫だよ!」


「そのデエゴをおろしたのは薬味だ。辛みが強いから脂が強かったらそれを乗せて食べてみろよ。シャオは止めとけよ」


 ドマルとサランは瑞希の言われた通りにデエゴを乗せて食べる。

 シャオは腹開きのシームカに口をつける。


「うんっ! デエゴを乗せるとさっぱり食べられるね! これも美味しいっ!」


「幸せです! 実家に帰って来て良かったです! シャオちゃんの腹開きのシームカはどう?」


「こっちは蒸しておらん分香ばしい上に、背開きのより脂が乗っておるのじゃ! 身の柔らかさは蒸した背開きの方が上じゃの」


 三人が褒めちぎる中、オラグが抑えている子供達が暴れだす。


「「「「父ちゃんっ!」」」」


 必死で抑えるオラグの横をサランの母が手を伸ばし、パクリとシームカを口にした。


「あらやだっ! 本当に美味しいじゃない! サランも早く教えなさいよ~」


「言ってたよ! 褒めちぎってたよ! お父さんは臆病すぎるんだって……」


「そんな事はないぞ!? 食べてみるともさっ!」


 オラグは恐る恐るシームカを口に運ぶ。

 ふわふわとした身は歯に触れるとほろほろと崩れ、皮目の香ばしさと共に咀嚼するごとに甘さを感じつつ、喉の奥へと流れ、ごくりと飲み込んでしまう。


「……美味ぇ! 美味ぇよこれっ! ほらっお前等も食べてみろっ!」


 サランを始め母も弟妹もじとっとした目でオラグを見るが、子供達は我先にとシームカに飛び掛かる。


「「「「美味しいぃ!」」」」


「そうだろ~? お前等もデエゴは止めとけよ? 辛いから後悔するぞ」


 シャオは瑞希の服を引っ張る。


「全然足らんのじゃ! もっと焼いて欲しいのじゃ!」


「了解っ! じゃあ次はオラグさんにも教えますから一緒に捌きましょう、奥様も一緒にどうぞ」


「わしも手伝うのじゃ!」


「シャオはここに居ろよ。魔法が万能じゃない事も見せてやりたいからな!」


 瑞希はニヤッと笑いながらオラグ夫婦を連れて厨房へと戻って行き、調理を始める。

 シャオは瑞希の残した言葉に若干の苛立ちを感じながらも、瑞希の言葉を不思議に思っていた。

 ドマルに聞いてみるがドマルもわからないとばかり頭を振る。

 サランの弟妹達はシャオに魔法を見せて貰いたいと群がるが、サランに止められるが、美味しい物を食べて上機嫌なシャオは簡単な魔法を子供達に見せてやる。

 そうこうしている内に、シームカを焼いて戻ってきた瑞希はテーブルにシームカを置くのだが、弟妹達にもみくちゃにされているシャオを見つける。


「お? 仲良くなったのか?」


「どこがじゃ! 助けるのじゃっ!」


 瑞希は弟妹達を抱き上げてどけると、シャオを引っ張り出して抱っこをしてやる。

 それを見た弟妹達もわらわらと瑞希に集まるが、シャオが怒りだしてしまう。


「良いのかお前等? さっきのより美味しいシームカがそこにあるんだぞ?」


「さっきのより美味しいの!? 私食べるっ!」


「あっ、ずるいっ! 僕も!」


「私も~!」


「僕も~!」


 弟妹達はわらわらとシームカを食べるために椅子に座ると、シャオは怪訝な顔をしながら瑞希を睨む。


「さっきのより美味しいとはどういう事じゃ!」


「食べれば分かるよ。シャオも早く食べてみろよ」


 シャオは遅れながらも椅子に座るとシームカを口にする。

 身の柔らかさ等は変わらないのだが、先程の魔法で焼いたシームカより格段に香りが良くなっている。

 ますますわからなくなったシャオは瑞希に回答を求めるため、瑞希を見るが、先にドマルやサランが瑞希に質問をしていた。


「なんでさっきのより美味しくなるんですか!?」


「すごいね! こっちの焼き方の方が香りが良いよ!」


「そうだろ? 魔法は便利だけど万能じゃないって事だな」


「悔しいのじゃ! 勿体ぶらずに答えが知りたいのじゃ!」


「答えは炭火だ! 魔法の火球で焼くのに比べて、炭火で焼くと、炭の香りがシームカに移るんだよ。魔法の炎は嫌な匂いが移ったりはしないけど、良い匂いが移る事も無いだろ? 直火で作る料理にもよるけど、シームカには炭火が合うって事だ」


「ぐぬぬぬっ!」


 シャオは悔しそうに唸り声をあげるがすかさず瑞希がシャオの頭を撫でながらフォローする。


「けどな、炭の香りが邪魔をするって事もあり得るから、その時はシャオの魔法で料理をした方が美味しくもなるから、その時はやっぱりシャオに頼るよ」


「くふふふ。わかれば良いのじゃ! シームカは美味いのじゃ! オラグもこれからシームカを獲れば良いのじゃ!」


「確かに瑞希さんの習ったやり方ならばこの魔物にも価値が生まれる!」


「シャオは魔力を感じるとは言ってたけど、その辺は大丈夫なのか?」


「シームカは魔力を毒に変えておったみたいじゃな。こうやって調理する分には問題ないのじゃ」


「ならしばらくは切り身にして売ったり、焼いてから売った方が良いかもしれませんね?」


「その辺りは村の皆と考えてみます! 漁業を生業としている村でしたので、シームカが大量に発生した時はどうなるかと思いましたが助かりました! 村の名物にしますよ! なぁお前!」


「はいっ! 本当にサランがミズキさんを連れて来てくれて助かりました!」


「それなら良かった。ってなんだよシャオ急に膝に乗って来て」


「食べ終わった弟妹達がじりじりとわしに近づいて来てるのじゃ。守って欲しいのじゃ」


 瑞希はチラリと周りを見ると確かに子供達がじりじりと近づいて来ていた。


「シャオちゃんばっかりずるい! 私も抱っこして欲しい!」


「私も!」「僕もっ!」「僕も僕も!」


「うるさいのじゃ! ここはわしの場所なのじゃ! お主等はサランや親にして貰うのじゃ!」


「「「「えぇ~」」」」


 オラグはその光景を見てぽんっと手を打つ。


「シームカは背開きの方法で広めます!」


「どちらでも構いませんが急にどうしたんですか?」


「ミズキさんの現状を見ていると腹側は残しておいて上げなくてはなりませんからね」


 オラグが笑いながら瑞希に説明する。

 瑞希は自身の腹に目をやると、シャオが瑞希に抱き着きながら肩越しに弟妹達を威嚇している。

 その姿を見たドマルとサランも納得が行ったのかオラグの案に乗っかる。

 後にタープル村で何故背開きが広まったのかという逸話に、子を抱きしめる腹側を残さないと子が怒りだすという逸話が広まったとか、広まらなかったとか――。

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