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キラキラヒカル 8(後編)  作者: 大野竹輪
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「キラキラヒカル」シリーズ 8(後編)

ここでは さおりの3年になった1年間を中心に書いています。


第10話


さおりは3年になった。


5月。バスケ部では、やはり西城の人気が高く、新入生の女子がかなりの人数練習を見に来ていた。

ただし、女子バスケ部はなかなか入る部員がいなかった。

というのもキャプテンの荒川さおりがけっこう厳しい練習をさせるくせに自分は何もせずしょっちゅうじっと座っていたりするため、部員は2年生松尾美咲と森幸代2人だけのたった3名で練習試合にすら出れなかったのだ。


バスケ部の女子更衣室では、


美咲「どうなるのかなバスケ部?」

幸代「ほんと、あってない部だよね。今年1年生が入ってこなかったしね。」


とくに男子と合同練習の日には、さおりの声がいつもより大きくなり、おかげで男子部員までびびる始末だった。

なお男子の新入部員は3名いて、全てA1クラスの松本、桜井、相葉だった。


さてこの日は男子バスケ部の練習試合が本校で行われた。

当然のごとくたくさんの女生徒が体育館を埋め尽くしていた。


久々に応援団部が見学サイドで協力していた。


生徒1「やっぱりかっこいいね、西城君。」

生徒2「ほんとほんと、他に勝てる男子いないのかな?」

生徒3「うちの学校って差が激しいよね。」

生徒1「そう、私もそう思うわ。」

生徒2「今日は相手校の女子も応援に見に来ているから、見学多いね。」

生徒3「あいつらも西城君目当てじゃない?」

生徒1「そうよ、きっと・・・」


確かに西城がシュートを決めるたびに観衆の悲鳴が体育館中に響いた。


キャー!!!!ワー!!!



2日後空はやや曇り空ではあったが校内の競技大会が例年通り無事に行われた。


最終的に試合結果だけをいえば、バスケットボール女子の種目ではC1クラスが勝ち続けついに優勝した。バスケットボール男子の種目ではB1クラスが光の活躍でなんとか優勝した。


一方のバレーボール男子では西城のクラスが優勝した。


この結果西城と光の2人が多くの女子のファンを増やすことになった。

ただ女子のなかには西城がバスケットボール種目に参加しない理由を知らない者も多くいた。



ある日の放課後の下駄箱にて。

麗子が帰ろうとしたとき、カバンからピンクの手帳が落ちてしまった。

それを知らずに麗子が帰ろうとしていたとき、ちょうど通りかかった西城がその手帳を見つけて、


西城「鳥飼さん。」


西城はけっこう大きな声で麗子を呼び止めた。


麗子「は、はい。」


麗子はドキッとした様子で答えた。


西城「手帳を落としましたよ。」


西城はそう言って手帳を拾い、麗子に手渡した。


麗子「あ、ありがとう。」


西城はその場をさっさと離れて行ったが、立ち止まったままの麗子は内心喜んでいた。

自分の名前を覚えてもらっていたからだ。

しかしその麗子の手帳の裏側に西城の写真がはさんである事までは彼は気づかなかった。


麗子が校門を出たすぐ後、さおりが下駄箱にやって来ていた。


さおり「ふん、古い手を使う・・・」

>>じゃ新しい手って何?


