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4・黒猫

 テスト期間ということもあり、この一週間はほとんど遊べなかった。やっと最後のテストが終わった! 毎回この瞬間はものすごい解放感に包まれる。やったー! 自由だ!

 スマホの電源を入れると、メッセージが二件入っている。誰だろう、石川さんかな?

 一件目は悠さんからだった。この人今までなんの音沙汰もなかったのになんだろ。

『なんか石川がすごく荒れてるけど喧嘩でもした?笑』

 地味に、『笑』に腹が立つ。

 でも残念だったな、喧嘩はしていたが既に仲直り済みだ! ふはは。

 あれ、でも仲直りしたのに荒れてるってどうしたんだろう。悠さんもそれがわからなくて私に連絡したんだろうし……。

 と、とりあえず二件目のメッセージを見よう。ふみよしさんからだ。会おうという誘いだ。商社の部長さんって、忙しそうだけど結構早めの時間が指定されている。

 放課後、図書室で少し時間を潰し、待ち合わせ場所に向かう。喫茶店の喫煙席だったが、人があまりいないおかげで、煙はそこまで気にならない。

 ふみよしさんは、私の姿を確認すると、タバコの火を消した。別に吸っててもいいのに。

「ごめん、いきなり呼び出して」

「いえ」

 答えながら、席に座る。趣のある喫茶店。綺麗だが、どこか隠れ家感のある店だった。

「あのさ、なにか困ってない?」

 え、なにいきなり。

 ふみよしさんは、これまでにないほど真剣な表情をしていた。

「いや、大丈夫ですよ」

 曖昧に笑いながら、メニューを見る。お、メロンソーダフロートあるじゃん。

「あのさ、石川くんだけど――」

 心配、してくれているんだろう。ふみよしさんの言葉を遮るように、店員さんが水を持ってやってきた。

「ナンパしないで」

 低い声でそう囁く。驚いて店員さんを見ると、悠さんだった。バイトかな?

「こんにちは」

 挨拶をしたが、華麗に無視されてしまった。私のほうはちらりと見ただけで、すぐにふみよしさんのほうを向く。

「ふみよしさん、終わったらデートですよ」

「わかってるって」

 なんだこいつら。そういうプレイか、やめてくれ。

「メロンソーダフロートください」

 メニューを閉じて、横に置く。悠さんは再び、私のほうをちらっと見た。

「あーはいはい」

 面倒くさそうに機械を操作して、下がってしまった。まぁ、他にも仕事あるだろうしな。

「ラブラブですね」

 私がそう声をかけるが、ふみよしさんは険しい表情のままだ。

「俺のことはいいよ、志保さんが心配なんだって」

「あの、本当に大丈夫です」

 この人、どこまで知ってるんだ。本当に心配してくれているんだろうけれど、ちょっとぐいぐい来すぎじゃないか。

「嫌な予感がする。志保さんいい子だから、俺だって誰にでもこんなお節介するわけじゃない」

 真っ直ぐにこちらを見つめてくる。見た目が小学生なので、あまり迫力はない。

「メロンソーダフロートです」

 お、早いな。持ってきたのは悠さんではない他の店員さんだった。

「おいしい!」

 一口目はストローでメロンソーダを飲むのが私流だ。おいしい、ここのメロンソーダフロートおいしいよ。夢中になって、アイスにも手をつける。

「あの、石川さんのことなら自分でなんとかするので」

 自分で始めたことなんだし、自分でなんとかするべきだ。私だって、そんなに子供ではない。

「そう、わかった」

 それっきり、ふみよしさんは、心配するような言葉をかけてくることはなかった。私はメロンソーダを飲みきって、満足した。

 しばらくゆっくりしていると、私のスマホが鳴った。通知を見ると、石川さんからだ。

「あの、私もう行かないと」

「うん」

 余裕のある大人の笑顔。お会計のために、私は財布を探した。

「あ、いいよ」

 ふみよしさんに、制止される。え、奢ってくれるの。

「いやいや、そういう訳には」

 そうだ、呼び出されたとはいえ、私が飲んだんだし。あと地味に高いここのメロンソーダフロート。かなりおいしかったけど。

「おじさんにカッコつけさせて」

 きゅん。待ってめっちゃイケメンじゃん。

「あの、ありがとうございました」

 悟られないように、私はお辞儀をして、店をあとにした。

 店を出て、メッセージを確認する。結構近くまで来てるようだ。近くの駐車場まで歩く。駅から少し離れたコインパーキングは、ひとけがあまりない。

「どうしたんですか、突然話があるなんて」

 私が到着すると、石川さんが車の陰から現れた。周りに人がいないことを確認して、小声で話す。

「模倣犯がでた」

 そういえば、今週もあったな、殺人事件。テストのことで頭がいっぱいで、ニュースはちゃんと見ていない。ん? 模倣犯?

「先週は俺だけど、今週のは違う」

 先週? そういえばあったな。別の区だったけれど。

 石川さんは一度言葉を切って、深く呼吸をした。

「そもそも俺、最近は火曜日にやってるけど、こだわってるわけじゃない。授業の都合で今期だけだ。場所だって、生活圏から離れてればどこでも――」

「どうするんですか」

 どうするんだ、これってバレたってことだよね?

「俺の真似する意味がわからん」

 思ったより冷静だなおい。下手したら絞首刑だぞ。

「手口に法則性とかはないんですか?」

 私が訊ねると、彼は顎に手を当てて考える。思い出すように目を閉じる。

「最近は、服をぬがせて畳ませて命乞いさせたりしたけど……」

「アッハイ」

 引くわ。いい趣味とは言えない。やっぱり気持ち悪い。

 たしかに、リコのときとは違う。最近、というのは本当なのかも。

「あと手紙があった」

 手紙? それってつまり脅迫状ってこと。ポケットから取り出した紙を覗き込む。

「これもしかして……」

 ちょっと汚いこの筆跡、ヤマト先輩では? 私の考えを読んだように、石川さんは口を開いた。

「あいつ配達員だから色々知ってるもんな」

 この際、どうやってヤマト先輩が石川さんのことを知ったのかはどうでもいい。これからどうするかだ。

「だからってなんで真似するんですか」

「お前と別れろって書いてある」

 内容までは詳しく見ていなかった。私はひったくるように彼から紙を奪った。

「は???」

「本当に元カレじゃないの?」

 疑うようにこちらを見る。なに、どういうこと。ちょっと理解が置いてかない。

「違いますよ」

 やっとのことで、それだけ口にする。たしかにそう書いてある。

「土下座したら許してくれるって書いてあるからちょっとしてくるわ」

 え、どういうこと。たしかにそう書いてあるけど、絶対嘘じゃん。わかるよ、そういう人だもん、ヤマト先輩。

「俺ら別れるのはちょっと困るし」

 ほーん、そりゃ困るよな。ヤマト先輩が持ってる証拠はわからないが、私があの写真を見せたら一発アウトだ。

「そりゃそうでしょうね」

 ため息をついて、紙を返す。石川さんは珍しく私から一瞬目を逸らした。

「いや、っていうか」

 肩を捕まれて、その手が私の顎に伸びる。彼を見上げると、近づいてくる顔面に思わず目を瞑った。

 唇に、柔らかい感触。

 え、え……? つまり、これはどういう。

「そういうことだから……」

 目を開けると、じゃ、と手を挙げて車に乗り込む姿が見えた。

 私はのろのろと後ずさって、道を開ける。車道にでて、どんどん遠くなる車をただ見つめていた。

 まだドキドキしている。

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