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第04話 ♨ ようこそ! 神田旅館へ! ♨

勇たちに挨拶したのは小さな女の子。

勇と玲奈は状況を理解できない。



「え、この小さな女の子が女将さん!? たぶん中学生とかそのくらいの年に見えるけど。」

「正確には今日からなんですけど、ニ代目女将しています。中学生なんでわからないこともありますけどよろしくお願いします。上川さん。」



優しく微笑みかけるが、話が頭に入ってこない。

今勇が理解したことといえば、ミナが女将さんという情報のみ。

それ以外のことは勇の耳には入りこんでいたが、そのまま抜けていったという感じだ。頭が追い付いていない。



元気な玲奈ですらも手で何かを数えながら情報を整理しているほどだ。



「あ、ミナちゃん、当然なんだけど勇の隣にいる幽霊見えてるよね?」



ひなのがニッコリとした顔でミナを見る。



「はい。当然です。もしかして上川さんの妹さんですか?」


なんと、ミナにも玲奈のことが見えていた。玲奈のことをじっと見つめる。



「えーと、よ、よろしくお願いします。玲奈って呼んでください!」

「いえいえ、お客様なので、玲奈さんと呼びます。私のことは好きに呼んでください。あ、でもあだ名は少し苦手です……」

「じゃあ、ミナちゃんでいいかな。私も旅館に住んでも大丈夫?」

「全然構いません。というか玲奈さんのことは把握してましたし。」



やはり勇たちの混乱は進むばかり。どうして玲奈のことを知っていたのかなど。その状況を理解してか、ひなのとミナは顔を合わせ少しだけ笑った。

表情が顔に出ていたのだろう。



その時、その場を和せるようなのか、空気を読めないのか暖かい風が吹いてきた。

暖かいとは言っても風は強い。




「上川さんたちも混乱してますし、風も強くなってきたので、あとは旅館についてから話しましょう。明日は高校の始業式なんですから風邪をひいたら大変です。」



そのようなことを話しているうちに列が店に近づいてきた。念願の温泉まんじゅう。



玲奈がたくさん食べたい! と駄々をこねていた。しかし、そんなわがままを言うのは兄としては恥ずかしい。

一般の人にばれないようにこっそり注意したが、ひなのとミナが奮発してくれた。



購入した温泉まんじゅうは全部で八個。そのうち二つを勇とひなのに、包装して紙袋に入れられてミナに渡された。

玲奈が貰うのは危険だからである。ひなのは玲奈にまんじゅうを渡す。



まんじゅうを食べながら帰る。まんじゅうを口に入れ、噛んだその瞬間ほっぺが垂れ落ちそうなくらいおいしい味であった。



「おいしい! 私、こんなの食べたの初めて。ありがとうございます! ひなのさん、ミナちゃん。」

「うま! 玲奈のわがまま聞いてくれてありがと、宮日、えーっと眠木? 女将さん?」




勇がミナの呼び方に困惑する。先ほどは玲奈と呼び方を決めていたが、勇は何も決めてない。

それどころか、ミナは年下でありながらこれから住む旅館の女将をしている。



立場がどちらが上なのかわからない。たぶんミナが上だと思うが。



「眠木でいいですよ。ミナちゃんだとちょっとアレですからね…… 」



周りが急に静かになる。ミナ的には言葉を濁したつもりであったのだろうが、他の三人には伝わってなかったようだ。

たぶん濁したということにすら気づいていない。



「で、でも温泉まんじゅう気に入っていただけてよかったです。」



これまでのことは何もなかったかのように、咳払いでなんとかごまかそうとする。

その後も勇と玲奈は温泉まんじゅうに夢中であった。よほどおいしかったのだろう。



温泉街で食べ歩きとは何とも贅沢である。



「そういや、今食べている玲奈のまんじゅうは俺ら以外の人からどんな風に見られてるんだ?」

「あーそのことでしたらご安心を。幽霊が手に取ったものは幽霊と同様、見えなくなります。」

「さっき玲奈ちゃんに渡したところは他の人に見られてなかったから心配することはないと思うよ。」



