第8話
俺とケンはいまだ立ち向かったことのない敵と対峙するため、剣を構えた。
その間、青年はこちらを凝視しながら、考えるようなそぶりを取っている。
これは待っているのか・・・。
そう判断するのが先だったか、行動したのが先だったのか。
俺とケンは青年へ向かって走り出した。
「へ~。真正面から来るのか。よほど自分の実力に自身があるのかな。」
青年はそれだけ言うと、俺たちを見据える。
そして俺とケンと青年の距離がすごいスピードで近づいて行く。
剣が入る間合いにお互いの体が入ったのが感じられた。
その瞬間。俺とケンはアイコンタクトを瞬時に交わすと、そのまま左右に逃れた。
「リン・リオカ~!!今だ!!」
「「わかった!!」」
俺とケンが左右に分かれ、中央に分かれたその瞬間を見計らって、
リンは雷撃魔法を、リオカはドラゴンブレスをそれぞれ青年に打ち込んだ。
青年は驚きを隠せない、そんな表情をしながらその攻撃を避ける態勢を取ろうとした。
しかし、そうはさせない。
俺とケンが左右に分かれたのは単に攻撃の道筋を与えるためだけではない。
俺とケンは左右からそれぞれ、青年へ向かって伐りこんだ。
前からはリンとリオカによる魔法攻撃、左からはケンの一撃、右からは俺の一撃が襲う。
俺たちのグループの必勝パターンのこの攻撃にはどんな敵も為す術無く散っていく。
それがいつもの光景だった。
(勝った。)
しかし、新しく実装されたばかりのステージで、
そこに行きつくまでに倒す敵の強さからその直前のボス戦と見紛うばかりの
トラップを配置していたボスがあっさりと倒されるわけがなかった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
俺が勝ちを確信したその瞬間、後方から断末魔の叫びが聞こえた。
その声の主はリンであった。
リンのいる方向を見ると、そこにはなんとさっき必勝パターンにはめたはずの青年が
剣をリンの体に突き刺しているのが見えた。
それと同時にリンの体力が尽き、その体が霧散していった。
「まずは一人。この魔術師さんからだ」
そして俺たちの視線に気付いた青年は不敵な笑みを浮かべながら、呟いた。
「一体、何が起こったんだ」
あまりにも信じられない光景を目の当たりにしてしまったこともあってか、
そんな疑問を声に出してしまっていた。
「おれにも分からない。だが一つだけ分かることがある。
こいつの強さは今まで戦ってきたどのボスとも格が違う。」
俺の問いかけに対して、ケンはそう答えるもその言葉の節々は震えていた。
こんなケンを見るのは初めてだったが、そうなる気持ちは分かる。
それほどに強大な敵なことに今更ながら気づいてしまった。
しかし、俺たちのそんな動揺を見抜いたのか、
青年はこちらへ向かって走り出してきた。
今度はさっき俺たちが行った行動とまったく同じ行動で青年は仕掛けてきたのだ。
正直、不安と恐怖が胸を覆っていた。
青年がこちらにどんどんと近づいて行くその様に今までこの方法で
倒してきたボスと自分をついつい重ねてしまう。
そして俺の脳裏にはある言葉が浮かんだ。
(俺、ここで倒されるのか・・・。)
そう思ったのと同時に青年の剣が俺の体に向けて、放たれた。