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002 えっちな夢が見たいです


「あらら~ん、どうしたの坊や?」


「なっ、なんだこれは……っ!?」


 気付けば俺は、何人ものナイスバディなお姉さんたちに囲まれていた。

 大事なことだから二回言うが、ナイスバディなお姉さんたちだ。


 一体どういう経緯でこんなことになっているのか、全く覚えていない。

 しかしこの状況を楽しまぬのは男がすたるというものだ。


 俺は意を決してお姉さんたちへダイブする。


「————は?」


 その瞬間、これまで確かにナイスバディだったお姉さんたちの身体が膨れ上がり、あっという間にオークになった。

 ……オークになった。


「なっ……!?」


 気付いた時には時すでに遅し。

 一度してしまったダイブを止めることは出来ない。

 俺はそのままオークたちの中心へ――。




「————うわぁあああああああああああああああ!?」


 俺は絶叫とともに目を覚ました。


「ゆ、夢か……」


 ゆ、夢で良かった……。

 本当に死んでしまうかと思うような、夢だった。

 額に脂汗が滲んでいるのが分かる。


「……ん?」


 ふと、自分の胸の上で何かが動くのを感じた。

 試しに布団の中を覗いてみれば、してやったりという風な表情を浮かべているルルと目が合った。


「……おいルル、今、俺に闇魔法かけただろ」


「なんのことですかー?」


 ルルは明らかにこちらを馬鹿にしたような口調だ。

 やはり、俺の悪夢はルルによって見せられたものらしい。


「というか今日はまた一段とひどい顔をしてますね。隈もひどいですよ?」


 誰のせいだと思ってるんだ、誰の。


 闇魔法の使い方は多岐にわたる。

 視界を奪ったり、直接的な攻撃だったり、対象に悪夢を見せたり。

 今回のようなことは初めてではない。

 事あるごとにルルは俺に悪夢を見せてくる。

 しかもとんでもない悪質なやつばかりだ。


 本人は決して認めようとしないが、俺には分かる。

 あの達成感に包まれた表情を見れば、一目瞭然だ。


 恐らくルルは昨日のことを根に持っているのだろう。


 どういうわけかルルは俺が他の異性と関わることを極端に嫌う。

 昨日のがいい例だが、ルルは俺を異性と関わらせないためなら闇魔法さえ遠慮なく使うし、首だって絞めてくる。

 しかも闇魔法に消費される魔力は俺の魔力から消費されるというのだからとんでもない。


「……ったく、ルルさえいなけりゃ今頃可愛い彼女の一人や二人」


「出来ると思ってるんですか?」


「……うっせ」


 言われなくても自分のスペックぐらい理解している。

 だがそれを馬鹿にしたように言われると無性に腹が立つ。


 それに問題はそこではなく、受付嬢のテトラさんみたいな常識人の前でそういうことをされると今後の関係に傷が入るのが困る。

 今度ギルドへ行ったとき、どんな顔を向けられるかと思うと憂鬱で仕方がない。


 幼女に首を絞められる図。

 うん、ないな。


「……はぁ」


「ため息を吐く前に、早く朝ごはんの支度をしてください。お腹すきました」


 くぅー、と可愛らしいお腹の音と共に悪態を吐かれると、どうにも気が抜ける。

 ルルに文句を言うのも面倒になった俺は、ベッドから起き上がる。


「って、退かないのな」


 俺の胸の上にのっていたルルは俺の身体を掴みながら、意地でも離すまいとしがみついている。

 邪魔ではあるものの特に重たいというわけでもないので、そのまま適当にぶら下がらせておく。


「そういえば闇魔法に悪夢があるなら、淫夢とかもあるんじゃないのか?」


 そこで俺は思い出したことを聞いてみる。

 前々から思っていたことではあるが、中々聞くタイミングが無かったのだ。

 とはいえ冗談半分なのだが。


「ありますよ」


「あるの!?」


 しかし予想に反し、ルルは何を当然のことを言ってるんですかという風な視線で俺を見上げてくる。

 だがこれはとんでもないことを聞いてしまった。


「そ、それって俺に使ってくれたりは――」


 そこまで言って気が付いた。

 ただでさえ俺が異性と手が触れあうだけで浮気扱いして闇魔法をぶっ放してくるようなルルにそんなことを言えばどうなるのか。

 昨日以上の闇魔法が飛んでくる未来しか見えない。


「別にいいですよ?」


「……え、いいの?」


「はい。別に淫夢くらいなら消費する魔力も微々たるものですしね」


 闇魔法が飛んでくるのに身構えていた俺は、思わず聞き返す。

 そんな俺にルルは不思議そうに首を傾げながら言ってくる。


「じ、じゃあ早速今日の夜にでもお願いしていいですか……?」


「? 分かりました」


「あ、ありがとうございます!」


 思わず敬語になってしまったが、そんなことどうでもいい。


 淫夢だぞ、淫夢!

 あの淫夢だ!


 ナイスバディなお姉さんたちが一杯いて、俺を誘惑してくる。

 途中でオークに変わったりもしない。


 俺は心の中で歓喜の舞を踊らずにはいられなかった。


 だが一体どうしてルルはそんな簡単に淫夢の件を了解してくれたのだろう。

 これまでのことを考えると、それこそ強力な闇魔法が飛んできても何の不思議もないというのに。

 もしかして俺を謀ろうとしているのかとも思ったが、何も考えていなさそうな幼女を見る限りでは、そんなひどいことをしようとしているようには見えない。


 これは本当に期待していいのか!?

 ついにルルも俺に飴をくれる日が来たかと思うと、嬉しくて仕方がない。


「アクセル、ご飯」


「すぐにご用意させていただきます!」


 掌返しが激しい?

 そんなの当たり前じゃないか。

 なんたって今日の夜には淫夢が見られる。

 ナイスバディなお姉さんだぞ?


 そのためならルルの多少の我儘など屁でもない。

 喜んで幼女の足を舐めてやろうではないか。


 俺はルルの機嫌を損なわないように細心の注意を払いながら、朝ごはんの用意にとりかかった。


 全ては淫夢のため、ナイスバディなお姉さんたちのため!


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