さおりはゆっくりと下駄箱前にある掲示板を眺めていた。


そこへ令が通りかかった。


令「よ、元気してるかい?」

さおり「いつものことよ。」

令「変わんないねぇ・・・」

さおり「お互いね。」


さおりは令のそわそわした様子を見ながら、


令「待ってんの?」

さおり「べ、別に・・・」

令「わかるわよ私には、付き合い長いから・・・」


感づかれたさおりは声を大にして、


さおり「余計なお世話よ!」

令「部員増やそうとしないの?」

さおり「下手な奴入れても仕方ないじゃん。」

令「それを鍛えて強くするのがキャプテンの仕事じゃないの?」

さおり「相変わらず言うねえ・・・」

令「あんたのお陰よ。」

さおり「もういいよ、過去のことは・・・」


そう言ってさおりはうつむいた。


令「いっしょに帰ろうか?」


令は何気なく軽くさおりの肩をたたいた。


さおり「ん・・・そ、そうね・・・」

令「彼まだ来ないよ。さっきトイレにいたけど、連れとカラオケに行くってさ。」

さおり「後つけてるの?」

令「トイレでたまたま出会っただけよ。そこで連中が行き先をしゃべってたからさ。」

さおり「どっか寄り道する?」


令「決まってんじゃん、カラオケに!」


さおりは軽くうなずいて、


さおり「あっそう・・・」



南高針地区にあるスーパー「ゲキヤス」には数年前からカラオケのテナントが入っていた。

高校からちょうど寄り道には打って付けの場所だった。

令とさおりの2人はよくここのカラオケを利用していたのである。


今日もさっそく中に入って行った。


令「いつもの部屋空いてて良かった。」


令はこの店ではお気に入りの部屋があったのだった。


さおり「令は好きだからね、カラオケ。」

令「でも初めてここに来た時は、2年前の5月でサトシと2人だったんだよ。」

さおり「え!私より先に手を出してやんの。」

令「早いもの勝ちってやつですか・・・」


令はガッツポーズをした。


さおり「でさ、あれは?」


令は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに気づいて、


令「そのときCよ。」

さおり「信じられない・・・」

令「私はいったい何だったの?」

さおり「遊ばれてたんじゃないの?」

令「何よ真剣だったわ!」

さおり「私こそ、遊ばれてたんだわ。」

令「今頃ですか・・・」

さおり「いっぱい買ってもらったけど・・・」


令の目の色が変わってきた。


令「ヴィトン?エルメス?」

さおり「そうよ。」

令「うふふ、私たち2回旅行してるよ。」

さおり「呆れた・・・」

令「現実をもっと見なきゃ。」

さおり「あんたには言われたくなかったけど、負けたわ。」

令「勝ち負けの問題じゃないよ。」

>>いや、けっこうそうかも・・・


さおり「そうかもね。結局奥さんにバレて、私たちだってもうちょっとで退学になるとこだったからね。」

令「そうだあの先生、サッカー部も絡んでいたよね。」

さおり「そうそう、部員の酒、タバコ問題であの先生も同伴だったから。結局サッカー部は4年間休部になっちゃって。」

令「まあしょうがないと言えばそれまでだよね。」

さおり「そうね。」

令「美術後任の元気はじじいだからね。」

さおり「ほんと、好みじゃない・・・」


令は急に思い出したかのように、


令「さおり、五郎は敵が多過ぎるよ。」

さおり「わかってるわよ。」

令「いつも一番近くにいるくせに何やってんのよ!」

さおり「何であんたにそこまで言われなきゃなんないのよ。」


少し間が空いて、


令「良い事教えてあげる。」

さおり「何よ。」

令「五郎の好きな相手知ってる・・・」

さおり「え!!!」


さおりはかなり驚いたようだった。


令「そんなに驚く?」

さおり「だ、誰よ。」

令「知りたい?」


さおり「何もったいぶってんのよ。」


令は少しうつむき加減になって、


令「ん・・・でも確証はない・・・」

さおり「何だ、つまらない・・・」


さおりは大きくため息をついた。

その時隣の部屋に客が入った。


令「お、来たか!」


さおりは何も考えずにすぐにトイレに行った。


部屋に残った令が、


令「さおりの奴、しょうも無いことは早いんだから・・・」


さて、隣のカラオケルームでは。


光「早く次いって!」

松本「歌う順番が違うよ。」

相葉「オレが最後でいいよ。」

西城「光、先に歌えよ。」

光「よおし!」


光はマイクを持って踊りながら、


光「走り出せ~♪」

桜井「それって嵐?」

光「もちろん!」

>>相変わらずお調子もの!


松本「イメージ違うよな・・・」


さおりが部屋に戻ってきた。

どうも隣の部屋の偵察もしていたようだ。


さおり「なんで光までいっしょなんだ・・・」

令「え!また仕切っていたんじゃない・・・」

さおり「たぶんね。」


トントン・・・ドアをノックする音が聞こえた。


そしていきなり、


光「やっほ~い!!!」

>>いつもの元気で明るい光の登場


令はいきなりの入室と大きな声に驚きとショックで、ガクッとしながら、


令「あちゃちゃちゃちゃ・・・(^^;;)」

光「あれ?部屋間違えたかなぁ??」

さおり「しっかり間違えてるわよ!」

光「わー!!さおり先輩じゃないっすかあ!」


光は目の前にいたさおりを大きな声で呼んだ。


さおり「呼ぶな!バカ・・・」

光「オレも1曲いいっすか?」

令「よくないよ。男子はとなりとなりとなりの部屋でしょ!」

光「まあまあまあそう言わずに、はいマイク~♪!」


光は自分もマイクを持ちながら踊り出した。


さおり「最悪だわ・・・」


マイクを渡されたさおりもガクッとしながら、そして令は急に思い立ったように、


令「私トイレに行って来るわ。」

さおり「え!そんなのあり・・・(×。×)」


さおりは急に元気がなくなってマイクをテーブルに置いた。


光とさおりの2人だけになった部屋は異様なムードが漂い始めていた。


光「先輩デュエットしましょう!」

さおり「いらん!そんなもん!」


光はマイクをさおりに渡そうとしたが、さおりは受け取らなかった。

そのため光は2本のマイクを交互に構えながら歌っていた。


さおり「お前は一体どんな神経してるんじゃ!」


さらに隣の部屋から令が楽しく歌っている声が聞こえた。


さおり「令のやつ!!!!!」


さおりも急いで隣の部屋へ入った。


相葉「わ!どうなってんの?」

西城「さ、どうぞどうぞ。」


西城はさおりに場所を空けた。

令が一瞬さおりの方ににらみを効かせて、


令「おいおいおい・・・」

桜井「はい令先輩、次オレいいですか?」

令「いいよいいよ!」


令は思った。

西城とさおり・・・近付き過ぎ!!!!!

>>そしてあなたは興奮しすぎ!!!!!



高1トリオは嵐のメドレーをどんどん歌っていった。

のりのりでこの部屋全体が明るかった。


一方・・・


光「ん?」


光は周りを見回した。


光「何でオレ1人なんだ。」

>>早く気づけよ!


