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第02話 ♨ 妹と出発 ♨

夕食を終え、しばらくしたころ、勇は自分の部屋に戻り、チラシを眺めていた。

が、肩が異常に思い。そして背中に柔らかいものが……

後ろを見るとその訳が理解できた。



妹の玲奈である。玲奈が勇の肩につかまり、チラシを覗き見していたのだ。



「玲奈、バレバレだぞ。」

「え⁉ 気づいてたの、勇にぃ!」



あどけない顔で、わかりやすく驚きを表情に出す。



「いや、肩に違和感があったら自然と後ろ見ちゃうだろ。ていうかその前から手の感覚は感じてたけど……」

「べ、別に驚かそうとしてたわけじゃないからね。ただそのチラシが気になって。」

「俺もこのチラシがある意味気になってる。さっき母さんに、ここに住んで見ないかって言われたんだ。」

「え⁉ 勇にぃの一人暮らし! もちろん玲奈も憑いていってもいいよね?」



期待の眼差しを可愛い瞳を無意識に使って勇に伝えるが、すぐに返事はできない。



「どうしたの? もしかしてダメ?」

「いや、そういう訳じゃないけど……」

「けど?」



グイグイ玲奈が攻めてくる。昔は兄に遠慮がちだった玲奈だが、自分の思い通りにならないとしつこいという一面もあった。

その性格は今も健在のようだ。



「だって、しばらくここに戻ってくることが出来ないんだぞ。 母さんにも会えなくなるし……」

「でも、お母さんは事情があってこんなことを言ってるんでしょ?会えなくなるってのは仕事の関係上?」

「っ⁉」



図星なので、勇は声に出すわけにはいかず、顔に出すしかなかった。それに玲奈の言動が思いもよらなかったので、重なって驚いてしまう。



「私が気づかないとでも思った? 玲奈もまあまあ大人なんだしそのくらいわかるよ。」

「ごめんな。母さんこれから相当仕事が忙しくなるから、家に戻ってこれなくなるんだって……」



仕方なく、玲奈に夕食を食べているときに相談された話を話す。そうでないとずっと文句を言ってきそうだ。

簡単に説明すると、仕事の関係上忙しくなり、家に中々戻ってこれないのだそう。

でも勇にとっては大事な高校生活なので、一人にさせるわけにはいかず、悩んでた所にこのチラシが入ってたそうだ。



「なるほど、ていうかなんか深刻な問題になってない? そんな考えることないと思うよ~」

「え? そうかもしれないけど、ずっと住んできたこの家から離れるのはちょっと嫌な気がして。」

「そしたらたまに帰ってくればいいでしょ? 玲奈も憑いていくし。」

「でも……」



玲奈も母と勇どちらの気持ちも尊重してくれている。確かに玲奈の言うことは正確だ。

だが勇にとっては思い出のあるマイホーム。十年以上支えてきてくれた家だ。

決断は難しいと、玲奈に伝える。



「あ、もしかして玲奈に気を使ってる? 一緒に過ごしてきた日々が無くなっちゃうみたいな?」

「まあ、そんな感じだな。」

「だったら新しい家で思い出作ればいいと思うよ。とりあえず見学だけしてみようよ。」


確かにその考えがあったと勇は折れる。とりあえず見学してみよう。そう思い、母に伝えるとむしろ喜んでいた。



なんやかんやで一段落したところで勇は風呂に入ることにした。いろんな意味でさっぱりしようと思って。

ゆっくりと湯船につかる。暖かくて静かな空間は癒してくれる不思議な存在。

だからこそ、自然と独り言も出てしまう。


「玲奈なんだか大人になったなー」

「え⁉ そう思うの?」

「ああ、そう……」


驚いたような顔をして、声が聞こえた方向を見ると玲奈が、体を洗っていた。もちろん裸で。

玲奈の成長した胸、そしてキョトンとした素顔を見てしまい、余計恥ずかしくなる。

勇の限度メーターがついに限界に達してしまったようだ。



「は⁉ ちょ、おい!」



勇は立ち上がった衝動で風呂のお湯が一気に溢れてしまう。玲奈も勇の体を見つめてしまう。


そしてこの謎の空気にトドメを入れるように母が何をしているのかと、声をかけてくる。

勇は、熱いのか、恥ずかしいせいなのかわからないが、頭がぼーっとしていて、ただなんでもないと答えるしかなかった。


勇が風呂に入っている時間はなぜか、大きな音が響いたという。



――翌朝――



勇は、妹の裸の夢をみて、驚きが隠しきれず飛び跳ねて起きたはずだが、横になったまま体が動かない。

