少女と愛の話
愛とは時に狂気である
少女は恋をしていた。それは容易いものではなかったけれど、少女は彼を愛していた。
少女を生みだした二人は少女に興味がなかった。見向きもされない少女はすぐに自分が「要らないモノ」だと覚った。それからは己を消すことだけが少女の日々だった。
言葉が怖くて他を拒絶しても寂しくて、悲しみに怒りや虚しさが積もる。またそんな己が嫌だった。死んでしまえと何度願っただろう。自ら殺す心も付かずただ怯え、時が過ぎるのを待つだけ。そもそも何故こんなに人間になってしまったのか。幼い頃はもう少しマシではなかったか。過去の記憶など当てにならないもので、少女の記憶は美しかった。もう何も思い出せないのだ。
彼は月だと少女は例えた。暗い世界暗い道を、不安と恐怖で押し潰されそうになる私を月明かりの様に照らし、何処へ行ってもずっと側に居てくれるのだと。実際はとてつもない距離があることを少女はわかっていた。また、自分だけのものでもないと少女はわかっていた。それでも愛しくて堪らなくて、少女の何もかもが彼を中心に回った。
少女の愛する人は、己もまた闇に苛まれる人間だった。不安定で気づいたら消えてしまいそうで。時折雲に隠れてしまう、少女はそんな彼の弱さや儚さまでもに魅せられていたのだ。初めて自分と同じ悲しみを持ってる人だと少女は涙を流した。一人じゃないと。
彼の存在は少女の精神を支える唯一のもの。
「私は愛しい人を見つけたの。あの人が居てくれるなら他がどうなろうと関係ないわ。」
少女は笑った。幸せだと笑った。
月に手を伸ばす少女。届きそうだと、届いてくれと。祈りは虚しく宙を舞う。
少女は知っていた。
それでも「愛してル。」