やっと自分が1人になったことに気づく光であった。




翌日のC1クラス1限目は社会だった。

講師の小袋先生はちょっとソワソワしていた。


小袋「今日は経済ですが、自習にします。」

春日「おお、やったーあ!!」

さおり「声がでか過ぎ・・・ばあか・・・」


さおりがつぶやく。


マリ「自習はいいけど、いつも男子が騒ぐんだから。」


マリは春日の席を見ながら言った。

横にいたさおりが、


さおり「ほんと。死ねばいいのに。」

マリ「それはちょっと言い過ぎかもよ・・・。」


生徒の騒ぎも気にせず、小袋はさっさと戻って行った。


春日「トゥース!!」

郷「おい、春日。机の上から降りろよ。」

さおり「・・・・・・」



2限目以降は天気が雨に変わった。




第11話


7月上旬に高校バスケットボール地区大会が花園学園大学の体育館を利用して行われた。

この大会では3年生は抜けて、1、2年による初めての試合だった。


例によってたくさんの女子高校生たちが西城を見に来ていた。

女子は1回戦で負けてしまったのだが、男子は順当に勝ち進み、そしてついに決勝戦で僅差で優勝した。


バスケ部の男子メンバーは近くのレストラン「リトル・キッチン」で打ち上げを行った。


やがて食べ終わったバスケ部の部員たちはここでミーティングを行い、新しいキャプテンに西城を選んだのであった。



7月中旬の夏休みに入る直前に今度は高校バレーボール地区大会が花園学園大学の体育館を利用して行われた。

ところがこの大会の2日前にバレー部男子の中心人物が練習中にころんで腕を骨折し、大事な試合に出れなくなってしまった。

仕方なくバスケ部の西城がピンチヒッターで出ることになった。


通常は許されないのだが、今回高校体育連盟の役員の数人が花園学園大学の教授だった事から、裏でいろいろ調整があったようだ。詳しくはわからないが、今回に限りピンチヒッターが認められた。



地区大会の当日はさらに活気付いた。

西城が出ることが急に決まって、女子高生たちがまたここに集結することになったからだ。


生徒1「やっぱいいわよね。」

生徒2「ほんとほんと。オールマイティだもん。」

生徒1「あー付き合ってくれないかなぁ・・・」

生徒2「ここにいる女子はみんなそう思っているよ。」

生徒1「そうよね、敵多し。」

生徒2「ほんとほんと。」


ところが急だったので準備不足だったのか、それとも体調が悪かったのか、西城のクイックがなかなか決まらず、決勝戦までいきながら、それもかなりの接戦までにはなったのだがついに負けてしまった。


めぐ「どうしちゃったんだろう?」

夏美「ほんとだね。おかしいよね。」

めぐ「きっと何かあったんじゃないの。」

夏美「そんな雰囲気だよ。」


この日西城は校門を出る時も友達に何も言わず1人で帰宅した。

このせいかこの日の打ち上げは無かった。


そして数日後西城はバスケ部キャプテンを辞退することにした。




次の日のB3クラスでは、今年から中野高校から転任してきた英語科の藤森先生がクラス担任をしていた。


藤森「明日から夏休みに入ります。今日はこれまでの中間経過の成績表を配ります。」


藤森はそう言って成績表を1人ずつに配った。

たまたま松尾美咲と森幸代が隣同士の席になっていた。

生徒はみなそれぞれ自分の成績を覗き込んでいた。


幸代「あー今年も英語だめだぁ・・・」

美咲「そうだね。」


美咲と幸代は1年のときから英語が苦手で成績もよくなかったのだった。


幸代「あ、そうだ。今日クラブ行く?」

美咲「挨拶くらいしとこうか・・・」

幸代「そうね。」


2人はバスケ部の部室に行った。

さおりはまだ来ていなかった。


美咲「あ、ちょっとトイレ行って来る。」


美咲はトイレに行った。


このあと予想もしなかったことが起こった。

たまたま美咲はカバンを置いて行ったのだが、チャックが開いていて、中から成績表の一部が見えていた。好奇心からか幸代が美咲の成績表を覗いてしまった。


幸代「え!英語・・・」


そうなのだ、英語の成績が98点!


幸代「し、信じられない・・・」


幸代が悩むのは無理も無かった。

2人は1年のときから英語の成績ではドベ争いだったからで、勿論2年になってもまったくお互い変わりばえしない成績のはずだったからである。


幸代「何でだろう・・・」


とりあえず、幸代は成績表を元に戻しておいた。

しかしこの悩みが後々大きな問題になっていったのである。



夏休みに入る少し前。

ある日の漫画部の部室にて。


数人の部員がおとなしくコミックを読んでいた。

春日が近藤のそばに行って、


春日「近藤、何読んでるんだ?」

近藤「これ?『サイボーグ009』。」

春日「サイボーグ、おお何か強そうな、しかし009って、007の真似?」

近藤「お・・・・・い。全然違いまーす。とんでもなくレベルの高いSFコミックです。」

春日「何々?」


近藤「世界平和のために世界中から選ばれた9人のサイボーグたちが悪いやつらと戦うんです。ちなみに9人のサイボーグのうち1人は赤ちゃんです。が、この赤ちゃんが一番強い。」

