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3/6

3・人殺し

 次の週末、今度は映画に行くらしい。ということは聞いたが、詳しいプランは聞いていない。

 よくよく考えたら、最初のデートは映画とか聞くもんな。この前いきなり遊園地行ったのがびっくりだよ。

 映画だったらスカートでも大丈夫だろう、ということで白系のワンピースを着ていくことにした。

 電車で待ち合わせ場所まで向かう。

「今日は白いな」

 石川さんは、待ち合わせ場所に既に到着していた。結構早めに来ているんだろうか?

「あのその色で服を判断するのどうなんでしょうか」

 私が到着するや否やそう言ってくるのはどうだろうか。この人実はあんまりモテないのでは……。顔はいいけど。

「ダメか」

 ちょっとしゅんとするのやめて欲しいんですけど。なんか悪いことしてる気分になるじゃん。

「いやダメとかではないんですけど……」

 言い淀んでいると、時計を気にし始めた。

「まぁいいや、行こう」

「はい」

 私が返事をすると、ナチュラルに手を繋いできた。

 え、え。ちょっと志保ちゃん困惑しちゃってるんですけど。ビジネスライクなお付き合いだろ我々は。

 デートに誘ってきたのはまぁ向こうだけど、どういうことなの。

「あの、えっと」

「どうしたの」

 私が何か言おうと口を開いたが、有無を言わさず手を強く握ってくる。

「いえ、なんでも」

 仕方なくそのまま映画館へ向かった。

 映画はよくあるファンタジー映画だった。別に怖いシーンとかもない。

 こういうのが好きなのか? それとも一応デートだから考えて選んだとか? そういうタイプに見えなくはないけれど。

 映画の最中はポップコーンを食べることに集中していたおかげで、余計なことを考えずにすんだ。

「昼なにがいい?」

 映画が終わると、もうお昼には遅いくらいの時間になっていた。

 先ほどまでポップコーンを食べていたことなどすっかり忘れ、私は思いをはせた。

「ラーメン食べたいです」

「え、ラーメン?」

 びっくりした様子で聞き返してくる。

「もしかして嫌いですか?」

 ラーメン嫌いの民か……。私とは分かり合えない。

「食べ物の好き嫌いはそんなにないほうだと思う」

 あ、そうなの。偏見だけど好き嫌いすごく多そうだと思ってた。

「じゃあいいじゃないですか」

「いいけど」

 ラーメンに村でも焼かれたのかってレベルの渋りようだな。どうしたっていうんだ。

 石川さんはのろのろと、スマホで店を調べ始めた。そこは調べてくれるのね。

「あ、味噌ラーメンがいいです」

「了解」

 ちゃっかり注文をつけると、面倒くさそうな返事がきた。

 なんとか調べたラーメン屋に行くと、お昼には時間が遅いということもあるのかそこそこすいていた。

 ラーメンを注文すると、結構すぐに提供される。さすがラーメン屋。

「そういえば食べる趣味ってあるんですか?」

 ラーメンの一口目は格別だ。それを堪能しながら、疑問に思ったことを雑談がてら投げかける。

「ごほっ、おま、ぐっ、それ……」

 石川さんは盛大にむせている。待って、そんな変なこと言った私? ちなみにラーメンはおいしい。

「大丈夫ですか?」

 ちょっと心配になる。たしかに人がそんなにいないからと言って、デリケートな話題に触れてしまったことは申し訳なく思う。

「あのさ」

 水を飲んで、落ち着きを取り戻した彼が、言葉を放った。

「お前食べたいとか思う?」

 まさかの疑問形。そういうこと聞くか……。やばいわこいつ。

「いや私はないですけど」

 私がそう答えると、間髪入れずに返事をした。

「俺だってないよ」

 あぁそうですか。まるで自分はまともですみたいなタイプね、はいはい。

 ラーメンを食べ終わると、石川さんはまたスマホをいじり始めた。

 私も、SNSを確認することにする。

「カラオケとか行く?」

 いきなりそんなことを提案される。

「え、いいですけど……」

 てっきりボーリングとかダーツになるかと思っていたけれど、これは意外な展開だ。

 大学生ってダーツするもんじゃないの? これは私の偏見だけど。

 てか石川さんが歌うところ想像できないんだけど、やっべ楽しみになってきた。

「じゃあ行こうか」

 そう言いながら立ち上がる。私も鞄から財布を取り出す。

「えっと、おいくらですかね」

 お会計をしないと。

「あ、いいよ。ここは」

 そう言ってレジへ行ってしまう。え、本当に払うの? ラッキー、なのかなこれ。

「え、でも……」

 こ、これが、スマートっていうのか? おお、これが大学生。

 そんなこんなでカラオケ店に向かう。私は流行りのJ‐POPを歌った。普段友達としかこういうところに来ないから、ちょっと新鮮だ。

「あの、どうぞ」

 歌を入れる機械を渡す。なにを歌うのか、ちょっと楽しみだ。

「どうも」

 そう言って機械を受け取って、曲を入れる。

 え、なにこの曲。鹿児島……?

