006 俺はロリコンじゃありません
「さ、散々な目に遭った……」
訓練の授業を何とか無事に終えることが出来た俺は、疲労を隠せずにいた。
隣ではミアが俺と同じようにぐったりと肩を落としている。
因みにミアの周りにターシャの姿は見えない。
恐らく未だにルルに怯えているのだろう。
なんというか、ご愁傷様だ。
「じ、じゃあ俺はこっちだから」
「え、あ、じゃあね」
訓練の授業が、本日最後の授業だったことだけが不幸中の幸いだった。
この状況で別の授業をしろと言われていたら、本当に死んでいたかもしれない。
「アクセル、ほら」
「……はいはい、喜んで」
ルルがすっと手を差し出してくる。
きっとこういうことをしているから変な噂が立つんだろうなと思いつつ、また闇魔法を食らうのはこりごりなので、大人しく従う。
「因みに今日のご飯は何ですか?」
「んー、特に考えてなかったけど何か食べたいものとかあるか?」
学園からの帰り道を歩いていると、ルルが思い出したように聞いてくる。
ちょうど食材が切れていたので、商店街で色々と買おうと思っていたところだったのだが、どうせなら今日はルルの食べたいもので良いだろう。
毎日メニューを考えるのは大変なのだ。
「アクセルが作ったものなら何でもいいです」
「……っ、そ、そうか」
そう言われると俺としても嬉しい。
頑張ってルルのために作ろうという気になる。
少なくとも、自分でメニューを考えるのが面倒くさいときに言う「何でももいいよ」ではないと思いたいところだ。
「じゃあとりあえず商店街に行くか」
「はい」
俺はルルの手を引きながら、商店街へ向かった。
「ま、またか……」
家に着いた俺は料理を作るためにキッチンへ、そしてルルは料理を待つ間適当に待ってもらっていることになった。
しかし今、俺の目の前にはたくさんの野菜や肉、そして魚などの食品が並んでいた。
確かに食材が切れていたとはいえこんなに買うつもりはなかったのに、どうしてこんなことになっているかというと、理由は全て、リビングでくつろいでいるルルにある。
ルルを連れて商店街で買い物をしようとしたところ、その人気ゆえか、ルルに自分のところの商品を食べてもらいたいという店主が殺到したのだ。
そのせいでむしろ一度では持ち帰ることが出来ず、何度も往復する羽目になった。
本来、そもそも精霊というのは食事や睡眠を必要としなければ、栄養も必要ない。
強いて言えば、その役割を契約者の魔力が補っているからだ。
だがルルは食事もすれば、俺と一緒に睡眠もとる。
何とも人間らしい精霊さまだ。
とはいえ一人暮らしをしている俺からすれば、そういった相手を務めてくれるルルの存在は正直ありがたい。
という旨の話をぽろっと零したところ「ついにアクセルも私という存在のありがたみに気付きましたか」とかほざいていたので、もう二度と言うつもりはない。
まあルルのおかげで多少なりとも食費が浮いているのも事実なので、これからもぜひその幼女っぷりを思う存分に発揮してほしいところだ。
「せっかく貰ったわけだし、適当に肉料理でも作るか」
俺はルルに文句を言われる前に、料理にとりかかる。
料理といっても今日は朝から一段と疲れたので、肉と野菜を炒めるだけにする。
基本的にルルは帰り道で言った通り、俺の作った料理の味に関しては文句を言ったことがないので、今回も「手抜きですね」などと言われる心配はないだろう。
「味付けは……っと、こんなもんか」
良い感じに焼きあがったので、適当に調味料を足していく。
「アクセル」
「ル、ルルか」
突然背後に現れたのは、低い位置からこちらを見上げてくるルルだった。
「もうすぐ出来上がるから、待っててくれ」
「……」
もしかして食事の催促だろうかと思って言ってみるが、ルルは無表情のままその場から動く気配がない。
一体どうしたんだ――――なんてことは今更聞く必要はない。
俺はため息を吐きながら、今しがた調理が終わりそうな料理を一口分だけルルの方に向ける。
「ん、美味しいです」
ルルの味見は、ほぼ毎日の定番となっている。
俺の料理なら何でも美味しいと言うので、味見役として大丈夫なのか疑問だが、ずっと背後に立つルルを無視するわけにもいかない。
「よし、じゃあ準備するから皿とか取ってくれるか?」
「分かりました」
普段は傍若無人な幼女だが、こういうところは素直だ。
ルルから受け取った皿に料理を盛り、テーブルに並べていく。
ご飯の方も前もって用意していたので、抜かりはない。
いざ、実食だ。
「いただきます……うん、我ながらいい出来だ」
一口食べてみて、自画自賛してみる。
こういう時に誰かが突っ込んでくれたりしたら笑えるのかもしれないが、こういう時に限ってルルは素直に頷く。
こういう素直さをもっと普段の生活に生かしてくれれば、なんて思ったところでこの幼女様は気にも留めないのだろう。
何しろ淫夢を見せてくれると言って、悪夢を見せてくるような悪女ならぬ悪幼女だ。
期待なんてするだけ無駄だろう。
「そういえば今日、商店街の方から聞いたのですが小さな女の子のことが好きで好きで堪らなくて、結果我慢できなくてその子の匂いを嗅ぐ人のことをロリコンと言うらしいですね」
「ごほッ!?」
ルルの爆弾発言に思わずむせる。
こんな幼女にそんな汚い言葉を覚えさせた汚い大人は一体どこのどいつだ。
そいつこそ、ルルの言うロリコンと称するに値する人物なのではないだろうか。
普段から幼女趣味の変態と罵られる俺でさえ、思わずドン引きだ。
「アクセルはロリコンだから、ルルちゃんは気を付けてねと言われました」
「よし、それ言ったやつを教えろ。最大出力の闇魔法をお見舞いしてやる」
ルルにいけない言葉を教えるのは別に構わない。
いや、構わないわけではないのだが、何とか許容範囲に入っている。
しかしそれは許せない。
世界が許しても、俺だけは許さない。
「別に構いませんよ?」
「……何が?」
「アクセルが私に欲情するのを我慢できず、洗濯する前の私の服をくんかくんかしているのを、です」
「よし、今食った飯を全部吐きだせ」
「えっ……」
俺の言葉に意外にも引いたような反応を見せるルル。
その反応に思わず俺も、まるで自分が悪かったような気がしてきた。
「さ、さすがに私が一度食べたものを食べるというのは……。いや、でもアクセルなら私も構いませんが……」
「そこは構って!?」
どうやら商店街の誰かよりも前に、どうにかしないといけないのがここにいたらしい。
全く俺の契約精霊はどうしてこうも特殊なのだろうか。
食べたものをどうやって俺に食べさせようか悩むルルに思わずため息を吐きながら、俺は食事を再開した。
因みに、俺はもちろんロリコンなのではないが、ルルの服は案外いい匂いだ。