06 必死の美優は容赦ない
「4万持ってないの?」
「あるけど、まさか4万も俺に奢らせるつまりなのかよ、やだよ」
「はぁー? じゃああんた何円持ってこうとしてたのよ?」
「諭吉1枚のみ!」
新たは美優に見せつける。
「舞、1万円分課金しようと思ってたんだよね」
「兄にどんだけ奢らせるつもりだ!」
「あらた、早く持ってきてよ、遊ぶ時間減るじゃない」
「気持ちよさそうに寝てたくせに、よく言うぜ。」
「お願い……お兄ちゃん」
舞が俺の服をつまみ、おねだりしてくる。明日から女子高生とは思えない、女子小学生に見えてしまう。
「はぁーー、わかったよ。せっかくの入学祝いだしな、でも1人1万円までだからな」
「まぁーー、いっか」
「ありがと!!あらた」
「お兄ちゃん、ありがと」
美優は「ありがと」と言わず、新も少し気になったが、いつもの事なので無視した。
新は部屋に戻り、お金を財布に入れた。
「俺の分も多めに持ってくか」
結局、財布には4万円入れた。そして、靴を履き外に出た、妹達は外で待っていた。
「んじゃ、行くぞ」
家から大須商店街まで徒歩10分だ。自転車で行きたいとこだが、4人とも小さい頃から歩いて行ってたせいか、今でも歩いていくようにしている。
一緒に大須商店街へ行く時は、妹達同士で仲良く会話をしていて、新は妹達の会話を聞いていてたまに「へぇーー」「ほーー」などと1人で呟いている。
歩いていると舞が急に走り出し、道横でしゃがんだ。
「あ! くろすけーー、よしよし」
舞が野良の黒猫を撫でている。
「やけに懐いてるな、って名前付けてるって事はもう何回も会ってるのか」
「そうだよ、なんか最初から寄ってきてくれたの」
「舞は穏やかだから、猫も警戒しないんだな」
新は機嫌が良さそうに言った。
「よしよし、じゃあくろのすけばいばいーー」
「じゃあなーーって、少し名前が変わってるんですけど!」
新が舞にノリツッコミをした。
新は珍しく会話をつくってみる。
「お前らそういえば中学校の時の学年末テストどうだった?」
「私は安定の1位よ」
遥香は勉強が得意なのだ。しかし、運動が苦手なのだ。
「遥香は流石だな、舞はどうだった?」
「舞は、22位だったよ」
学年で200人ちょっといて、そのうちの22位だ。頭の良い方だ。しかも運動も得意である。
「美優は何位だった?」
そう聞いたら、美優は一気に不機嫌になった
「何だっていいでしょ、あたし推薦決まってたんだから学年末テストで良い点取らなくたって関係ないじゃない」
少し怒り気味で新に言い放った。
「舞知ってるよ、美優はね……」
「ああっ!言っちゃダメ!」
美優は舞の口を無理やり塞いだ。舞はもがいている。
「ふふっ、私も美優の順位知ってるんだよねぇ~」
「遥香!言ったら許さないんだから」
美優は新に順位を知られたくないのだ。
「お、お前そんなに悪いのかよ、遥香言ってくれ」
「言うなーー!!」
美優は必死に2人を止める。舞は鼻まで塞がれ苦しそうにしている。
「美優のぉーー、順位はーー、236人のうちーー」
遥香は調子に乗り始めた。まるで小学生みたいだ。
「あーーあーー! 今日クレープ奢ってあげるから、言わないで!」
「ほんと!? ラッキー! 別に言っても私にメリット無かったけどね」
美優はホッとして舞の口を塞いでた手を離した途端。
「美優は229位だよ」
「嘘だろぉーー!?」
新は声が裏返る程驚いた。
「ま、舞ーーそれは無いよぉ」
美優は口止めを頑張っていたが、呆気なく言われてしまい、落ち込んでいる。
舞は口を塞がれ続けられたので怒って順位を暴露したのだ。舞は美優に向かいドヤ顔を見せている。
「まぁ、入学もきまったことだし、別に俺は美優に怒ったりしないけどな」
「ほんと!?良かった~」
美優はあっさりと元気を取り戻し、笑顔になった。単純だな。
「ただし、舞にもしっかりクレープ奢ってやれよ、ずっと苦しそうにしてたぞ」
「美優嫌ーーい、クレープ買ってくれたら許すかも」
舞はこんな事で人を嫌いになるような子ではない。ただ、クレープを食べるためにわざと大げさに言った。
「わかった、ごめんね舞、」
「イチゴがいっぱい入ってるクレープがいい」
「はいはい、わかってるって、じゃあ早く行こう、じゃあクレープ屋まで競走だ!」
美優だけが走っていった。美優以外のみんなは、運動神経抜群で足の速い美優に勝てるはずないと思い、走らずに歩きながら見続けていたら。
「あたしだけ走ってるとか恥ずかしいんですけどーー」
美優がしばらく走ったら、後ろを振り向き、俺達が走っていないことに気付いて叫んだ。俺達は美優を見てお腹を抑えながら大笑いした。
「美優ーー、先に行って俺の分のクレープも買っておいてくれーー!!」
新は先にいる美優に大声で叫んだ。
「新には奢ってやんないもーーん!!」
後ろを向き、走りながら叫んだ美優であった。