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005 ウチの幼女は最恐です


「うー……あんなのどうやって倒せって言うのよー」


「まあ、まだまだってことだな」


 訓練が終わり、不満を零すミア。

 そんなミアに俺は上から目線に言う。


 事実、契約者同士の実力であればミアに比べて俺の方が勝っている。


 そのため訓練は主にミアの攻撃を俺が防ぐというもので、基本的には俺は攻撃をしない。

 今回もミアの攻撃を防ぐだけで、一度も攻撃はしなかった。


 因みにだが、これまでにも何度か同じような訓練をしているが、俺がミアの攻撃をまともに受けたことは一度もない。

 最近ではミアの中では『打倒アクセル!』が一番の目標になっているらしい。


 確かにミアの実力は以前に比べても、かなり成長していると言っていいだろう。

 とはいえ闇属性の高位精霊と契約した俺の実力も伊達じゃない……と言いたいのだが、ぶっちゃけて言うと単純に闇魔法の使い勝手が良すぎることが主な理由だ。


 ルル曰く、弱っちいアクセルの面倒を見るのは大変です……とのこと。


「ほら」


「……ん、ありがと」


 規模の大きい魔法を使ったせいで座り込むミアに手を差し伸べる。

 ミアは少し頬を膨らませながらも、結局は俺の手の支えを借りながら立ち上がる。


 その後適当にミアに肩を貸しながら、ミアの契約精霊――――ターシャの下まで連れていく。


「ミア、そろそろ自分で立ってください。アクセルが大変そうです」


「い、いや、大丈夫だ」


 疲れているミアを受け取ったターシャは、こちらに頭を下げてくる。

 しかしそんなことをしたら、はち切れんばかりの胸の谷間が露になってしまう。


 何を隠そう、このターシャ。

 まさに俺の夢見るナイスバディなお姉さんを体現化したような姿なのだ。


 ルル曰く、高位精霊は主に人型をとる方が多いとのこと。

 しかしその時の姿はその精霊固定のものらしく、姿が変わったりすることはないらしい。


 それならどうして、俺の契約精霊は幼女で、ミアの契約精霊はこんなにスタイルのいいお姉さんなのだろうか。

 しかも俺が知る限りでは、性格もとても穏やか。

 もはや羨ましいを通り越して、今なら嫉妬の炎でミアを灼けるのではないだろうかと思ってしまうほどだ。


 どうせなら俺も、こんなナイスバディで優しい契約精霊が欲しかった……。


「っ……!?」


 その時、悪寒を感じて慌てて振り向く。


「じー……」


 案の定、ルルがジト目でこちらをじっと見つめてきている。

 間違いない、あれは疑いの目だ。


 先ほどようやく窮地を脱したというのに、それに逆戻りするわけにはいかない。

 俺の予想じゃ闇魔法が飛んでくるまであと十秒と言ったところか。


「ち、ちょっと行って来る!」


 命の危険を察知した俺に、ターシャが「ご愁傷様です」といった表情を浮かべる。

 恐らくルルと同じ高位精霊のターシャは、俺の苦労を理解してくれているのだろう。

 やはりターシャは優しい。

 ぜひ俺の契約精霊と交換したいところだ。


「た、ただいま」


「……遅かったですね? 何やら向こうの精霊と親し気に話しているように見受けられましたが」


「つ、疲れたミアを届けたから、そのお礼を言われていただけだよ」


「……怪しいです」


「き、気のせいだろ?」


 本当はウチの精霊と、向こうの精霊をどうにか交換できないか割と本気で悩んでいたのだけど、そんなことを知られればどんなに強力な闇魔法を向けられるか分かったものじゃない。


