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君といた世界  作者: アキラ
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第4話

「それで、次のイベントなんだが、

今回から実装される天空ステージがどうなるかだよな」

「そうね。今までの陸地だけのステージだと

相手キャラの位置もつかみやすかったし、

攻撃も直線上に行けばほとんど当たっていたわ。だけど」

木葉は思案していることがあったのか、少しの間をあけた。

「だけど、天空ステージは文字通り空中戦ができるということ。

つまりは相手キャラが突然下や上から現れること。

そしてまだ実装されて間もないということは、

もちろんのことではあるけど空中戦は困難を極めるでしょう。

それに加えて、まあこれは今の話と大いに関係ありなことだけど、瑠偉」

木葉はここから先の話は俺にしてもらった方がいいと思ったのか、

中途半端に話を区切ると、こちらに目線を合わせてきた。

「ああ、そうだな。木葉の考えていることはよくわかっている。

空中戦に慣れていないという状況が一番不利なのは、俺やケンを含め、

剣を扱うジョブを選択しているプレイヤーだ。」

俺がその言葉を発すると、

木葉はその通りとでも言わんばかりに頭を縦に揺らしていた。

そう。今回の天空ステージが実装されるにあたって、一番この悪影響を強く受けるのは、陸地を駆けることによって相手に接近をしたうえで、相手との近接戦闘を仕掛ける必要のあるプレイヤーたちだ。

これらのプレイヤーは今まで木葉が先に言っていたように直線上に相手目掛け突進をし、剣や槍といった武器を以ってダメージを与えていく戦闘スタイルであり、日頃からそういう目でゲームをしていることから、上下からくる敵の対処は苦手だった。それに加えて、その天空ステージに入るために必要なレベルは50と割と高い数値であり、そのことから天空ステージに入った序盤の敵は最初から空中であることを生かした攻撃をしてくることだろう。そうなってしまっては誰がどう見てもこちら側が不利ということは明白であった。

その点、遠距離から攻撃を行う魔術師や弓矢使いといった遠距離戦闘系のプレイヤー、魔物を使役して戦うサモナー。そしてサモナーの上位互換職であり、香のジョブでもあるドラゴン使いは天空ステージの実装によって受けることのできる恩恵は多大なものであった。

というのもこれらのジョブプレイヤーたちは俺たちとは逆に上下からくる敵の対処が抜群にうまい。特にドラゴン使いは日頃からドラゴンを使役することで、自身もまた空中での移動を可能にしているということもあって、空中戦は得意であった。

これらのことからプレイヤーたちが天空ステージの実装を知った際には、今まで強大だった剣士や騎士といった近接戦闘のジョブの力を削ぎ、代わりに空中戦も少し可能だったドラゴン使いをはじめとした遠距離系のジョブの力を向上させて、ゲームバランスを均等にしたということを運営サイドに思った。

そして、遠距離戦闘のプレイヤーは今までは近接戦闘のプレイヤーの戦いの際の支援役としての働きが大きく、いつしかそういう目線でしか見てなかった。もっとひどい言い方をすれば「近接戦闘型がいなければ弱い奴ら」と言われ、虐げられていたのだが、今回の実装を機に立場が逆転したと言っても過言ではなく、実装の話が出た数週間後から、近接戦闘プレイヤーと遠距離戦闘プレイヤーとの間でそういった口論が勃発し、あまつさえ戦闘にまでなる始末となり、彼らの間に溝ができてしまった。その溝は日に日に深くなってしまい、多くのグループで分裂を引き起こしていたのだ。

さらに言えば、実装の話が出て以降ゲーム内でプレイヤーが近接戦闘型から遠距離戦闘型へジョブチェンジしていることもよく見られており、それまで近接70 遠距離系30だったプレイヤー比率が大きく変化し、今では45、55と遠距離型が全体の半分以上を占める形となってしまっていた。


まあ、とは言っても俺たちのように近接戦闘型、遠距離戦闘型といった枠組みによって行動しない。つまりは全員で戦い、全員が全員を支援するという仕方を取っているグループも少なからずいるわけで、こうしたグループではどちらが上か下かではなく、お互いに平等な仲間としての関係を築いている。そのため、不安は少なからずあったものの、これを機に分裂することもなかったという安心もあってか、俺たちにとって天空ステージの実装は楽しみで仕方がなかったし、これからもこの仲間たちとの関係は大切にしていきたい。

そういう風に思えるようになったのも、天空ステージの実装があったからだろう。


それに俺たちのグループにはドラゴン使いの香、魔術師の木葉、

そしていつもはあまり役には立ってはいないけどサモナーの愛莉もいる。


そして俺はここに来るまで、

いや実装が決まった時から考えていたことを

彼女たちに提案していく決心を付けることができた。

「ああ、だからこれから先の天空ステージでは、

香・木葉・そして愛莉に前線を任せたいと思っているんだ。

そして俺とケンで3人の援護をさせてもらおうと思っているんだ。」

俺のそんな提案を聞いた3人は少し目を丸くしていた。

それもそのはずだろう。なんせ俺とケンは戦うことが好きで、

いつも目を離すとすぐに敵に近接戦闘を仕掛けていくタイプだったから。

そんな俺がそんな提案をしたのだ。驚くのは無理もない。

しかし3人の驚いた表情は思いの外、早く解かれたかと思うと、

3人ともこちらの目をじっくりと見てきた。そして

「いいよ~。瑠偉がそう言ってくれるんだったら、次から本気出しちゃうね~」

「ふふ、本当に愛莉は調子がいいんだから。

だけど、愛莉の意見には同意見よ。瑠偉の援護に負けないぐらいに頑張るわ。」

「そうよ。瑠偉!私たちの足、引っ張ったら許さないんだからね。ふふ」

そう言って、3人は俺の提案に同調してくれて、

ああ、こんな仲間と出会えて本当に良かったなぁ

としみじみと考えて、4人で笑いあった。

そこだけ、本当に穏やかで優しい空気が流れた。そんな気がした。


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