これが金縛りというやつなのか、そう思いながら辺りを見渡すと、

妹が宙に浮いたまま、すやすやと寝ていた。

こちらの事情も考えてほしい。声は出せないのかと思っていたがそんなことはなく、ただ体が動かないという状況だった。



「おーい玲奈、朝だし、旅館の見学にも行かなきゃいけないし、なににせよ、俺の体が動かないから、早く起きてくれ。」

「ん? 勇にぃおはよう。って、あれ? 起こした本人が起きてないの?」

「よくわからないけど体が動かないんだ。」

「え⁉ あ! 私の念力のせいか! ごめーん、私寝ているとき制御できないんだよね。でも起きてる時なら大丈夫!」



玲奈が手をポンッと叩くと勇の体が急に動くようになった。

しかし勇はげっそりとしている。


「制御できてないならそんな自信を持たないでくれ……」


そう呟き、目覚めの悪い朝を迎えた。



朝食を食べ終わったところで、洗面所で眠たそうな顔と、幽霊の妹を鏡に映しながら歯を磨き、すぐに着替えた。

それは早く神田旅館に行かなければいけない用事ができたからだ。

なぜなら、勇の母親が昨日、旅館の女将さんと話をして、勇が旅館に入居することが決定してしまったからだ。


そのことは朝食を食べているときに伝えられた。妹と話をして見学に行くはずだったのだが、もう決定してしまった。

母親にも今更否定はできず、妹も行こうよ! みたいな乗りだったので、仕方なく一人暮らしという条件を飲み込んだのだ。



荷物は母が送ってくれるという。勇は必要最低限のものをトランクケースに入れて、母親に最後の挨拶をした。


「勇、元気でね。たまに帰ってきてね。」

「あ、うん。母さんも元気で。」


恥ずかしさが混じっていてうまく伝えられなかったが悲しみたくはないと思い、玄関を出た。


勇はまず近くの駅に向かわなければいけない。電車で二時間かけて神田旅館まで行くのだ。

玲奈も気分はノリノリで、鼻歌を歌っていた。


勇の家から駅までは歩いて十五分ほどのところにある。不便なようなそうでないような。

何といっても微妙な時間である。


勇は辺りを確認して人がいないのを確認してから、玲奈と話す。

勇の母も見えてないのなら、一般人には見えるはずがない。ましてや今浮いて移動している人など。



「なあ、玲奈。地味にここから駅って遠くないか?」

「そうかな?」

「なぜ質問を質問で返すんだ。」

「なんか、いきなり話しかけてくるのびっくりして。曖昧に答えた。」

「ま、その質問はどうでもいいとして、その格好で寒くないのか? 春って言ってもまだ四月だし。」



勇は玲奈の服をまじまじと見る。だが玲奈には別のところを見ていると勘違いされたらしい。


「ちょっ、どこ見てんの⁉ まさか、大きくなった私を恋愛対象として……」

「見てない。だってお前、白い浴衣しか着てなくないか?」

「あ、私は、温度とか感じないよ。別にそうしようと思えばできるけど、今は寒いから無理だね。」

「幽霊ってなんでもできるのな……」


温度を感じないとはどんな感じなのだろうと想像してしまい、少し羨ましくなってしまった。

すると今度は玲奈が勇の方を見つめる。服ではなく、顔。


「なんだ、今度は玲奈から何か言いたそうな顔だな。」

「勇にぃって中学校の頃モテなかったの? 急に恋の話になるけど。」


少し困惑して頭をかく。勇は友達とそういう話をしたことがないのだ。

結論から言うと勇は中学二年の頃、義理チョコをもらったくらい。すなわちモテてない。

だが、実の妹にそんなことを言うのは少し気まずい。だから曖昧にごまかす。


「女子はなんか友達として見られなかった。」

「えーっと、勇にぃは、女子をふってたの? てことはモテたの?」


この状況だと、いくらごまかしたとしても、ループしそうだ。

だが、どこまでできるのかを試してみた。



「いや、まあ、そんな感じ?」

「ん? もしかして、私にモテなかったことばれたくないの?」



さすがに妹も気づいたらしく、このループは一瞬にして、終わりを告げる。もはやループでもない。

あと、玲奈の視線も冷たい。



「あーもう、ごまかそうと思ったのに、そうだよ、俺はモテたことなんてない。」

「やっぱり。」



くすっと玲奈は口を手で押さえて笑う。謎に必死にモテなかったことを隠そうとしていた兄が面白かったのだろう。



「てか、向こうの旅館にはどんな人がすんでるんだろうね~、あと温泉なんかあるのかな?」