 しかしこのまま話していたら思わぬところでぼろが出てしまう可能性もある。

 ここは迅速に何か別の話題を考えないといけない。


「あ、そういえばルルって俺が女の人に触ったりしたら怒るのに、どうしてミアは平気なんだ?」


 ルルの独占欲の強さはかなりのものだろう。

 俺が受付嬢のテトラさんの手に触れただけで首を絞められたのもつい先日のいい思い出だ。


 それなのになぜかミアだけにはルルは怒ったりすることはない。

 さっき俺がミアに肩を貸した時も、ルルは何の反応も見せなかった。

 これまでは何も思わなかったのだが、改めて考えれば不思議だ。


 しかしルルは俺の言葉に対して、何を言ってるんだ? とばかりの表情を浮かべながら首を傾げる。



「アクセルだって、さすがにあの(、、)胸には欲情しないでしょう?」



 そしてさも当然のように言い放つ。

 その言葉を受けて俺は、ミアの胸を思い浮かべた。


「……確かに」


 そして思わず深く納得してしまった。


 というのもミアには胸がない。

 小さいのではなく、無いのだ。

 それはもう思わず憐れんでしまうくらいに。


 ルルでさえ、年相応の膨らみかけの胸がある。

 対してミアの方は、まな板よりまな板している(、、、、、、、)のではないかと思ってしまうほどにその胸は平だ。


 そんな胸に欲情するのは一部のマニアくらいだろう。

 そして残念なことに俺はその一部に含まれない。


 なるほど、俺がミアに触れることに対してルルが何も心配しないわけだ。


「ルルの言う通りだ。さすがの俺でもあんな胸無しに欲情したりはしないから安心してくれ!」




「……なんですって?」




 心配するような視線を向けてくるルルの誤解を解くために叫んだ俺の耳に、今一番聞こえてはいけない人の声が聞こえてくる。


「ミ、ミア……」


「誰が胸無しなのかしらー……? ねえ、アクセル?」


 恐る恐る振り返ると、ちょうど怒りに震えるミアが満面の笑みを浮かべながらこちらに向かって歩いてきているところだった。

 その圧力に思わず後ずさりそうになるが、何とか踏みとどまる。


 よく考えたら、今回の相手はミアだ。

 強力な闇魔法をぶっ放してきたり、首を絞めてきたりするようなルルではない。

 実力でもこちら上だ。

 何もびびることはない。


「そ、そりゃあそんなまな板みたいな身体してるミアに決まってるだろー?」


「————っ!!」


 俺が開き直ったことに顔を真っ赤にするミア。

 その手には炎が生み出され、ミアは怒りのままにそれを俺へと向けてくる。

 明らかにさっきの訓練で見せた最大の炎よりも大きいのは、感情に感応しているからか。


「ふ、防げ!」


 だが残念。

 一瞬ちゃんと防ぎきるかヒヤッとしたが、さすが闇魔法。

 頼りがいがあるというものだ。


「くぅ――――っ!」


 自分の力ではどうしようもないと理解したのか、ミアは悔しそうに地団駄を踏んでいる。


「こ、こうなったら……! タ、ターシャ!」


「うわっ、こいつ精霊を頼りやがった!」


「うっさい!」


 さすがの俺も高位精霊であるターシャに襲われたらひとたまりもない。


「ミア、少し落ち着いてください。周りが何事かと心配してますよ」


 しかしさすがターシャと言うべきか、良心の塊だ。

 だがミアにはターシャの言葉に納得した様子は見えない。


「ア、アクセル? い、今なら私の胸にいくらでも欲情していいのよ?」


「…………」


 ミアはどうしても俺に、自分の胸に欲情してもらいたいのかとうとう訳の分からないことを言ってくる。

 その隣ではターシャもやれやれと首を振っている。


 その気持ち本当分かる。

 お互いに頭のおかしい精霊と契約者を持つ者同士、ターシャとは仲良くしたいものだ。


「わ、私の胸に欲情してくれたら、ターシャの胸だって触らせてあげるわよ?」


「なっ!?」


 呆れる俺にミアが追加で言ってくる。

 その言葉に俺を除いて唯一の常識人だったターシャが悲鳴にも近い声をあげる。


 だが正直そんなことどうでも良いと思えるくらいに、今のミアの言葉は聞き逃すことが出来なかった。


「……それは本当か」


 ミアのまな板のような胸を触れば、ターシャの胸を触ることが出来る。

 夢にまで見たナイスバディなお姉さんの胸を、現実で触れる。

 ミア、お前が神だったか。


「本当よ!」


「そ、そんなわけないでしょう!?」


「ターシャ、ご主人様が馬鹿にされているのを見過ごせるの!? ここは私のために一肌脱ぎなさい! ほら、ターシャも早くアクセルを誘惑して!」


「えええええっ!?」


 ターシャはミアの言葉に叫び声をあげる。

 しかし根が真面目なだけに、ご主人様の命令を断ることが出来ないのだろう。


 普段はいつも平静なターシャが顔を真っ赤にしながら、その胸元を多少はだけさせながら谷間を強調してくる。

 何というか、もう、感動で言葉が出てこない。


 俺は自らの欲望のままに、二人の方へ一歩踏み出す。


 そして思い出した――――魔王の存在を。




「…………何をしているんですか?」




 絶対零度の声が、すぐ隣から聞こえてくる。


 振り返らずとも分かる。

 ルルから闇のオーラのようなものが漂っているのが。


「そこの火精霊」


「は、はいっ!?」


 同じ高位精霊であるにも関わらず、ターシャをそこ(、、)呼ばわりするルルに思わず震える。


「私のアクセルを誘惑するなら、容赦なく――」




 ————消しますよ?




「はいぃぃぃぃぃぃいいいっ!?」


 恐怖の悲鳴を零しながら何度もルルの言葉に頷くと、ターシャはそのまま実体化を解き、姿を消す。

 それほどまでにルルのことが怖かったというのだから、ウチの闇精霊は最強だな、うん。


「アクセル?」


 ミアを通り越してこちらに来たかと思えば、ミアは既に死んだふりをしている。

 おい、逃げるな。


「私、間違いなく見ましたよ?」


「え、えっと、何を……?」


 もしかしたらここで聞き返さなければ、俺にはもう少し弁明の猶予が残されていたのかもしれない。

 しかし恐る恐る隣を向いた先で妙に笑みを浮かべたルルを見て、悟った。


「一歩、踏み出しましたね?」


 あ、俺死んだ。

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