春日「なるほど。」

近藤「え?わかったんですか?」

春日「いや、まったくわからん。」

近藤「まあ一度読んでみてくださいよ。」


近藤はそう言うと『サイボーグ009』を春日に渡した。春日はそれを持って元の自分の席に戻り、読み始めた。


数分後、


春日「ははははは。」

近藤「何だよ、またかい。」

春日「これはおもしろい。」

近藤「そんなシーンあったかなあ?」

春日「いや、006と007の顔が。」

近藤「春日先輩の方がよっぽど・・・」

春日「何、よっぽど・・・」

近藤「いえ何も。」

春日「トゥース!」


マリ「すいません。そこ、うるさいんですけど。」


マリはそう言いながら、部室の扉に貼ってある『部屋では静かにして読みましょう』の貼り紙を指差した。


近藤「すいません。」

春日「トゥース!」

加藤「またかよ・・・」




さて、いよいよ夏休みに入った。

女子バスケ部の夏休み練習は人数が少ないのでほとんどやらなかった。

そのためか暇をもてあました幸代は、中学時代の友達とカラオケに来ていた。


が、たまたまそこで担任の藤森先生と美咲の母親が2人でカラオケから出てくるところに出くわせてしまった。


幸代「な、なんで・・・」


幸代はあまりの光景に落ち着きを失ってしまった。

そしてさらに幸代の疑問はどんどん膨れ上がっていったのだった。


幸代は帰宅した。

やがて夜母親が帰宅したときにカラオケでの出来事を話した。

母親はいつものようにTVでサザエさんを見ながら、


母「ああ、松尾さんのお母さんはPTAの副会長だから、担任と話すこともあるでしょう。」

幸代「そうなんだ・・・副会長・・・」


なんだかよくわからない母の説明に幸代は自然と納得させられたような気持ちだった。

>>ほんと、よくわからない説明。


男子バスケ部の練習では、西城と光が参加していたが、めずらしく郷と春日が練習を覗きに来ていたのだった。


郷「いいなあ、オレももうちょっとだけバスケが上手ければなあ・・・」

春日「お前にできるんだったら、オレもできそうだな。」

郷「よく言うよ。ボールを持った事もないくせに。」

春日「玉なら持ってるけどな。」

郷「こんなとこで下ネタは止めろよ。」

春日「トゥース!」


郷「うるさいよ。」


近くにいた吉永が、


吉永「ほんとうるさいよ。」

春日「オレ?」

郷「他にいないだろうが。」


そこに西城がやってきて、


西城「すいません。うるさいです。」

郷「ほら。みろ。」

春日「オレ?」

郷「もういいよ。行こう。」


郷に続いて春日が帰って行った。




第12話


夏には毎年恒例の花火大会が東中野商店街近くにある中野北公園で今年も行われた。

公園だけでは場所が狭いので、近くの中野神社の境内や広場も縁日や櫓に利用されていた。

また公園がさほど広くなかったために、花火の打ち上げ場所は公園から北に2キロほど山よりにいったところで今年も準備された。


今年もさおりは隣のクラスの令といっしょに流行のカラフルな浴衣姿で花火を見に来ていた。


さおり「決まってるじゃん。可愛いよ。」

令「さおりもだよ。やっぱお揃いにしてよかった。」

さおり「ほんとだね。」

令「今年も人が増えているように感じるんだけど。何なのかな?それほど有名になったようには思わないんだけど。」

さおり「確かに毎年増えている感じはするよね。」


2人は新しく買った内輪をゆっくりとあおり合いながら、


さおり「今年こそ、いやな連中に会わなければいいけどね。」


急に何やらやかましい一団がさおりたちの近くにゆっくりと近づいていた。

>>やっぱり来たか。


光「いえーい!いえーい!いえーい!おー!おー!おーーー!!」


叫んでいるのは光だけだったが、あまりの大声だったので一緒に来ていた吉永にとっては迷惑千万だったようだ。


吉永「お前と来るんじゃなかったよ、まったくもう2年目だぜ・・・。」


そんな吉永の言葉さえ気にしない光は、通り過ぎる女子中学生や高校生を見つけるたびに話しかけていた。


光「ねえねえ、ちょっとそこのおねえさーん、可愛いねぇ。どこから来たのかな?」


由紀子は急に鳥肌が立ったようで身震いしながら、


由紀子「きゃー!きもい・・・」

光「何それ、オレお化けじゃないよ。」

>>お化けの方がましかも・・・


由紀子のすぐ後ろの方から、


めぐ「ちょっと、何カモってんのよ。私の妹よ!」

光「ひやー!これはこれは・・・」


そこにいたのは同じ高校のバレー部の3年生柏木めぐだった。


めぐ「相手間違えてるんじゃないの?」

光「失礼しました!」


柏木姉妹は関わりたくなかったのでさっさと消えて行った。


呆れているのは一緒に来た吉永だった。

大好きな1リットル入りコーラをまた一気に飲み干していた。


吉永「まったく・・・昨年とおんなじことしてやがる・・・」


そう言って、近くのゴミ箱にペットボトルを投げ捨てた。