「そんなこと聞かれてもなー。もしかしたら俺らよりもずっと年上の人かもしれん。温泉もあるかとかは聞いてないなー。」



玲奈は若い子などと風呂に入ることを期待していたのか、少し表情から明るさが消えたような気がした。

話していると時間は経過するのが速いものだ。もう十分も経過している。


もちろんその間、歩いていたので、駅に近くなり段々とすれ違う人の数も多くなってくる。

玲奈にはあまりしゃべらないようにしてくれと頼んだ。人混みの中で変な人とは思われたくないから。



玲奈は久しぶりの駅の光景に目を輝かせていた。確かに、玲奈が駅の光景を見たのは小学生低学年のころ。

その何年か前とは違い、新しい建物や飲食店などができて駅も栄えるようになってきた。



勇はあまり関心を示さなかったが、実は駅に行くのは一年ぶり位で、改札の入る前でどこの方面に乗ればいいのかをスマホで確認していた。

すると、メールで母から連絡が来る。そのメールの内容は


『しばらくしたら、神田旅館の人が駅の改札前に来るって。勇を旅館へ連れてってくれる。向こうの人は勇の顔知ってるみたい。じゃあね。』


というものだった。なんか微妙に疑問が浮かぶような気がするが、それは後々聞くとして。

改札前といっても特徴がわからないのでは仕方がない。

たぶん年配の方だろう。だから勇は年配の人を探すことにした。



――十分後――



十分またがまだ勇に声をかけてくれる人はいない。

というか、なぜ連れてってくれるのだろう。旅館の人にはまだ子供扱いをされているのか。

地図アプリを使って教えてくれればいいのに。



改札からは色々な人が出てくる。会社に向かう人であったり、友達と話ながら来る人、カップル、家族、イヤホンで音楽を聴きながら来る人……

その光景を見ていると、一人のフードを被った女子が歩いてくる。彼氏と待ち合わせだろうか。まさか旅館の人ではないと思って別の方角を見ていると、



「始めまして。君が、上川勇だよね? みゃーが、神田旅館の人だけど。」


可愛らしい声がする。このような若い女子が神田旅館の人なのかと、勇はただ見ている。

特徴は少し紫がかった髪の毛と、小顔であどけなくて、どこか猫に似ているような可愛い顔。そしてフードを被っている。身長は150後半といった所だ。

胸はまだふくらみかけであった。

すると、玲奈に肩をトントンと叩かれ意識が戻る。たぶん誰にも見えてない。



「あ、はい。よろしくお願いします。」

「敬語使わなくていいよ。だって同い年だし、明日から同級生だし。」

「同級生? もしかして、同じ高校を受験した?」

「そう。あ、みゃーの名前言ってなかったね。宮日(みやび)ひなの。よろしく。」



性格は言動からして、明るい性格のようだ。フレンドリーで優しそう。

そのまま宮日ひなのという少女に勇はついていき、改札を通った。


今日は休日で明日から新学期が始まるということもあり、駅は混んでいた。現在の時刻は午前九時。

ひなのと勇、そして玲奈がホームで電車を待っている。スマホで時刻表を確認すると、あと二分で来ることが分かった。



「俺がさっき思ったことだけど、みゃーって何?」

「あれ? そんなこと言ってた? 自分のことを指す言葉なんだ。 直そうって思っても癖だから難しくって。」


なんか気まずい雰囲気になってしまった。とりあえずフォローする勇。


「直すこと無いんじゃないかな。 俺は個性的でいいと思う。」

「なんか、気使ってくれてごめんね。 それと、ありがとう。」



勇の顔をしたから覗いてくる。身長差もあって余計に小さく見えてしまう。


すると電車がやってくる。春の新しい風を勢いよく乗せて。

ちょっと風が強かったのか、玲奈とひなのは髪が揺れている。ひなのは目にゴミが入ったのか手で目元を優しく触っている。



すると、ホームに電車が停車する。

電車のドアがゆっくりと開く。勇たちはその電車に乗り、神田旅館を目指すのだった。



ひなのとの電車内での会話で妹の話へ発展した。

しかし、その話の中でひなのがいった言葉に勇は驚きを隠せなかった。



「その亡くなった妹さん、近くにいるけど、見えてるの?」




この続きも明日出します。

あと数話だしたらあらすじを更新します。

先に出しておくとネタバレになりそうだったのでこのような形をとらせていただきました。


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