「これ、どこかの校歌ですよね」

 タイトルから察するに、鹿児島の小学校の校歌らしい。

「俺の十八番」

「ふふっ」

 なにこれめっちゃ面白い。石川さんは真顔のまま、なにも言わない。

 私がしばらく笑っていると、頭に優しい感触がきた。え、頭撫でてる? なにゆえに。

「なんですかさっきから」

 ちょっと怪しい。なんだこの人。ちょっと睨みつけるが、彼の表情は変わらない。

「こういうことしたいのかなって」

「あの気を遣っていただなくて、大丈夫ですので」

 苦笑いを浮かべて、会釈をする。それでも彼は無表情のままだ。あれかな、カラオケ苦手なのかな。

「気を遣うの得意なんだよな」

「そうですか」

 そういうこと自分で言うのか、ちょっと面白いな。

 カラオケを出るとぽつぽつと雨が降ってきた。まだ夕方だが、秋も深まる時期なので陽が落ちるのは早い。

「今日車じゃないんですか?」

 いつも車移動のイメージあるし、あわよくば近くまで送ってもらおうと思っての発言だった。

「今日は電車できた」

 ッチ、使えないやつ。どっかで傘買うか。

 晴れの予報だったので、油断して折り畳み傘も置いてきてしまった。石川さんも同じだったようで、コンビニを探して歩き始めた。

 歩いているうちに、雨もだいぶ強くなってきた。それに、歩いている道も、なんというか、その。

「ここ入るか?」

 待ってここラブホじゃん、ラブホじゃん。

「え、あ、はい」

 なんか勢いで「はい」とか言っちゃったけど、どうすんだよ私!

 冷静を装って、中に入る。結構キラキラしてる建物なんだな。

 なんか受付はあっさりしていて、部屋へ行く。なんか案外普通なんだな。

 部屋はまぁよくドラマとかで見るキラキラした部屋だった。あ、電気とか色んな色あるのかな? あ、でっかいテレビある! しばらく部屋を物色することにする。始めてきた場所なので、ちょっと楽しい。

「あれ」

 気がつくと、石川さんがいなくなっていた。どこに消えた。突然いなくなるの普通に怖いんですけど。

「ひぇ、何奴!!」

 物音がして振り返ると、入ってきたドア付近の扉が開いた。タオルで頭を拭きながら、石川さんが出てきた。

「ごめん、なんかぼんやりしてたから。次どうぞ」

 お、おうおう。そういえばここラブホだったな。シャワーくらいあるよな。

 そういえば雨で濡れて寒い。髪もだいぶ重たく感じる。

「アッハイ」

 そう返事をして扉を開ける。おお、思ったより広いし綺麗じゃないか!

 お湯のおかげで身体が温まる。ここは天国か。

 シャワーを出ると、あのでっかいテレビにニュース番組が流れていた。

「雨、たぶんすぐあがると思う」

 そうか、ちょうど天気予報をやってたんだ。天気予報が終わると、今度は別の県で起きた殺人事件についてのニュースが始まった。

「あ、あの、石川さんって死体のほうが好みとかそういうことは……」

 ちょっと気になって聞いてみる。殺人鬼の考えることは、私にわかるはずがない。

 私の言葉に、石川さんは呆れたようにため息をついた。ついでに民法にチャンネルを変える。ドラマの再放送だ。

「お前俺のことなんだと思ってるの? 逆に聞くけどお前は死体のほうが好みなのか?」

「いや私は違いますけど」

 私が答えると、すぐに返事をする。

「俺もだよ」

 あれ、このやり取りさっきラーメン屋でやったな。

 あっそうだ、もう一つ聞きたいことあったんだ。

「ところでヤマトって人知ってますか?」

「なに突然? 配達員か?」

 笑いながらテレビから目を離さない。

「配達員やってる中学のときの先輩なんですけど」

 私が答えると、こちらに視線を向けてきた。

「知ってるかも」

 え? 知り合いなの、どういう知り合い?