少しすると、打ち上げ花火が何発か上がり始めた。

光には花火はどうでもよかった。また周りの女の子ばかりを眺めてしつこく声をかけていた。


光「ねえねえ、ちょっと君たちさあ・・・」

山中「おい光、何やってんだ!」


急に現れたのは担任の山中だった。

昨年と同じジョギング用の深緑色の上下ジャージ姿で、今年も生徒たちを監視するために来たように見えた。


光「うーわ!ここまでオレたちを追いかけてきたのかよ。」

吉永「今年は案外そうかもしれない。」

山中「何言ってんだか、オレの家はこの近所なんだって昨年言っただろうが。」

吉永「うわ、最悪・・・怒ってきたぜ。」

山中「吉永何か言ったか?」

吉永「いえ別に・・・」


2人は担任から離れるべくさっさと群衆の中に消えて行った。


この様子をうかがっていたさおりと令も、


さおり「ゴキブリの次は先コーじゃん・・・」

令「さ、行こう行こう・・・」


この2人も山中から離れるようにさっさと縁日の方に消えて行った。


そしてこの日だけは夜遅くまで花火の音が東中野の町全体に響いていた。




ここは令の家。月曜の夜9時になった。

母「あっと、9時だ。」

令「どうしたの母さん?」

母「TV、TV・・・」

令「またドラマか・・・」

母はいつも毎週月金はドラマと決めていた。


母「今日はBGF2の日よ。」

令「何昨年の続き?」

母「バブルガムファンタジー2!!」

令「何気合いれてんのよ。」

母「令も時代に乗り遅れないようにね。」

令「昨年もそう言ってドラマを一緒に観たんだけどなぁ・・・」

母「そうだよ、今年のドラマはもっと凄いんだから。」

令「じゃ、やっぱ一緒に観るかな・・・」

母「よしよし、おやつ持ってくる。」


令「相変わらずさすがだね。」


令は母親の行動にいつも呆れていた。


母「ほらあなたの好きなドーナツよ。今回はスペシャル!」

令「よし!じゃ飲み物持ってくるわ。」

母「さすがわが娘。ふふふ・・・」

令「ほんとうかな・・・???」


小声でつぶやく令だった。

こんな感じでいつも令はしっかり利用されていたのであった。


令「あっ、この曲聴いたことある。」

母「スランプよ。」

令「やっぱりね。よし今年も行くぞライブ。」

母「やっぱりそっちか・・・」


食べながら観る母と体を少し躍らせながら聴く令であった。


こうしてドラマの最終回まで、今年も2人はしっかり毎週かかさずTVに釘付けになるのであった。



季節は秋。

秋祭りが中野神社で行われた。


神社前の広場ではいくつかの縁日が催されていて、「金魚すくい」、「輪投げ」、「ヨーヨ釣り」などの店に幼稚園児と小学校の1、2年の子供たちがたくさん集まっていたのだった。


ここは「金魚すくい」の店です。


子供「おじさんどいてよ。」

光「何で、オレが先じゃん!」

子供「早く取ってよ。次待ってるんだから。」

光「しょうがないだろ、このアミすぐ破れるんだから。」

子供「何枚でやってるの?」

光「うーん、9枚目だな。」

>>へぼ!


子供「ピンクのおじさんよりへぼいな。」

光「何か言った?」

子供「あー、逃げちゃう・・・」

光「わ!」

子供「あーあ・・・」


泳いでいる金魚たちが笑っていた。

また、「カラアゲ」、「りんごアメ」、「綿菓子」、「フランクフルト」、「たこ焼き」、「広島焼き」、「焼きそば」などの店には、中高生から20代までの若者たちが多く集まっていた。


神社の奥の方では火の見櫓が置かれ、その周りで盆踊りをするために準備がされていた。


月島あかりと冬木マリが来ていた。


あかり「あんまり変わってないね。」

マリ「ほんとだね。昨年すぐに帰ったから、今年こそゆっくりしようと思ってたけど、やっぱり止めようか?」

あかり「これだったら本屋さんに行く方がいいよね。」

マリ「そうしよう。あそこまだ空いてるかな?」

あかり「まだ明るいし、いいと思う。」


こうして2人はいつもの『利再来』に行く事にした。



西中野地区に新しいカフェ『リラックス11』が昨年オープンし、1周年記念がおこなわれた。


店員「いらっしゃいませ。」

さおり「やっぱり新しい店はいいね。」

令「さおり、あそこにしない?」

さおり「そうね、そうしよう。」


2人は背丈2メートル50程もある観葉植物が置かれた角のテーブルについた。


令「なかなか造りもシャレてるわ。」

さおり「ほらあそこの壁さ、とってもクラシックぽいよ。」

令「ほんとね。社会で習ったどこやらの建築に近い物があるね。」


2人は内装のシャレたデザインをいろいろ観察して楽しんでいた。


店員「いらっしゃいませ。」


女子アナ「は~い皆さん、こんにちは。TV西東京の水曜日は『突撃インタビュー』の時間ですよ。今日は東京近郊西中野地区に昨年オープンした『リラックス11』にやってまいりました。そしてここはそのお店の前で~す。」


