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第08話 ♨ 玲奈のちょっとした日常 ♨


「さて、材料も買ってきましたし、料理を作っていきましょう。」


スーパーでカレーに必要な材料を買ってきたミナと玲奈。ミナはいつもより元気があり、髪も輝いているように感じられた。

玲奈も勇への感謝の気持ちを込めて、初めての料理をするため意気込んでいる。



「まずは、ニンジンや玉ねぎを切っていきます。」

「わかった。 あ、ちょっと待って、メモしなくちゃ!」

「メモ、ですか?」

「1度教わったものは作れるようにしないといけないから。」



玲奈の目からはやる気が伝わってくる。これは相当本気だ。

ミナも玲奈がわかりやすいように丁寧に説明する。



その後、具材は細かく切るなどのことをメモした玲奈は、玉ねぎを切っていた。ミナが試しにやらせたのだ。

最初は素早く切っていたが……



「待ってー! なんか目から涙が勝手に出てくるんだけど!」



どうやら幽霊でも玉ねぎには勝てないらしい。ちなみにミナはニンジンを切っているので何も問題はない。

さすがはミナ。ただ切らせるのではなく、玉ねぎを切る時の辛さも体験させようと考えていたのだ。



「ねえ、ミナちゃん、念力を使うってのは……」

「ダメですよぉ。 勇さんも玲奈さんが念力などの力を使わないで作った料理の方が喜ぶと思います。」

「そうだよね。 また、切っていこ!」



その後、無事に具材を切り終えた二人。先ほど、鍋にルーを入れたので、玲奈はとろみがつくまでかき混ぜている。

玲奈が熱いなどのことを言うかと心配していたミナ。しかし、その心配はないとすぐにわかった。



「玲奈さん熱くないのですか?」

「うん。今は熱さを感じないようにしてるからね。」

「なるほど、暖かさを感じるか感じないかコントロールできるんですか。」

「うん。そうだね。そういえば、温泉入る時も同じだ。」

「え⁉ 温泉入る時、熱さ感じてなかったんですか?」



ミナは珍しく目を真ん丸くして玲奈の話を聞いている。さすがに温泉で熱さを感じないというのは健康に良くない気がする。

玲奈は幽霊なのでどうなのかはわからないが。玲奈は何かを思い出したようで、ミナの質問にはただ「うん」と答えていた。



「どうかしましたか、玲奈さん。」

「あ、いや、ちょっと昔のことを思い出して……」



それ以降、玲奈は何も言わずに料理を作っていた。ミナもそっとしておこうとの考えだったようだ。

色々と考えているうちにとろみもついてきていい匂いがしてくる。ミナと玲奈が味見をした。


二人は満面の笑みを浮かべた。うまくできたようだ。


「出来たー!! ミナちゃんこれで完成だよね?」

「はい。完成です。」



後は、みんなの帰りを待つだけだ。時計を見ると午後4時になっていた。

夕食の時間まであと2時間だ。


玲奈は先ほどから気になっていることがあった。それは2階から物音が聞こえること。

大きな音ではないが、ずっと音が鳴っているというのは気になる。



「ねえ、ミナちゃん。さっきから物音しない?」

「そういえば、しますね。」

「見に行ってもいいかな?」

「はい、もちろん。 夏鈴さんだと思いますけど……」



そういわれたので、玲奈は2階へと勢いよく駆け上がる。といっても幽霊なので、宙へ浮いてひとっ走り。駆け上がってはいない。

まず夏鈴の部屋をノックする。


返事がない。だが、夏鈴の部屋では確かに物音がしていた。


「夏鈴さん、入りますね。」



ドアをそっと開けると、夏鈴が歌いながら踊っていた。何かの練習だということはわかった。

ドアの開く音に夏鈴が気づいた。ちょっと顔を赤くする。



「あ、玲奈ちゃん? どうしたの?」

「あ、えーっと……」



物音が鳴っていたので注意しに来ましたー、なんて言える雰囲気ではない。


「もしかして、響いてた?下に。」

「いえいえ! 夏鈴さんが何かしているなと思ったので見に来たんです。」



夏鈴は困っているような表情を見せた。秘密がばれてしまったかのような表情。

玲奈もそれを見てか、どう対応していいかわからず、とりあえず何か言おうとしたが、



「玲奈ちゃん、このことは誰にも言わないで! 」



夏鈴が先に喋った。しかし、今度は玲奈が困ってしまった。

このことを秘密にするとの約束。このことがわからず、何かまずいものでも見てしまったか、と頭をフル回転させてみるが何もわからない。



「このこと……?」

「そう、歌って踊ってたってこと。」

「わかりました。でも、どうして踊ってたんですか?」



玲奈が質問すると、夏鈴は部屋にある、クローゼットから神ヶ崎高校とは違う制服を取り出した。



「それは、中学生の時の制服ですか?」

「いやいや、これは衣装。本番はこれを着て踊るんだ。」

「もしかして……」

「そう! 私はプリティ★キャンディに戻るんだ。」



夏鈴はいつもより生き生きしていた。問題なのはそこではない。なぜそれを秘密にしなければいけないのかだ。



「だって、ライブするときに私の復帰のことを発表する方が、色々と盛り上がるでしょ?」

「盛り上がる……?」



玲奈は言葉の意味が分からない。神田旅館のみんなが、ということは何となくは理解できた。

しかし、本当に盛り上がるのかという疑問が頭の中に浮かび上がる。



「あ、そっか玲奈ちゃんはほとんど意味が分からないんだっけ。」

「はい、何となくしかわかりません。」



夏鈴は、優しさを交えたような、過去を振り返っているかのようにも見える眼差しを向ける。



「私が、アイドルを目指している途中で、男嫌いになった。そして受験をするという嘘の理由で、アイドル活動を一時休止した。それで、活動に戻れなかった理由は、また同級生から何か言われるかもって思ってたからなんだ。」



