第5話
そして、新イベント「天から舞い降り死、化け物たち」が
3人との打ち合わせを終えた3日か後から開始された。
今回のイベントでは天空ステージの実装、それに加えて天空モンスター、
遠距離武器が追加され、最初の試みということもあってか
ランキング上位者への報酬として天使の翼というアイテムが付与される、
この天使の翼はどのジョブに装備することのできるアイテムで、
装備したキャラクターは一定期間、空を自由に駆け回ることができる。
このアイテムがランキング報酬だということが前日に発表されて以降、
ユーザーは興奮醒めない表情でいた。
俺たちもそのアイテムを狙っている。
しかしおそらく今回のイベントにおいては、ランキングに入ることは難しいだろう。
というのもあの日から3日間でさらに近距離戦闘から
遠距離戦闘系ジョブに切り替えたユーザーが増え、
もう既に8割が遠距離戦闘系になってしまい、
その中には近距離戦闘系のランカーも多数いたのだ。
彼らは遠距離戦闘系にジョブをチェンジして以降、
軽く廃人と言われてもおかしくないほどにゲームをやり込み、
もう操作性に関してはもともと遠距離戦闘系でランキングの中部にいた
ユーザーよりは上手いだろうと言われているくらいだ。
俺とケンも少し、遠距離戦闘系に変更する道を考えはしたものの、
やはり最初から同じ職業で長年戦ってきたため、愛着感がわいていたのだろう。
お互いにジョブチェンジするという選択肢は取らなかった。
イベントステージのゲートにたどり着いた俺たちは、イベントへの参加申請をした。
するとゲートが開き、中へと足を進めていった。
「うわぁ、これは予想以上にすごいな」
ゲートを通り抜けた俺たちを待っていたのは、青空が視界一面に広がる空の上で、
下に視線を落とすと、さっきまで目の前にあったはずの
ゲートが遥かに小さく見えていた。
あ~、本当に天空ステージなんだなぁという感動を感じた俺、
その感情になったのは俺だけではなく、
リオカもリン、アイリ、そしてケンでさえ、
その光景に驚きとともに感動を覚えているのか、感想を口にしていた。
このステージでの移動手段は雲の上を歩くことのほかに、
透明な道を歩くこと、さらに高度なプレイヤーであれば、
空中を飛んでいる魔物を踏み台にして移動していた。
しかし、この天空ステージには落下ペナルティというものが存在し、
透明な道があるとはいってもそれは正規のルートのみで、
正規ではないルートで進もうとすれば、道がなくなり、
雲の上を歩くか魔物を利用するしかならなくなり、そこで落下地点を間違って、
落ちるようなことになれば、ペナルティが課せられ、
ゲートまで戻され、一定額のお金を失うようだ。
さらに言えば、正規のルートだからと言って必ずしも安全というわけではなく、
どうやら進んでいくごとに道幅が狭くなっていったり、
最悪の場合は道が一定間隔で消えるそうだ。
そんなことを念頭に置きながら、俺たちは前へ進んでいった。
3人との打ち合わせの通り、リオカを最前線とし、リンとアイリを前線、
俺とケンが後方から襲ってくる敵を迎え撃つ役を担っていた。
しかし、行動していくにつれて、
リオカのドラゴン使いというジョブがこれほどまでに天空ステージと
相性が良かったのかと実感することになった。
陸地でもリオカがドラゴンの背に乗って戦闘していることはよくあったが、
対して乗ることに意味があるのかと考えることも多々あった。
しかし、この天空ステージにおいてはその行為は絶大な役割を発揮していた。
まずドラゴンは空中生物であるから空を飛行しながらの攻撃が可能であり、
それに乗りながらなので、一番厄介な落下ペナルティを受けることがまずない。
最悪落ちたとしても、ドラゴンが助けに入ることから空中戦においては重宝される。
次に一番前を進んでくれているため、後方にいる4人に道が狭くなっているか、
それとも消えているのかをいち早く察知して伝えてくれるのだ。
そしてなんといっても一番重宝しているのが、
リオカの使役しているドラゴンはレッドドラゴンという種類で、
このタイプのドラゴンは背が広いため、最大6人までなら後ろに乗せることができ、
このことから正規のルートではない経路を通ることを可能にしている。
まあ、とは言っても乗せる人数が増えていくにつれて、
ドラゴンの体力の消費量が大幅に増えていくことから、
あまり多用することはできない。
しかし、そのことを差し引いたとしてもドラゴン使いは活躍の幅が広がった。
それに加えて、アイリのサモナーとしての能力もかなり役に立っていた。
陸上での戦いでは逃げてばかりのアイリだったが、
こと空中ステージにおいてはドラゴン使いの下級クラスであるサモナーの
倒していった魔物を使役できるという特性を利用して、
空中の魔物同士で戦わせていた。
陸上戦闘ではあまり役に立たなかったサモナーの特性が
こんなにも使える能力だとは思いもしなかった。
まあ、アイリ自身がやる気がなかったということも大きな原因だとは思うが、
今回は前線を任されたからなのか、やる気に満ち溢れた状態で戦ってくれた。
できれば、これから先の陸上戦でもそうして欲しいくらいだ。