アナウンサーは店に入りながら説明していた。


女子アナ「そして今日のゲストはこちら、大野竹輪さんで~す。」


大野が現れて、


大野「こんにちは、大野竹輪です。よろしく。」

女子アナ「は~い。よろしくお願いします。」


2人は店内をゆっくりと歩いて行った。


女子アナ「こんにちは。」

店員「あっ、こんにちはどうも。」


マイクとTVカメラが店員に向けられた。


店員「あっTV。」

女子アナ「はい、『突撃インタビュー』で~す。」

店員「あっ、し、しまった。髪が乱れてるな。」

女子アナ「大丈夫ですよ。たいした顔じゃありませんから。」

店員「失礼やなぁ・・・」

女子アナ「はい。いつもこのパターンです。」

店員「TV見てますよ。」

女子アナ「ありがとうございます。で、店長さんは?」


すぐに店長がやって来た。


店長「おいおい、オレは無視かよ。」


突然横入りしたがる店長。


女子アナ「いえいえ、出てくるのが遅いからです。」

店長「ちょっと、ちょっと・・・待ってよ。」

女子アナ「いえ、待ちません。」


女子アナはさっさと席に座った。大野は呆れてしまって、


大野「いつもこんな感じです。」


何故か大野が店長に彼女の性格を仕方なく説明していた。


店員「店長TV見てないんですか?・・・いつもあんな感じですよ。」

店長「まったくふざけた番組だなぁ・・・」

女子アナ「今日はこのお店、開店1周年という事でモーニングメニューのご紹介をしま~す。」


女子アナはメニューを広げた。


大野「5分しかないですよ。」

女子アナ「大丈夫です。1分前でもモーニング頼みますよ。店長OKですよね?」

店長「OKです。」

女子アナ「ですよね~。」


いつもの上半身15度傾いた台詞。


女子アナ「では、店長さん。モーニングメニューのおすすめはどれですか?」

店長「全部です。」

女子アナ「ですよね~。」


女子アナはホットケーキと卵セットにした。


女子アナ「おー、このセットはソーセージも付いています。」


しばらくして、


店員「お待たせしました。」


店員がモーニングのセットをテーブルに置いた。


女子アナ「ここのソーセージはおいしいですよ。」

店員「はい、そのとおりです。」

女子アナ「私まだ食べたことはないんですが。」

店員「はあ?」


女子アナ「で、メニューの中で一番高いセットにしました。コーンスープも付いています。」

店員「そうですね。このセットが一番高いです。」

女子アナ「ですよね~。」

店員「では、ごゆっくりどうぞ。」

女子アナ「はい。自分で頼むときは一番安いセットしか頼まないので。」

店員「ですよね~。」

女子アナ「ですよね~。」


モーニングは会社払いだった。

女子アナが店を出るときはしっかり領収書をもらっていた。


そしてその後もお客さんが次から次へと出たり入ったりしていてなかなか盛況だった。




第13話


秋の芸術祭は例年通り週末に行われた。

今年のテーマは『協調』だった。

今年も昨年と同じく校門前に大きなコラージュアートが見学者を出迎えていた。


さらに講堂では迷惑なくらいやかましい高校生バンドの生演奏が今年も昨年と同じくらいに校内中にズシンズシンと響いていた。


令「おーい!みんな、のってるかー!」

観客「はーい!!」

令「よっしや、次いくぜ!」

観客「はーい!!」


観客たちはみなサーチライトを手に持って準備していた。


令「音楽はー!」

観客「爆発だーー!!」


一方美術室の2つ隣のパソコン部では、カメラで写真を撮り、それをイラストに変換するという『似顔絵コーナー』が人気だった。


ところで運動部のバザーのブースの一角ではさおりの手を叩く音が、


さおり「はいはいはい、よかったら焼きそばどうですか!」


新入生も頑張っていた。


桜井「焼きそばいかがですか~!」


桜井の大きな声が響いていた。


相葉「そう言えば光先輩来ないね。」

松本「さっきクレープのところで見かけたよ。」


裏で椅子に腰掛けていた西城は、


西城「あいつ!昨年の打ち上げでそば作るって言ってたぞ。」

>>相変わらずです。



芸術祭が終わった後、多くの生徒が文化祭の打ち上げを今年もスーパー「ゲキヤス」の向かいにある「リトル・キッチン」に集まっていた。

そして彼らは窓際の一角を再び占拠していた。


令「今日は元気なかったんじゃない、どうかしたの?」


心配そうな菊池令が小さな声で野口に尋ねた。


野口「あ、ああごめん。」


少し間が空いて、


令「何かあったの?」


令は注文したレモンティーを一気に飲み干した。


野口「受験だしさ、オレバンドを抜けようかと・・・」


しばらく菊池令は黙っていたがやがて、


令「そうかあ・・・・残念だけどね。」

野口「悪い。」


野口はアイスコーヒーのブラックをストローでかき回しながら言った。


令「悪くはないよ、お互い同じ大学に進むわけじゃないしさ。」

野口「令は素質あるから、また大学でも頑張って歌いなよ。」

令「好きだからね、きっと続けるつもりだよ。」

野口「来週のライヴを最後にしたいんだ。」

令「わかった。」


そんな2人の会話すら気にせず、隣の女子に、


春日「トゥース!」


美咲「うるさい!」

さおり「このゴキブリがぁ・・・」

>>癌からゴキブリに変わった?


さらにその隣の隣のテーブルでは、


光「イエーイ!!」

>>今回も1人だけ浮いています。


桜井が隣の松本に小さく小声で、


桜井「にぎやかだよね。」

松本「しょうがないじゃん、先輩なんだし・・・」

光「おーい!そこ何か言ったか?」


光が松本の方をじっと見ていた。


松本「何でこっちを見るんだ?」


松本が小さな声でつぶやいていた。


あせった様子で横にいた桜井が、


桜井「いえ、何もありません。何も言ってません。」


それを聞いて光は、さらに元気が出てきて立ち上がり、


光「今日は飲もうぜ!!イエィ!」


自分ではかっこうが決まったと思い込んでいたようだ。

>>それは無理でしょ!


