タープル村の危機
瑞希とシャオは仲良く御者台に座り、ボルボも嬉しそうに馬車を走らせる。
ウォルカを離れた瑞希達四人はウォルカからさらに西に向かいなだらかな山道を進んでいた。
「それにしても昨日のキアラちゃんは怖かったね」
ドマルは苦笑しながらも昨日の親父の暴走を思い出す。
「あの人はプリンが好きだからな~。似た味のアイスを食べたから暴走したんだろうな……キアラが鬼の様に怒ってたけど」
「キアラちゃんの元で働くのが不安になりましたよ……」
元々居た飲食店でも良く怒鳴られていたサランは、鬼気迫るキアラの怒声を思い出しぶるりと震える。
「あれは親父さんが悪いよ。従業員さんの分まで独り占めしようとしてたし。罰としてプリン一週間禁止を告げられた時の顔は悲壮感が凄かったけどな」
瑞希は昨日の出来事を思い出しながら笑っている。
キアラは一騒動あった食事の後、ミズキに付いて行くのにサランを指名した。
キアラ曰く、カレーを作る量が日に日に増えて来ている為、そろそろ一人で仕込みをするのに限界を感じていたらしい。
サランには瑞希から習った事を自分達に教えて欲しいと伝え、クルルも内心では瑞希達に付いて来たかった様だが、キアラの「店が無かったら自分も付いて行きたい」という言葉を聞き、自分だけではないのだと悟った様だ。
キアラとクルルは次に瑞希が来るまでに二人で作ったカレーで瑞希を驚かそうと意気込んでいた。
「この道を真っ直ぐ行って、二手に分かれる所を曲がればタープル村に着きますよ! 村に戻るのも二年振りだから楽しみです!」
「どんな村なんだ?」
「湖で取れる魚が有名ですね! ミズキさんが食べてたメイチも取れますよ」
「良く覚えてたな?」
「あんな事があれば嫌でも印象に残りますよ!」
「そういうのも給仕では大事だぞ? いつも同じ物を注文する人がいたら、いつもの持って来ましょうか? って声をかけるだけでも相手は嬉しくなるもんさ。料理人がレシピを覚えるのが仕事なら、給仕はお客様を覚えるのが仕事だな」
サランは成る程っと手を打ち、キアラに渡されたノートの様な物に記入していく。
「サランちゃんの給金は本当に僕達が預かっといて良いの?」
「はいっ! そんな大金を持ち歩くのは怖いので!」
キアラは給金とは別に旅費等もサランに渡していた。
しかしサランは瑞希達と行動をするのならと、その金を瑞希達に預けたのである。
「じゃあサランちゃんの旅費代はここから出して行くとしても、少しは持っといた方が良いんじゃない? 買い食いとかもするでしょ?」
「それもそうですね……」
「じゃあとりあえず一万コルぐらいは渡しておくね? 足りなくなったらまた言ってね?」
「急について来させて貰ったのに、お金の管理までして貰ってすみません!」
サランはドマルにペコペコと頭を下げ、ドマルは手を振りながら返事を返した。
シャオは瑞希の外套を引っ張る。
「キアラに貰った料理を食べてみたいのじゃ」
「良いけど、中身は昨日食べたのと一緒って言ってたぞ?」
「美味いなら別に良いのじゃ。ミズキのも持って来るのじゃ!」
シャオ御者台を離れ、馬車の中から分厚く丸いナンを持ってきた。
「これしか無かったのじゃ! かれーが無いと味気ないのじゃ……」
「大丈夫だからそのまま齧り付いてみろって」
シャオが大きく口を開けて齧り付くと、中から昨日食べたのと少し風味が違うカレーが現れた。
風味としては昨日よりマイルドなのだが、昨日食べたカレーより、シャオは辛みを感じていた。
「昨日のよりちょっぴり辛いのじゃが、これは面白いのじゃ! 中からかれーが出て来たのじゃ!」
「早速カレーパンならぬ、カレーナンを作ったのか。本当良く出来てるよ」
「これ良いね! 何かをしながらでも食べられるし、移動中とかは助かるよ!」
「やっぱりかれーって美味しいですね! 魚でも作れるんですか?」
