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song.10 歌姫と従者



ルカ様に手を握ってもらって人の波をかき分けて進む。

人が多すぎて前に進むのも、左右どちらに曲がるのも、後ろに戻るのさえも難しい。

この街にあふれる人の多くは成人済みの人で、私ぐらいの年齢の人はあまり見かけない。

そのせいか、人の波に揉まれながら、人の荷物にぶつかりまくりながら歩くことになる。


空いた片手でフードをもう一度深くかぶりなおす。

人との摩擦でフードが脱げてしまいそうだった。

こつこつと自分の足元から靴音がする。


先ほどルカ様に買ってもらった…いや、お店の女性から頂いた靴。

靴を履いて立った時に気づいたのだが、おそらく中敷きの厚さが厚いものを敷いてくれている。

あの女性は一体何者だったのだろう…

まるで何かを分かっているような感じで、とても察しがよかったように思う。

私が靴を履いていない理由を聞いた時も、かなりはぐらかしたにも関わらず、なるほどと納得してくれた。そのうえ私の足の傷を見て案じてくれた。



自分の足元を見ながら何かを考えて歩く私を不思議に思ったのか、ルカ様は私とつないだ手を少し揺らす。それに気づいて私が顔を上げて目が合うと、安心したように口元を緩ませた。

そしてルカ様がふいと目をそらすと、そのまま一つの出店に立ち寄る。


「お、いらっしゃい!今日は何用だい?」

「大きなタオルと、ハンドタオルを。」

「おうよ!それならいっぱいあるぜ。ここらから選んでくんな!」


大きな声でがっはっはと笑う強面の屈強な見た目の男性。

しかしその目元は優しい。きっととてもいい人なのだろう。

ルカ様はぱぱっとタオルを選んでいく。

そしてあらかた選び終わると、ふと私のほうを向く。


「アリス、好きなものを選べ。」

「え、私がですか?」


急に話を振られて素っ頓狂な声が出てしまう。

今まで買い物は靴を除いてすべてルカ様が選んでくれていたから、完璧に気を抜いていた。

慌ててルカ様の横に立ち、タオルを見比べる。

色だけで選ぶにもかなりの種類があるし、色を決めたとしてもそこからさらに柄を選ばなきゃいけない。


「ところで、これって誰が使うものなんですか?」

「…?お前に決まっているだろう。俺のも王のも、もうあるぞ。」


それは、確かに。

よく考えれば確かにそうだった。

でも、自分が使うのであればそんなに深く考える必要はなかった。


「でも…いいんですか?こんないろいろ買っていただいて…」


ずっと気になっていたことを問いかける。

あれこれ用意してくれるのはとても嬉しい。

でも、私は今ただの居候になっているからとても心苦しい。

するとルカ様は何を言っているんだこいつは…というような目で私を見下ろして、こほっとひとつ咳払いをして言った。


「お前はもう俺たちの家族のようなものだよ。

 …まあ俺と王が家族というわけではないんだがな。」


私から目をそらしながらそう言った。

胸の中心がぽかぽかするのを感じる。

ルカ様の首元が少し色づくのが見えて、更に心がきゅうっとなる。


言葉尻を少しふざけた言葉で濁しながら話すが、きっと本意は初めの言葉にあるのだろう。


「……ふふ」

「…あぁ、もう。早く選んでしまえ。」


片手で顔を覆って隠してしまう。

もう片方の手で私の頭をフードの上からわしゃわしゃと撫でまわす。

もみくちゃにされたフードの隙間から見えたルカ様の見える部分の肌は、すべてと言っていいほど赤く染まっていた。


「はははっ!仲いいねぇ旦那たち!いや、いいねぇ!

 旦那たちが買ってくれたら箔が付きそうだ!」


大柄の男性は、また豪快に笑った。

ルカ様にとっては更なる追い打ちだったようで、小さな声で「もういいだろ…」と言っていたのが聞こえた。


「…あの、ルカ様。私、このタオルがいいです。」


手を伸ばして、黒地に赤いラインが入ったタオルを取る。

ぱっと広げて見せると、ルカ様は落ち着いたのか、いつもの表情に戻っていた。

そして頷くと、私の手からタオルを受け取り、自分の持っていたものと合わせて店主に渡す。

それを受け取った店主の男性は、にこにこと笑いながらタオルを包んでくれる。


そしてあっという間に会計まで済ませ、店先から離れる。

くるりとお店を振り返ると、店主の男性が手を振ってくれたので、私も振り返す。


「さて…と。これで買うものは全部買えたか?」

「そうですね。メモに書かれてる分はこれで全部みたいです。」


メモの裏表を確認して、すべて買い終わったことをルカ様に伝える。

ルカ様はその言葉を聞くと、もう一度私の手を取って今まで通った道を引き返す。


「では、そろそろ帰ろうか。」


人ごみの中、ルカ様と手をつないで帰る。

歩いている最中も、ルカ様は絶えることなく私に話しかけてくれる。

その途中途中で何度かフードに触れて、位置を直してくれた。

私が笑えばルカ様も笑ってくれて、私が真剣に考え込めば、答えが出るまでずっと待っていてくれた。

お城にいた時よりもルカ様に近く、長く一緒にいたけれど、とても私に寄り添ってくれているというのがひしひしと伝わってきた。


「私、今日…とっても楽しかったです!」


ルカ様を見上げてそういうと、意表を突かれたかのようにルカ様は目を丸めた。

今日一緒にいて分かったのは、ルカ様は思っていた以上に表情を分かり易く変える。

そして恥ずかしくなったりすると、よく目をそらす。

特に表情が分かりやすいのが眼鏡の奥の瞳だった。


今も驚いているのがよく分かるし、たぶん…


「…そうか。なら、よかった。」


優しく細められる。

ルカ様の微笑んだ時の目元はとても優しい。

通常であれば無機質さを露わにしている眼鏡の奥の瞳も、笑えば熱を持ったかのようにやわらかくなる。



今日は、いっぱい学んだことがあった。

ルカ様と手をつないで、街の活気を、人の優しさを学んだ。

それはきっと、カイリ様の元にいたら学べなかったことで。



「アリス?」


ルカ様に出会えた。ユリウス様に出会えた。

それだけで、今までの不幸は掻き消えてしまうようだった。



「…いいえ。なんでもありません。

 ありがとうございます、ルカ様!」




二人でゆっくり帰路につく。

多くの荷物を抱えて、またいっぱい話をしながら。


森の入り口はすぐそこだった。


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