相葉「何でもいいけど、光先輩何か手伝ったかな?」

桜井「バザーだろ・・」

相葉「そうそう。」

松本「全然ブースにいなかったよね。」

相葉「一度確か食べには来たよ。」

桜井「そ、それだけ・・・(^^;;)」

相葉「たぶん・・・」

光「オレ300gステーキ追加!」

松本「まだ食うみたいな・・・」

桜井「聞こえるよ・・・」


西城は呆れた様子でテーブルの隅の方で最初から最後までずっと黙っていたのだった。



数日後。ここは校長室。


教頭「呼ばれましたか?」

校長「ああ・・・」


校長は座ったまま右手で机の真ん中を軽く叩いていた。

そのリズムが何となく2拍子から急に4拍子に変わった。


校長「この間の芸術祭で、講堂でやっていたバンドの演奏なんだが・・・」

教頭「ああ、女性ボーカルで最近流行のハードロックをやっていた連中ですね。」

校長「それはいいが、近所の住民から苦情が来てね。」

教頭「え?何と・・・」

校長「やかまし過ぎる。言ってる事が無茶苦茶だと。何やら『音楽は爆発だ』とか言って叫んでいたとか。」

教頭「『音楽は爆発』・・・そのまま演奏で爆発してしまったか・・・」

校長「冗談言ってる場合ではないよ。来年は中止してくれたまえ。」

教頭「はっ、承知しました。」


教頭は部屋から急いで出て行った。

校長室の扉を閉めながら、


教頭「『芸術は爆発』だよな・・・まあ音楽も爆発していいか・・・」


教頭は訳の分からない悩みを抱えながら職員室へ戻って行った。



12月に入った。

女子バスケ部の部室では、さおりと幸代の2人だった。


さおり「幸代最近全然元気ないね。どうかしたの?」

幸代「先輩、私・・・」

さおり「どうしたの?何か悩んでるの?」

幸代「ちょっと・・・」

さおり「じゃカラオケ行く?」

幸代「はい。」


2人はスーパー「ゲキヤス」にあるいつものカラオケに行くことにした。


店では数人の男子がたむろしていた。

その中に豊もいた。


さおり「ん?あの子は確かバレー部の・・・」

幸代「ああ、今野君よ。」

さおり「そうだよね。でもここでよく見るから。」

幸代「でも他の男の人たち、ちょっと目つきが変ね。2人はタバコ吸ってるし・・・」

さおり「どう見ても学生には見えないね。さ、行こうか。」


元気の無かった幸代は自分の体に溜まっていた何かを、さおりに話すことになったのだった。


幸代「先輩・・・じつは・・・」


幸代はこれまでの話をさおりに話した。


さおり「なんだそんなことか。」


さおりはまったく動じることもなく反り返って、


さおり「あのさ、だいだい成績っていうのは、担任が決めることなんだよ。」

幸代「?」

さおり「できなくたって親がPTAだの、教育委員会の役員だのしてたら、悪い成績つけないよ。」

幸代「それって差別・・・」

さおり「そうだよ、でも現実がそうなんだから。」

幸代「じゃ、何のために試験があるんですか?」

さおり「所詮形式だってことね。勝者はいつも有利に物事を作ってるのね。The winner takes it all って曲もあったなあ・・・」

幸代「・・・それ・・・ABBAですね。」

さおり「幸さ、今年来た藤森担任いるでしょ。」

幸代「ええ・・」

さおり「あいつうちの高校に飛ばされたんだよ。」

幸代「確か中野高校からでしたよね。」

さおり「そう、向こうでさ。いじめにあって、その責任を取らされたんだよ。」

幸代「いじめ・・・」

さおり「そう、かわいそうな奴。悪くは無いのにね、かぶってやんの。」

幸代「いじめって・・・?」

さおり「それはね・・・」




第14話


ではここでさおりに代わって中野高校のいじめ問題を簡単に説明しておこう。


<<<<<<<<<<<<< 詳細はHBハンドブックに掲載しています >>>>>>>>>>>>>>


このことは大きな問題に発展して、教育委員会も調査に乗り出した。

しかし実態はよくわからないまま、3人の犠牲を出してしまったがうやむやに処理された。

ただ3年生Aの担任だった藤森は転任となったのである。


幸代「それじゃ藤森先生って、いいなりになってるのかな?」

さおり「そういうことだよね。」

幸代「でもさおり先輩、詳しいですね。」

さおり「そりゃそうでしょ、自殺した仲間の1人は私のいとこなんだから。」

幸代「え!」


幸代はこれ以上この複雑な問題についてさおりに聞くことはしなかった。



クリスマスが近づいてきたある日のこと。さおりは令にメールを送った。


さおり「カラオケに行かない?」



やがてクリスマスの日。

さおりと令がカラオケをしていた。


さおり「イェーイ!」

令「なんか・・・変わらない気が・・・」

さおり「ん?・・・何か言った?」

令「な、何も・・・」


後半ではいつもの乗りになり、2人でデュエットしていたのである。


令「このあとどうする?」

さおり「やっぱ32かな?」

令「よっしゃー!」


2人は駆け足で「32アイス」に向かった。



こちらは南高針地区を流れる高針川の河川敷。イルミネーションを見に多くの人が集まっていた。


そして昨年失敗したことを気にして、郷が1人で見に来ていた。


郷「昨年はゆっくり見れなかったからなあ・・・」


彼はゆっくりと人だかりを避けながら歩いていた。


郷「やっぱり1人で来て正解だった。イルミは静かに見るものだよな。」


彼は歩きながら2、3組のカップルとすれ違った。


郷「あーあ、相手が欲しいや・・・」

春日「やっほ~い!」

郷「わ!ど、どこから現れるんだよ・・・」


急に物陰から春日が現れた。


春日「ここからです。」


春日は左手で指差した。


郷「そ、そんな説明はいらん。早く帰れ。」

春日「帰れはないでしょ。せっかく見に来たのに。」

郷「はあ?春日がイルミを?・・・信じられん。」

春日「イルミより女。」

郷「そっちかい。」


郷はさっさと1人歩き出した。


春日「おいおいそんなに早く歩いちゃこけますよ。」


ゴチ!


