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003 えっちな夢の時間が来たようです


「おうアクセル! 今日はやけに元気だな!」


「そうかっ? まあそうかもな!」


 俺が自分でもだらしがないと思うほど頬を緩ませながら商店街を歩いていると、武器屋のおっちゃんから声をかけられる。

 だが約束された勝利が待っている今、テンションが上がってしまうのは自然の摂理というものだろう。


 因みに隣にはいつも通りルルがいる。

 基本的に商店街では見栄を張っているつもりなのか、あまり背中に乗ったりはしないルルである。

 しかしそれでも俺の手はルルにしっかり握られているのだが。


 ルル曰く、俺が(、、)迷子にならないように気を付けてくれているらしい。

 あら可愛い。


「ルルちゃんも気を付けてな! 特にアクセルには気を付けるんだぞ!」


「おいっ!?」


「……はい、気を付けます」


 ルルが俺の身体に隠れるようにしながら、おっちゃんに返事をする。

 ルルはその身体の小ささや、仕草の可愛らしさ故に商店街でもかなりの人気を集めているらしい。


 まあ確かにるるは毒舌や妙な独占欲はあるが、見た目は幼女で、することなすこといちいち可愛い。

 まさに綺麗な花には棘があるとはよく言ったものだ。


 今も手を繋ぐ俺たちを端から見れば、仲のいい兄妹や親子に見えるのではないだろうか。

 さすがにこの身長差では、恋人などの関係には見られないのは仕方ない。

 そもそもいくら可愛いとはいえ、幼女とそんな関係に見られたいとも思っていないのだが。




 因みにだが俺は今、制服を身に纏っている。

 というのも俺は精霊使いを養成するための学園の生徒だ。


 そこでは当然、俺のように精霊と契約した者たちが集まる。

 しかしその中でも俺は闇属性の高位精霊と契約していることもあり、周りから色んな意味で注目を集めている。


 純粋な羨望の視線ももちろんある。

 だが最近ではむしろ、自分の契約精霊である幼女に振り回されるご主人様という何とも不名誉な噂で注目を集めているらしい。


「なあルル、いい加減授業中くらいは実体化を解いてくれないか?」


 俺が白い目を向けられる原因の一つはそれだ。


 契約した精霊は、契約者の魔力を消費しながらこの空間に顕現している。

 その時に消費する魔力は下位精霊であればそこまで多くはない。

 しかし人型の高位精霊ともなれば、顕現するだけでもかなりの魔力を持っていかれる。


 確かに精霊たちとのコミュニケーションは欠かすことが出来ない。

 そのための実体化ではあるのだが、ルルの場合、普通なら実体化を解くような授業中にも永遠と実体化しているので困り果てている。


 ルルと契約してそれなりに経つが、これまでにルルが実体化を解いたことは……少なくとも俺の記憶にはない。

 もしかしたら俺の意識がない内に実体化を解いているのかもしれないが、今はそれは置いておこう。


 つまり何が言いたいかと言うと、ルルはずっと俺の傍にいるのだ。

 学園にいる間は休み時間も、授業中もずっとだ。


 幸い俺の魔力量が他に比べたらそれなりに多いのか、今のところ魔力枯渇などの症状は出ていない。

 とはいえさすがに授業中に俺の膝の上に座っている、というのはどうかと思うんだ。


「お断りします。私にはアクセルを監視する義務があります」


「何の監視だよ……」


「アクセルが浮気しないように、です」


「……はぁ」


 どや顔で言ってのけるルルに思わずこめかみを押さえる。

 俺が闇属性の高位精霊と契約しているにも関わらず、白い目を向けられる日はどうやらまだしばらく続きそうだ。


 ◇   ◇


「つ、疲れたぁ……」


 休日明けの授業と言うのはどうしてこうも辛いのだろうか。

 思わずため息と共に机に突っ伏したくなるが、膝に座るルルのせいでそれも出来ない。

 というかいくら軽いとはいえ、さすがに何時間も膝の上に座っているというのは精神的にも辛くなってくる、主に周りからの視線が。


「もうお昼ですか、アクセル」


 器用にも膝の上で身体を回転させるルルは、膝に跨りながら俺を見上げてくる。


 周りから悲鳴のような声が聞こえてくるが無視だ無視。

 確かに色々とまずい体勢には間違いないが、そんなの気にしていたらそれこそ幼女趣味とか言われそうだ。


「そうだな。早めに購買に買いに行くか」