なんか、あっさりと言われてしまったが、なんとも不思議な会話である。

二人は幽霊歴? が長いのだろうか。



「もしかして、だけど神田旅館に住む人はみんな幽霊が見えてる?」

「はい、そうです。 詳しいことは夕食の時に。みんな優しいので大丈夫ですよ。」

「あ、ありがと。ミナちゃんはすごいね。勇にぃとは大違い。」


「おい、大違いってどういう意味だよ。俺だって一応は……」

「一応は?」



何ができるの? とちょっと小悪魔要素が入った目で見てくる。



「いやいや、俺は高校生だし、できる…か、にゃ!?」

「はいはい。そういう言い訳はいいから、素直に認めればいいじゃん。」



玲奈がうるさいと、両方のほっぺをつまんでくる。

しょんぼりと何かはわからないが、認めざるをえなかった。

すると笑い声が。


「仲がいいのですね。二人は。私も姉がいますが、こういう会話はまだしたことありません。」

「「 え⁉ 」」


二人が目を丸くして顔を赤くする。兄妹だからなのか、顔を赤くするタイミングも目を丸くするタイミングも同じであった。



「やっぱ仲いいよね。勇と玲奈ちゃん。みゃーも弟か妹が欲しかったなって二人みてて思う。」

「そうかな? ていうか眠木、お姉ちゃんいたんだ。もしかしてそれが、一代目女将さん?」

「そうです。 お姉ちゃんは大学生で、大学も遠く、忙しいということなので、私が引き受けました。 あ、私、他に買い物あるのでこれで。」

「あ、ミナちゃん、買い物みゃーが行こうか? 勇達には旅館の案内しなきゃいけないでしょ? それにミナちゃんの初めてのお客さんだから。」



ミナはひなのの親切心に感謝して、買い物をお願いした。



「じゃ、勇、玲奈ちゃんまたあとでね。」


そういってひなのは近くにあるデパートに出かけたのであった。



その後、ミナには中学のことについて聞かれた。男子にとってどんな感じで学校生活を楽しんでいるのかと。

さらにミナは明日から中学三年生。そう、中学校最高学年である。

少し緊張するらしい。勇はとりあえず、自分が思ったことをすればいいと伝えておいた。



役に立たないと思っていた、先輩からの助言であったが、ミナには感謝された。

ミナはすごく大人びていると感じた勇。なぜなら勇自身、中学三年になる時何も感じてなかったからである。

ただ学年が一つ上がる、ただそれだけの感覚。



ミナが話すことにはとても興味が出てきて話に夢中になっていた。

旅館が目の前にあることに気づいていなかった。




「少しお二人とも目をつぶっていただけますか?」



何かはわからないが二人とも目をそっと閉じる。



「そして前に一歩進んで上を見上げてください。そして、目を開けてください。」



一歩進み、上を向き、目を開けると……



「す、すげぇ……」

「すごい……」



目の前に広がっていたのはとても広い和風の豪邸。ミナが止まったということはここが神田旅館。



「いらっしゃいませ。上川さん。神田旅館は気に入っていただけましたか?」

「もちろんだよ。ここで過ごせるなんて考えたら最高だな。玲奈もそう思うだろ……ん? 玲奈?」



横を見ると上を見上げたまま、目を輝かせている。とても気に入ったのだろう。

勇たちの視線がわかったのか、はっとなり、意識が戻ってくる。



「それでは中の方ご案内させていただきます。」



ミナが戸を開ける。まず玄関からがすごい。とても広く輝いている。

昔ながらの和の感じ。



すると、背の高いミナとよく似た顔立ちの女性が。

トランクケースを持っている。



「あれ、ミナじゃん。もしかして上川さん? と幽霊?」

「もぉ、お姉ちゃん。もう女将じゃないからって気を緩めすぎ。こちらは、上川さんと妹の玲奈さん。」

「そっか。上川さん、おっちょこちょいなミナのことよろしくっす。」

「私はおっちょこちょいじゃない。っていうかお客さんの前なんだからやめてよぉ。」



ミナは顔を膨れさせる。



「ま、上川さん。ミナは普段はこんな感じなんで安心して。」