春日「いてて、いてぇなあこの岩。」


春日が岩らしい物とぶつかったらしい。


郷「岩じゃなくブロックだよ。」

春日「邪魔なやつ。どかしてやれ。」


春日は持ち上げようとした。

しかしまったく動かなかった。


郷「無理でしょ。下に埋め込んであるんだから。」

春日「何だよ。それを早く言ってよ。」

郷「見れば誰でもわかると思うよ、ほら・・・」


郷はブロックの固定アンカーボルトを指差した。


春日「ほほう・・・これをはずせばいいのか。」

郷「知、知らん。勝手にやってろ、俺は行く。」

春日「まあまあそう言わず、夜は長いから。」

郷「出来たらお前と一緒の時間は短い方がいい。」

春日「失礼ですよ。」

郷「誰に?」

春日「オレに?」

郷「じゃ、さよなら。」


さっさと郷が1人歩き出した。


春日「おいおい、オレも連れてってくれ・・・」

郷「じゃ黙っていてくれ。」

春日「トゥース!!」

近くの人「あのう・・・静かにしてくれませんか?」

郷「やっぱり・・・」


落ち込む郷であった。




第15話


翌年の2月。今日は13日。

スーパー「ゲキヤス」には多くの女性が昨年同様リニューアルした新設のコーナーを占拠していた。

勿論目当てはチョコ。とくに女子高校生の集まりはやはり多く、押し合いもみ合いながらまるで特売日か年末の人手になっていた。


さおり「すっごいねえ、まあ飽きもせずに今年も人だらけ。」

令「ほんとだねぇ。」

さおり「またうちの生徒がやっぱ多すぎるわ。」

令「ほんと、みんな渡す相手きっと同じじゃない。」

さおり「やはりね・・・私もそう思うけど・・・」


大当たりだった。翌日の放課後、西城の下駄箱の中にはたくさんのチョコが所狭しとギュウギュウに押し込んであった。


光は西城が下駄箱にやって来る前に先に来ていた。


光「おいおい何これー。」


光は下駄箱からはみ出した大量のチョコを見て、


光「いいよな、毎年もらえるんだから。」


そう言うとチョコを勝手に西城の下駄箱から出して、自分の下駄箱に詰め込んだ。そしてすぐその場から消えて行った。


その様子を影でずっと見ていたのは吉永だった。


吉永「あいつせこい事やりやがる。」


そう言って吉永はチョコを元の西城の下駄箱に戻していた。

>>けっこう可愛いとこもあるんだね。


しばらくして光と西城が下駄箱にやって来た。


光「おいおい何これ!」


光はびっくりした様子で叫んだ。


西城「まったく・・・」


さながらあせりながら光が、


光「いいよな、もらえるんだから。」

西城「やるよ。」


西城はそう言うとチョコのほとんどを光に渡した。


光「おお、サンキュウー・・・。あ、それも。」


光は西城の持っていた3つばかりのチョコも横取りした。


西城「しょうがねえなぁ。」


西城は完全に呆れてしまった。

光は楽しそうに足早に1人で帰って行った。


袋の中を覗いた光は、


光「ん?・・・昨年より多いなあ。」




喫茶「309」。

昨年同様、さおりと令はチョコを交換していた。


さおり「ねえねえ、これ新しいのどうかな?」


さおりはカバンからリボンとキラキラシールの付いた可愛い箱を出した。


令「うわーちょー可愛いじゃん!」


そう言いながら、令もカバンから可愛い箱を出してきて、


さおり「ひゃー、何それー・・・」




花園学園大附属高校の卒業式に今年は特別に庭井尻松葉がゲストとして招かれていた。

そして卒業生がリチャード・クレイダーマンの曲に合わせて入場した。


山中「只今より第39回花園学園大学附属高校の卒業式を行います。一同起立!」


校長が中央の教壇に進んだ。


山中「一同、礼!」


校長が礼をした。


山中「着席!」


校長があらかじめ用意しておいたメモ原稿をそそくさとポケットから出した。


校長「では簡単に祝辞を述べたいと思います。・・・」


校長の話は意外や長かった。

その後役員のこれまた長い話やどうでもいい行事での優秀者の表彰があって、続いてゲストの庭井尻が壇上に立った。


庭井尻「みなさんこんにちは。私が庭井尻です。ご存知の方も多いと思いますが、今年ユニーク賞という大きな賞を頂きまして、現在も『OTONA絵本』に続く作品を現在執筆中であります。・・・」


庭井尻氏の話は短かった。



やがて卒業式が終わった。

講堂から親と一緒にそれぞれの卒業生が胸に何か新しいものを抱きながらぞろぞろと出てきた。


さおり「ひゃー、やっと卒業!」


さおりは思いっきり両手を広げて言った。


マリ「ほんと、長かったよー。」

さおり「マリ、これからどうすんの?」

マリ「英会話教室の講師をやってみようかなって。」

さおり「そうかあ、マリ英語けっこう上手だからね。」

マリ「親戚にアメリカ人もいるから。」

さおり「また、いつかどっかで会おうね。」

マリ「うん、いいよ。」


その後ろは、


令「はぁー、やっとだ。」

郷「いろいろ楽しかったです。」

令「いや、よく着いて来てくれてありがとう。」

春日「トゥース!」

令「春日には別に何もないよ・・・」

春日「な、なんでですか?オレ頑張ったと思うけど・・・」

令「ま、まあね・・・」



そして・・・


校門前にダークブルーのベンツが入ってきた。

やがてベンツは1階入り口の駐車場に止まった。そこには光の両親が待っていた。出迎えた召使2人にドアを開けさせると2人は車に乗った。


周りの人たちは一斉に彼女に注目した。

そして母親は気取りながら髪を1、2回触った後で運転手に声をかけた。ベンツはゆっくりと校門を出て、狭い道路をすり抜けるように走っていった。


ー 完 ー



この小説は「キラキラヒカル」全集の第8巻(後編)です。


キラキラヒカルは新しいカテゴリ、「4次元小説」の1冊で、これまでにはない新しい読み手の世界を考えて描いてあります。


なお、「もくじ」は配布している冊誌の表紙裏を入れました。

このシリーズでは、「登場人物一覧」以降は「ハンドブック」に記載しています。そちらをご覧ください。


<公開履歴>

2017.12.30  配布

2018. 5.    「小説家になろう」にて公開


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