鳥のつがい3
連続更新一話目
「なんで来たのよ!?」
大急ぎで支度を済ませ、慌ただしくやってきた王都でこれまた面倒な決まり事をいくつもこなし、へとへとになってようやく会えた花嫁に祝福の言葉をかけてみれば、開口一番に投げかけられた言葉はそれだった。
心配していた国王との謁見が拍子抜けするほど他人行儀に終わって、安心するようながっかりするような思いを味わったリテリアに、懐かしい罵声はむしろ耳に心地よい。
彼女はこぼれるままにふっと顔をほころばせた。
「ご結婚おめでとう、ララお姉様、ルル。私もとても嬉しい」
「ありがとう、リテリア姉様」
「ええそうねめでたいわねありがたいわね……だからあんた、なんで来たわけ!?」
まずはルルセラが素早く機械的に返し、次に一歩で遅れたララティヤが叫ぶ。
リテリアの時よりもさらに派手な衣装に身を包み、動く度にじゃらじゃらりと重たそうな音がするララティヤは、地団駄を踏みながら爛々と目を光らせている。
横でルルセラがじっと丸い目で姉を見つめていたかと思うと、地団駄を踏む真似をした。こちらは同じような装身具を身につけているにもかかわらず、覇気のない性格が起因しているのかしゃらしゃらと幾分か控えめな音がする。
二人ともそんなに変わりない、と思いながら、さてこちらはと横を盗み見ると、案の定アルトゥルースの方は外向きの見た目を全身に貼り付けたままカチンコチンにかたまっていた。あれは緊張しているか、動揺を必死に鎮めようといるかのどちらかの時に出てくる態度だ。たぶん後者だろうと、リテリアは推測して苦笑する。
腕の中のレィンの方は、あらゆる意味ですさまじい花嫁に気圧されて泣き出すかと思ったら、きらびやかな衣装にすっかり目を奪われていたらしく、青い目をまんまるにしていた。
あぶぶ、と言いながら一生懸命宝石に向かって手を伸ばしているので、万が一にもつかまれないように注意しつつ、リテリアは小さく語りかける。
「そうね、綺麗な花嫁様ね。二人とも、お母様の姉妹、あなたの伯母にあたる人なのよ。わかる? どちらも綺麗な人でしょう。……ぎゅーしたいの? きらきらねー」
あやしている最中、視界の端にララティヤが肩をわななかせている様子が目に入った。
怒鳴られるだろうか、と身をすくませながら娘をなだめていると、案の定ララティヤが横の召使いから何かひったくって勢いよく振りかぶった。
一瞬場がどよめく。
「ちょっと、なんなのよそれっ、可愛いじゃないっ!」
……思わずとっさに庇う姿勢を見せた若い両親だったが、花嫁は召使いからひったくった籠から猛然と花びらを投げつけてきている。
本当ならこちら、参列者から花嫁を祝福してかけるものなのだが、しまいにはララティヤはすっかり籠を全部ひっくり返して赤子の上にばらばら花を振らせている。
これもレィン本人には大好評のようで、だーぶー! と歓喜の声をあげながらばたついていた。
「名前は? 性別は? 今何ヶ月なの?」
次々飛んでくる質問にたじたじリテリアが答えると、ララティヤはご満悦な様子で深くうなずいた。
「綺麗で高価な物に今から興味を示せるなんて、あんたと違って将来有望だわ。美人に育てなさいよねっ」
姉の横からはルルセラもじっとレィンをのぞき込んでいて、ぼそりと一言言う。
「……かわいい」
愛想良くあぶぶとレィンが応じるので、花嫁達はひとまず機嫌を良くしてくれたようだった。
追い返される事も考えていたリテリアは、ほっと息を吐く。
……咳払いされて顔を向けると、アルトゥルースがなんとも言えない表情を妻に向けていた。たぶんどうしたらいいのかさっぱりわからないのだろう。大丈夫、安心して、というように微笑みを向けていると、しばらくレィンと戯れていたララティヤがずいっと顔を寄せてくる。
「ここだと他の参列者もいるわ。迎えを寄こすからあんただけ後でちょっと来なさい」
耳打ちすると、ララティヤは素早く身を引く。
首飾りを確保し損ねたレィンがぐずると、彼女は気前よくじゃらじゃらの一つを外して赤ん坊にぽんとよこす。
誤飲を恐れた父親がさっと赤子が口の中に入れる前に取ってしまうと、今度こそ彼女はわんわん泣き出した。女性達からにらまれたアルトゥルースが半泣きでリテリアに無言の助けを求めている。
リテリアは笑いながら、ひとまず赤子の泣き声を理由にその場を退散する。
程なくして、リテリアだけが奥に来るようにと呼ばれる。軽く事情を話すと夫は快く妻を送り出した。
「久しぶりに会えたんだ、積もる話があって当然だろう。……また後で」
抱擁と口づけを、夫婦で、親子でかわす。レィンはおねむの時間がやってきたらしく、アルトゥルースの腕の中でうとうととまどろんでいる。
彼女が行ってしまおうとする瞬間、一度だけアルトゥルースが声をかけてきた。
「どうなさいました、旦那様」
「……ごめん、なんでもない」
いつもと違う場所で、周りも浮き立っている。きっと落ち着かない、不安な部分が大きいのだろう。リテリアはそう感じて、安心させるようにとびきりの笑顔を浮かべた。
「夜のお乳の時間までには、戻ってきますから」
母親が離れると、何かを察知したのかさっきまで眠る一歩手前だったレィンがいきなり泣き出している。
父ではうまくあやしきれないらしく、赤子の声は長い間母親の背中を追いかける。
――彼女はいつまでも、いつまでもずっと、泣き続けていた。