「私は焼きそばパンがいいです」


「……それならちょっと退いてくれないか?」


 さも当然のようにルルが希望を言ったのはこの際気にしない。

 とはいえ購買に行くにせよ、ルルが退いてくれなければ席からも立ち上がれないのは、ルルも分かっているはずだ。


「え、嫌です」


 しかしルルは即座にそう言い返してくる。

 それどころかルルは俺の首に手を回してくる。

 どこからどう見ても、抱き着かれているようにしか見えなかった。


 さすがにそこまでは予想していなかった俺は、先ほどよりも明らかに大きくなった悲鳴に焦る。

 このままでは本当に俺が幼女趣味の変態だと思われてしまっても言い訳できない。


「さあ、これなら多少強引に立ち上がったところで差し支えありません」


 あるよ!?

 むしろ現在進行形で周りからとんでもないものを見るような視線を向けられて、精神が死んでしまいそうなんですけどっ。


「じ、冗談が上手いなぁ、ルルは」


「冗談じゃないですけど?」


 俺の苦笑いに、真顔で返してくるルル。

 どうやら本気らしい、なんとなくそんな気はしてたけど。


「あー……」


 ルルの力は全く弱まる気配は見えない。

 これはもう諦めて、このまま購買へ向かうしかないようだ。


 それにルルには今夜、淫夢を見せてもらう約束もしてある。

 それを考えれば、ここでルルの機嫌を損ねるのは得策ではない。


 淫夢のためなら、多少の犠牲は覚悟の上だ。

 全ては――――淫夢のため!


 ◇   ◇

 

「ここは、夢の中か……?」


 俺は真っ白で何もない空間に一人佇んでいた。


 どうしてこんなところにいるのか。

 自分の意思でやって来たのか、それとも誰かに連れてこられたのか。

 そこあたりのことが全く覚えがない。


 ただ一つ、ぼんやりとだが眠る前のことだけは覚えている。

 これから淫夢を見せてもらえるということで、楽しみで仕方なく、時間が惜しいのになかなか寝付けなかったはずだ。


 ということを考えると、やはりこれは夢の中なのだろう。


 そう――――淫夢の中だ。


「……ごくり」


 思わず唾を飲む。

 既に俺が淫夢の中にいるということは、つまりはもうナイスバディなお姉さんがいつ出てきてもおかしくないわけだ。


 周りが真っ白なのは、そういうこと以外に意識が向かないようにというルルなりの配慮なのかもしれない。

 ルル、これからお前の我儘を全て許そう……。


「っ……!」


 その時、すぐ背後から微かに足音が聞こえてくる。

 どうやら遂にこの時が来てしまったらしい。


 きっと振り返った先には、俺の望む景色が待っているのだろう。

 そう思うと、ずっと渇望していたにも関わらず、振り返るのを躊躇ってしまう。


 しかしそれでいい。

 焦らして焦らして、その先でようやく至高の喜びに出会うことが出来るのだ。


「……アクセル」


 背後から名前を呼ばれる。

 昨日は「坊や」だったのに急に名前を呼び捨てにしてくれるとは、親密な関係であるかのような錯覚がしてきて堪らない。

 これもルルのお陰だというのなら、明日からルルのことを様付けしなければならなくなってしまいそうだ。


「アクセル」


「アクセル」


「アクセル」


 そんなことを考えると、すぐ背後とは少し違うところからも名前を呼ばれる。

 どうやら後ろにいるのは一人だけじゃないらしい。

 これは、興奮してきた……。


「アクセル」


「アクセル」


「アクセル」


 そうこうしている内にも俺の名前を呼び続ける、まだ見ぬナイスバディなお姉さんたち。


「アクセル」


「アクセル」


「アクセル」


「…………」


 それなのにどうしてだろう。

 何度も名前を呼ぶ声が、やけに聞き覚えのある声に聞こえて仕方がない。

 それにお姉さんボイスだと思っていたそれが、やけに幼く聞こえてくる。


「アクセル」


 やめろ、冗談だと言ってくれ。 


「アクセル」


「アクセル」


「アクセル」


 何度も何度も俺の名前を呼んでくる声に、俺は恐る恐る振り返る。

 俺の勘違いであってくれと一縷の望みをかけて。


 そして振り返った視線の先で、一糸纏わぬルルの大軍が、俺をじっと見つめていた。


 それはまさに、悪夢だった。


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