ミナの姉は勇たちを安心させようとしてくれている。若干、勇自身もミナにもこういう一面があるのだとわかって安心した。



「ていうかお姉ちゃん、もう行っちゃうの?」

「うん。大学遠いし、これから住むアパートにも手続きとかあるから。荷物は昨日のうちに業者に頼んだから。」



たまに帰ってくるといい、玲奈には笑顔を、勇たちにはお辞儀をして旅館を出ていった。


ふと、ミナの顔を見ると、すごく落ち込んでいた。こんな姿を見られた自分が恥ずかしいのだろう。



「なんか、すみません。恥ずかしいところを見られてしまいました。」

「いやいや、そんなことはないよ。眠木もそういう女子っぽいところもあるんだなって思った。」

「ありがとうございます。で、では旅館の中をご案内します。」



旅館は二階建てで一階には玄関とお食事処、温泉、プール、卓球などができる所があった。一階だけでも相当広いのである。

二回は、全部入居者が住む、部屋だそう。一応自販機も置いてある。トイレは全ての階にあり、廊下に設置されている。

温泉ももちろん混浴……なんてことはなくちゃんと男女別々である。



「そういえば、入居者が何名いるかを教えてなかったですね。ひなのさんと、私と、あと一人は赤月夏鈴(あかつきかりん)さんの三名です。」

「あれ? なんか聞いたことある名前、誰だっけ。」

「あの人気グループの『プリティ★キャンディ』 のサブリーダーですよ。明日から勇さんと同じ学校に通いますよ。」


ああ、と勇は思い出す。プリティ★キャンディとは、今、若い世代に人気のグループだ。

メンバーは5人。夏鈴はそこのサブリーダーを担当している。


勇も何度がテレビで聞いたことがある。可愛らしい声で歌っていたことだけ覚えている。

ただ、赤髪でポニーテールの夏鈴の印象は違った。メンバーの中でも上手な歌唱力で踊りもうまかった。

同じ年なのにこんなことをしているのかと謎に関心していたことを思い出す。



「夏鈴さんは今お出かけのようなので、後で紹介しますね。」



勇たちは部屋へ案内された。一応ミナに部屋は別々にします? と聞かれたが、玲奈は一緒の部屋がいいと希望を言っていた。

確かに一緒に過ごした時間は短いので当然の反応だ。ここは勇は何も言わない。



部屋へ案内された勇はその光景を見てまた驚いてしまった。

部屋が広く、テレビも冷蔵庫も押し入れもあった。窓からはこの町のきれいな景色が広がっている。



驚くことに全部屋同じらしい。布団は敷布団でミナが敷いてくれるそうだ。

また、荷物もすでに必要なものは届いてあった。



6時の夕飯までの間は自由ということで部屋でゆっくりすることにした。

二人は横になると気づかないうちに眠ってしまっていた。




――数時間後――



勇が起きて時計をふと見るとなんと5時55分。ぞろ目。なんていっている場合ではない。

玲奈をすぐ起こしたが、寝ぼけていて状況を理解するのに2分かかった。



急いでお食事処へ向かう。するとみんなが座っていた。

ひなのが手招きしている。そしてテーブルには鍋と、野菜、牛肉が。どうやら今日はしゃぶしゃぶのようである。


長いテーブルに神田旅館の入居者全員が座っている。勇の前には、ミナと夏鈴。右隣にはひなの、左は玲奈。

なぜか緊張してしまう。女子4人と食事なんてしたことがないからだ。



では、皆さんそろったようなので、とミナが黙想の合図をする。

どうやらこれが旅館のしきたりのようだ。玲奈は黙想の意味を分かってなかったようなので小さな声で教えてあげた。

目を開けるようにまた、ミナが合図をする。



「では、改めまして、勇さん、玲奈さん、ようこそ! 神田旅館へ!」



こうして勇たちの新たな生活が始まったのであった。



少し投稿が遅れました。

ここから勇たちの生活がスタートしました。次話か、その次くらいで学校生活も書いていきたいなと思っています。

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