「魚でも野菜でもカレーは何にでも合うぞ! キアラの作る様なカレーはナンが合うけど、カパ粉を使って作るカレーは米にも合う! ……カレーライス食べたくなって来たな」
「米って何ですか?」
「穀物だよ。こっちでは見かけた事ないけど、俺の故郷の主食だったんだ。でもどっかにあると思うんだよな~」
「何でわかるのじゃ?」
「タバスさんの所で初めてハンバーグを作った時にシャオに見てもらってた時に蒸留酒を探しに行っただろ? あの時に似たような匂いの酒を嗅いだんだよ。まぁ俺の知らない食材で作ってるかもしれないけどな」
「何てお酒かわからないの?」
「あの時は急いでたし、その後もなんだかんだで聞きそびれた。縁があればまた出会えるだろ? それよりも今は頼まれた仕事を頑張るさ」
瑞希はパクパクとカレーナンを食べると、御者を続け、ボルボを走らせる。
シャオも食べ終わるともぞもぞと瑞希の膝に移動して瑞希に身体を預けるのであった。
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――もうすぐ夕方に差し掛かる頃、二手に別れる道があったので、サランの誘導により馬車を走らせる。
程なく走らせていると大きな湖が見えてきた。
「あれ〜? この時間なら漁をしている人達がいると思ったんですけど、舟が見当たりませんね?」
「ミズキ、この湖は魔物の気配がするのじゃ」
「魔物? 魚の魔物なんかいるのか?」
「おるのじゃ。ただ、この湖におるのはそんなに強そうでは無いのじゃ。数はおる様じゃが、さして危険はないのじゃ」
「ふ〜ん。おっ、村が見えてきた! サラン、あの村で間違いないよな?」
「はいっ! 村には宿もありますし、私もそちらに泊まりますよ!」
「久しぶりの帰郷なんだろ? 一日ぐらい構わないから家族と過ごして来たら良いさ」
「今日の夕食はなんじゃろな〜? 瑞希の魚料理も食べてみたいのじゃ!」
シャオはまだ食べた事のない瑞希の料理を想像している。
瑞希達は村に着くと、サランの案内で村の中を案内されながら馬車を走らせていた。
道中にサランを見かけた村人が話しかけて来るが、先ずは宿に馬車を止めるため、挨拶もそこそこに宿までやって来た。
宿に着くとサランには何かあれば宿まで来る様に伝え、出発の時間を伝えて別れた。
「お疲れ様ミズキ。ボルボもお疲れ」
「キュイ!」
ドマルはボルボを撫でると、シャオに出して貰った水をバケツに入れ、ボルボに飲ませる。
ボルボも魔法で出された水を気に入っており、シャオがいる時は好んで飲んでいる様だ。
「やっぱりシャオの水って美味いよな? ボルボもそう思うだろ?」
「キュイキュイ!」
「だよな〜?」
「最早普通に会話してるよね? でも確かにシャオちゃんの水って美味しく感じるよね。最初は驚きもあってそう感じてたと思ってたけど、慣れて来ても美味しいと思うもん」
「三人で褒めても何も出んのじゃ! それにわしは凄いのじゃから当たり前じゃ!」
シャオは急に褒められたためか、動揺しているが、その顔は満更でもない様子だ。
「じゃあ宿で寝るのも今日で暫くお預けだから、荷物を置いたら野営に必要な物を買いに行って来るよ」
「俺達も行こうか?」
「ミズキは御者で疲れてるでしょ? それに食材なんかは積んであるし、買いに行くって言っても大した物じゃないよ」
「ならお言葉に甘えて少し寛ぐか! シャオはどうする?」
「わしは瑞希とおるのじゃ!」
「じゃあ宿に入ろう!」
三人は宿に入り、荷物を置いて各々の時間を過ごす。
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割と早く帰って来たドマルを迎え、夕食をどうするか話していた時に、サランが部屋に入って来た。
「ミズキさん! 村を、我が家を助けてもらえませんか!?」
どうやら本日の夕食はまだまだ御預けなのであった――。
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