謎の魔物と飾り切りの意味
瑞希達三人がサランに連れられてやって来たのはサランの実家で、入口には網等、漁に使うための道具などが並んでいた。
サランが入口を開けると、そこには項垂れているサランの父親と思われる中年の男性とサランの弟妹に囲まれている母親らしき人物が居た。
「連れて来られたのは良いんだけど、どういう事だ?」
「父は漁師なのですが、私がこの村を出てから湖には魔物が出る様になってしまった様で、いつもなら獲れていた魚が獲れなくなってしまったんです……」
「初めまして。サランの父のオラグ・モーラです」
オラグが顔を上げると右の瞼が腫れており、何とも痛々しい姿をしていた。
「初めまして。ミズキ・キリハラです。サランに仕事を教えている料理人兼冒険者です。それより魔物ですか? ……シャオが言ってた奴か? でも人を襲う類いではないんだろ?」
瑞希はシャオに尋ねる。
「脅威を感じる魔力ではないのじゃ。ただ、普通の魚に比べ賢いやつもいるのじゃ。おそらくはその魔物のせいで生態系が変わったんじゃろ?」
「その瞼はその魔物にやられたんですか?」
「はい……あいつらが獲れる様になってから他の魚が少なくなってしまい、何とか食べる事が出来ないかと捌いてみたんですが……同時に右目が焼ける様に痛くなりこうなってしまいました」
「死んでるのに攻撃してきたのじゃ?」
「何をされたかは分からないのですが、それを見た漁師仲間達もその魔物を恐れる様になってしまい、漁獲量がぐっと減ってしまったんです」
瑞希は話を聞き考え込んでいたが、その前にオラグの目を治せるか回復魔法を試してみる。
シャオと手を繋ぎ、オラグの目に手を当て、イメージした魔力を流すと、オラグの目の腫れは引いて行き、痛みが無くなったオラグは自身の手で右目を撫でる。
「おぉっ! 治ってる!? 俺の右目は治ってるのか!?」
「お父さん! 腫れが引いてるよ!」
サランはオラグに抱き着き、母の周りにいた兄弟達もオラグの顔を確認しに取り囲む。
「上手く行って良かった。ところでその魔物ですが、どんな形をしていましたか?」
「水中にいるのですが、山で見かけるジムチの様な姿をしています」
「(ジムチってなんだ?)」
瑞希はこそこそとシャオに聞く。
「(ジムチというのは山に居るにょろにょろと動く毒をもつ魔物じゃ)」
「(毒……山にいて……にょろにょろ……マムシみたいな毒蛇かな?)じゃあそのジムチの亜種みたいなものですか?」
「ですが、ジムチの様に襲ってきたりはしません。湖の魚が減っているので他の魚を食べているとは思うのですが……」
「(水中生物で毒……蛇の様な……)それを捌いた時に目が腫れたと言いましたが、血が目に入ったりはしませんでしたか?」
「血ですか? まな板の上で暴れるのでその時に飛んだかもしれませんが……」
「ミズキ何かわかったの?」
「ん~……俺の故郷に良く似た生き物がいたんだよ。それって食べましたか?」
「とんでもない! 私が苦しんでる姿を見た者は食べられる訳がないと慌てて捨てました!」
「現物を見ない事にはどうしようもないのですが、今からその魔物を捕まえる事は出来るでしょうか?」
「それはもちろんできますが……」
「ならお願いします。僕達は宿に戻って調理器具を持って来ますので、すぐに戻ります」
瑞希はそう伝えると、ドマルとシャオを連れ宿に戻るため来た道を歩いて行く――。
「食べられそうなのじゃ?」
「どうだろうな? そこはシャオの鑑定に期待するよ」
「ミズキの事だから美味しい物を作りそうだよね!」
「きちんと美味しく作るには調味料が足りないんだけどな。でもまぁ食べれるって事が分かれば新しい食材になるかもしれないよな!」
タープル村の危機なのだが、瑞希は想像している食材にわくわくしていた。
故郷では高級な食材が、こちらでは安価に食べれるかもしれないからだ。
◇◇◇
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調理器具を持ってサランの家に戻って来た瑞希達だがオラグはまだ戻って来ていなかった。
「父ももうすぐ戻って来るとは思います」
サランの言葉を聞いた瑞希は調理の準備をし始める。
「じゃあまずはこの鍋の一段目に水を張って、二段目も乗せて火を熾して沸騰させとこうか」
「新しい調理器具じゃな?」
「キーリスを出る前に色々作って貰ったんだよ。武具店の人には店を間違ってるって言われたけどな」
瑞希が笑いながら竃に鍋を置くと、シャオが魔法で火を熾す。
それを見たサランの弟妹達がミズキとシャオに群がる。
「すごぉい! これどうやってるの!?」
「おねぇちゃんもう一回!」
「兄ちゃんは魔法使えないの?」
「馬鹿! 兄ちゃんが魔法で父ちゃんを治してくれたんだろ!?」
「こらっ! 辞めなさい!」
「やかましいのじゃ!」
群がる子供達にシャオが一喝するが、子供達は止まらない。
シャオもどうして良いか分からないので瑞希に助けを求めるが、瑞希は面白そうにシャオに声をかける。
「懐かれて良かったなシャオお姉ちゃん?」
「うるさいのじゃ! ミズキなんとかするのじゃ!」
やれやれと言った様子で、瑞希は持ってきたアピーを取り出し、子供達に剥いてやる。
前にシャオに作った兎の形や、ずらして切る花の様な切り方、皮に賽の目に包丁を入れてから剥いていき市松模様の様に作る等、細工を施してから子供達に渡す。
「「「「何これぇ! やっぱり兄ちゃんも魔法使いだ!」」」」
「ミズキさん何ですかこれ!?」
「飾り切りだよ? 味は変わらないけど目で見て楽しいだろ? お前等これを母ちゃんに自慢してこい! 見るだけじゃなくてちゃんと食べろよ?」
「「「「はぁ~い!」」」」
子供達は瑞希に渡された皿を持って母の元に走って行く。
シャオも欲しかったのか瑞希に目を向けると、知っているかのように新しいアピー剥いてシャオに渡す。
シャオは嬉しそうに眺めてからアピーを口にする。
「くふふ。見た目が変わると美味しく感じるのじゃ!」
「美味しそう、楽しそうって言うのも料理を美味しくする要因の一つだな。ドマルとサランも食べるか?」
「やった! 僕は白兎の形のが良いな!」
「私は花の様なのが良いです!」
「了解。シャオ、鍋のお湯が沸いて来たから弱火にしといてくれ」
「わかったのじゃ!」
オラグが戻って来る間に見せた瑞希の技術にサランは再び心に誓う。
瑞希に教えて貰える事で自分がどのような給仕が出来るのか、キーリスの店を出る時にした自分の判断が正しかったと思える様に頑張ろうと。
そうこうしている間に、入口の扉が開かれた。
漁から戻ってきたオラグの持つ籠の中にはにょろにょろとした魔物が十匹程入っている。
それはどこか見慣れていた物だったのだが、決定的に違うのは知っている物より二回り程大きく、銀色をした鰻の様な魔物なのであった――。
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