石版ができる前
どうして。
……どうして?
考えるのを、やめることができない。
お祝いの言葉は言った。でもあの涙は全部が幸せから出たものではなかった。とても素直に祝福なんかできなかった。
一体、何が違っていたって言うんだ?
――最初から、すべてが。
だけど、こんなのあんまりじゃないか。
ずるいと思ってしまうのはいけないことか。
あいつだって、悪い奴なんかじゃなかった。
ただ愛してほしかっただけなのに、間が悪かっただけなのに、どうしてこんなに違う結末を迎えることになる?
何も知らなかった二人が二人とも馬鹿みたいだ。
……それとも、逆なのか。
あいつはこのことを知っていたから、ああするしかなかった――?
あんた本当の馬鹿だ。本当の本当に、大馬鹿だ。くたばっちまえ。……もう死んでるけど。
……ここまで生きてきた。生きている。あたしたちは生き残った。生活は、苦しいなりに安定してきている。
今のあたしたちに、何ができるだろう。
秘密の箱も、まだ守れている。
そうだ。こんなに手の込んだ嫌がらせをしてくれたんだ。だったら死ぬ前に、あたしたちだってやり返していいんじゃないか?
秘密はすべて箱の中。
けれど箱を開く者には、すべての秘密を教えよう。
あたしたちは、愛されたかったあんたの物語を、つないでいく。
あんたが理想のレィンを死を以て演出するというのなら、あたしたちはあたしたちの見たあんたを紡ぐ。
過去は変えられない。
でも未来は不確定だ。
――あたしは、未来であたしたちの子が、孫が、その意思を継ぐ誰かが、再び彼女とまみえることを、奇跡が続く事を――。
信じている。