夏鈴の真紅の瞳は少し悲しく光っている。ちょっと話すのが苦しそうだ。

しかし、夏鈴は玲奈に全てを話す。



「なるほど…… それが神田旅館の何か関係があるんですか?」

「それを支えてくれたのが、ここに住んでいる人たちなんだ。」

「ひなのさんと、ミナちゃん、ですか?」

「玲奈ちゃんも、上川君も。」



なんだか、申し訳なさそうに玲奈に話す。確かに、勇は男なので夏鈴は嫌いなはずだ。

それを妹の前で話すというのは、かなり言いにくい。


そのことを聞いて玲奈は素直に驚く。



「私と勇にぃもですか!?」

「うん。上川君にはきつく当たっているけど、それは本心ではなくてね。ついつい、そうなっちゃうんだ。」

「そうだったんですね。 でも今朝はお騒がせしてすみません。」


上川君に怒ってないって伝えてと穏やかに返事をする。



「初めて二人を見た時、久しぶりにあったはずなのに仲良く喋っているから驚いて。」



頬を少し赤くして、笑う。夏鈴の笑顔はとても癒されて可愛らしい。

残念ながら、勇はそんな笑顔を見たことはない。



そしてそんな二人を見て、プリティ★キャンディの一員としての活動を再開することを決めたのだそう。

玲奈も初めて夏鈴と温泉に入ったときに、アイドル再開のことは言われていたが、自分が関係しているとは全く思ってなかっただろう。



「ちょっと話がそれちゃったから、元に戻すけど、そのライブに向けての踊りと歌を確認してたんだ。」



ライブはおよそ1か月後。神田旅館に住む、ひなのや、ミナ、勇にはライブの前日にそのことを話すらしい。



プリティ★キャンディは現在、夏鈴抜きのメンバーで活動している。人気も劣っておらず昔と同じ、もしくはそれ以上の人気だ。

メンバーの中でも夏鈴は人気が高い。1、2位を争うほどだ。さらにメンバーの中で最年少なのにサブリーダー。



本番では最初の一曲は夏鈴抜きのメンバーで歌ってもらい、その直後に夏鈴が登場して、会場を沸かすというものらしい。




夏鈴は、高校受験を控えているためと一旦活動を休止した。しかし、もうとっくに高校受験は終わっている。

そのようなことからなのであろうか、ネットで赤月夏鈴と調べると、引退説やメンバー不仲説、プロデューサー関係で何かあったのだの、様々な憶測が飛び交っている。



「今、ネットで私のことを調べると活動を休止した本当の理由を推測している人が大勢いてね。様々なことが言われているんだ。」



玲奈にネットのことを伝える。玲奈は何とも言えない複雑な表情になっていた。

一応は話は終わったはずなのになぜ? というような表情にも受け取れる。



「なんと言ったらいいかわかりませんが、有名になるっていうのはいいことばかりじゃないんですね。」

「うん。それで、いろんなことが重なって、活動を再開するんだけど、」



玲奈はネットの怖さを知り、2人の中で重い空気が流れる。

その空気に気付いた夏鈴は、



「えっと、とにかく! 活動再開を支えてくれた人はひなのやミナちゃん達だけど、直接的な理由は上川君!」



大きな声で重く苦しい空気をどこかへ追いやる。玲奈は驚いて目を真ん丸くしている。



「ほら、上川君、私と仲良くなれるように努力してくれてるよね。それでそんな子もいるんだーってなってさ、ファンも同じ気持ちなのかなって考えさせてくれたんだ。」

「勇にぃが…人助け……」


その日、そう、1日前から夏鈴は男嫌いは前よりひどくは無くなったらしい。勇は知らぬ間に、夏鈴の活動再開と高校生活を助けていたのだ。

その後、このことは誰にも言わないという約束をしつつ、夏鈴が気に入っている、プリティ★キャンディの歌を披露してくれた。



夏鈴は歌を披露した後、何かを思い出したのか、クローゼットを開く。そして白いワンピースを玲奈に渡した。

昔、使った衣装のようだ。これはもう使わないらしく、大事な話を聞いてくれたお礼だそう。



うれしくなった玲奈は、お礼を言い、「ライブが待ち遠しいです!」と大きな声で伝え、夏鈴の部屋を出ていったのだった。




部屋に戻った玲奈は勇とひなのが帰ってきたことに気づいた。



「あ、玲奈ちゃん、お邪魔してるよー」

「うーん、こっちがジョーカーかな? お、玲奈、お帰り。今日中学校どうだった?」



勇とひなのは学校の話をしながらトランプでババ抜きをしているようだった。

玲奈が入ってきたので自然にトランプは中断される。



「今日はずっとミナちゃんに憑いてったんだけど、みんな楽しそうだったよ。もちろん私も。勇にぃとひなのさんは?」

「みゃーは、勇にお世話になった、一日だったかな。」

「俺は新しい友達ができた。女子の友達なんで、玲奈にも紹介してあげたいんだけど……」



そこで玲奈がチャンス!という目でこちらを見つめる。



「明日さ、勇にぃに憑いていってもいい?」





久しぶりに更新しました伊月優です!

今回は、神田旅館に住む、5人を描いてみました。次回、玲奈が勇の通う高校へいってしまう!?というようなところまで行きたいのですが、まだ時間は夕食前なので、2話くらいあとの話になると思います。

よろしくお願いします。


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