「てかなに元彼なの?」

 え、そこ気になる感じ。さっきまでテレビに夢中だったのに、ずっとこっち向いてるし……。

「いや部活が一緒だったんすよ、てかどういう知り合いなんですか」

 気になる。ヤマト先輩はこう、物静かなタイプではないし、たくさん知り合いは居そうだけど。

「知り合いというか有名人だよ、色んな情報持ってるし」

 わっつ??? そういう感じなの今あの人。

「まぁいいです」

 私は驚きを顔に出さないようにして、備え付けのドライヤーで髪を乾かすことにする。

 髪が乾いてテレビを見ると、ドラマの再放送が終わっていて、今度は行方不明の女子大生のニュースに変わっていた。

「そういえば、文学部の元カノさんはどうなったんですか?」

 なんの気はなしに聞いてみた。大学生って、クラスとかないと聞くし、やっぱり別れると疎遠になるんだろうか。

「なんの話だよ」

 本当になにも知らないような表情。少し、いやかなり腹が立つ。

「意味わかんない、付き合ってたんでしょ?」

 突然キレだした私に、石川さんは困惑している。そんなこと知るか!

「は?」

 この、この――!

「ありえない、この人殺し!」

 鞄を持って、靴を履く。

「今更なんだよ」

 部屋を出る直前、そんな言葉が聞こえた。会計はまかせてやる、ふん!

 外に出ると、もう雨は上がっていた。

 ちょっと言いすぎたかな、いやいやいいよね、事実だし。


  ★


 あれから二日経ったが、メッセージ一つこない。あんなに酷い喧嘩をしてしまったのだから、仕方がないのかもしれない。喧嘩というか、私が一方的にキレたんだけど。

 水曜日の朝、リビングに行くといつものニュース番組が流れていた。共働きの両親は既に出かけている。またテレビつけっぱなしで出かけたな。

 呆れながらトースターに食パンをつっこむ。つけっぱなしのテレビから、ニュースキャスターがいつもの調子で淡々と喋っていた。

 隣の隣の街で殺人事件が起きたらしい。今回は刺殺、火曜日に起きている連日の事件との関連性を調査中。

 そういえば、リコが殺されたのも火曜日の夜だったっけ。でも、あれは扼殺だったよな。

 これってもしかして、私も殺されるかもしれんやつでは……。

 玄関を出て、駅に向かうためあの公園を通る。いつものルート。一時期はたくさんいた警察やマスコミはもう見当たらない。

「おはよう」

 突然、後ろから声をかけられた。こんなこと、前にもあったっけ。

「おはようございます、お久しぶりです」

 石川さんだ。いつもの、あの人好きのする笑顔を浮かべている。

 踵を返す彼について行き、車に乗る。私は、なぜかひどく落ち着いていた。

「乗るんだね」

 助手席に乗り込む私に、少し引いている。別に刃物や血の跡があっても驚かないと決めていたけれど、車は前乗ったときと同じで、綺麗なままだった。芳香剤を変えたかもしれない、秋らしい、金木犀の匂いがする。

「なんかもういいです」

 私がそう言うと、石川さんは車のエンジンをかけた。

「いや、俺としてはそういうスタンスは困るんだけど」

 もっと困ればいいのに。

 車を発信させて、学校の方へ走る。

「お前実は性格悪いよな」

 実はというか、最初からでは? もしかして、性格良さそうな見た目してる私? ちょっと嬉しい。

「あの、石川さん実は結構遠くの人ですよね」

 前から思っていたが、きっとそうだ。彼の様子から、疑いは確信に変わった。ハンドルを握る手が、少し震えている。でもそれは一瞬のことで、すぐに止まった。

「ま、まぁ。家の近くでやると疑われるだろ」

 車があれば簡単に移動できるし、捕まらないようにと考えればそれは自然なことなのかもしれない。学校や自宅付近は危険が伴う。

「幼少期に問題があるタイプですか?」

「ちょっと言っている意味がわからないが」

 表情からは、なにも読み取れない。

「私も本ぐらい読めるんですけど」

 私だって何冊か書籍を読んだ。曰く、多くの場合、シリアルキラーは幼少期に問題があるらしい。

 しばらく沈黙が下りる。赤信号で止まったとき、石川さんがちらりとこちらを見た。

「俺、九州の田舎出身なんだ」

 そう言って、信号が変わったため再び車を発進させる。

「ま、あとは察してくれ」

「いやわかりませんよ」

 田舎出身だからなんだ、さすがに情報量が少なすぎる。鹿児島県なのは知ってたけどさ。

「端的に言うと、金は持ってるけど、厳しく躾けられたタイプだな……と、ついたぞ」

 学校がもう見えている。もっと聞きたかったけれど、時間切れか。でもこれは仲直り、ってことでいいのかな。

「ありがとうございました」

 車を降りようとすると、声をかけられた。

「ちょっと待って」

 石川さんのほうを振り返ると、綺麗な微笑みを浮かべていた。

「いってらっしゃい、お姫様」

 ふぁっく。

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