第11話 アンデット騒ぎ
もう数話で完結します。
オーク討伐の依頼を受けて一日、討伐はすぐに終わったが食事や移動なので時間を取られてギルドへの報告は次の日にした。
ようやく俺の実力を見せられると自信満々でギルドに入り受付まで進む。
受付嬢はこの前俺に吹き出した人だったので見返してやれると内心で悪い笑みを浮かべる。
アイテムポーチからオークの死体を一体取り出しカウンターの前に置く。
重量感ある音がギルドに静かに響く。
受付嬢は少しだけ驚いた表情を見せる。
ふふん。どうだ! 凄いだろ!
そう思っていたら急に受付嬢に怒鳴られた。
「何をしているんですか! 魔物の買取はここではなく隣の建物です!
こんな場所で魔物の死体を出すなんて何を考えているんですか!!」
超怒られた。
どうやら魔物の持ち込みは隣の建物、解体所に持っていくらしい。
それから小一時間説教されて、オークの血で汚れた床を掃除させられた。
そりゃ確かにギルドの受付に魔物を持ってこられたら臭いし汚れるから迷惑だよな。
だからって「常識はないんですか!?」、「依頼書を渡した時に説明しましたよね?」って言われても…。
常識の部分は言い返せないが、依頼書を受け取った時は他の冒険者に絡まれるのを警戒して聞き逃していた。
俺も依頼書を見てどうするのか不思議には思っていたんだけど、そうか解体所でサインを貰う必要があったのか。
今回は全面的に俺の不注意だったな。
次から気を付けよ♪
「はぁ~、死にたい」
「げんきだして、ごしゅじんさま」
「ちょっ! やめろって!」
パグコが俺の顔をベロベロと舐めまくってくる。
慰めようとしてくれているのはいいが、よだれがすごいし、くすぐったい。
けど、その気持ちはありがてぇ。
その日は宿屋でパグコをもふりながら自分を慰めた。
次の日、俺は依頼を受けるためにギルドへ向かう。
俺すごくね? なんだかんだでギルドへ行くんだぜ。
常人なら引きこもるか街を出るレベルの精神攻撃をくらっているのによ。
自分で自分を褒めながら冒険者ギルドに到着する。
ギルドに入るといつもと違いやけに冒険者たちが騒いでいる。
俺は受付嬢のところに行き何があったのかを聞いてみる。
「実は…西の森でアンデットが出たらしいんです」
「アンデット? それって珍しいことなんですか?」
「いいえ、アンデットの存在自体は珍しいものではありません」
受付嬢の説明ではアンデットは魔力を多く有する生物が死んだときに生まれる魔物らしく、浄化魔法や聖属性の武器で倒せるので脅威度はそこまで高くないそうだ。
「ん?」
俺は首をかしげる。
それならどうして皆騒いでいるのだ?
「ですが、問題はそのアンデットとなった元の存在なんです」
「元?」
「そのアンデットに襲われた冒険者の方の話では、アンデットの外見と装備がAAランクの冒険者だったと報告しているのです」
「!?」
アンデットは首なしで白い鎧に赤いマント、銀色の剣を装備していたらしい。
装備の特徴がこのギルドに所属するAAランクの冒険者アドムと酷似していると受付嬢は教えてくれた。
「…」
それ俺が倒したあいつじゃね?
「冒険者アドムといえば『白騎士』と呼ばれるほどの実力者でした。
そんな方が死んでアンデットになるということは最低でもAランク級の魔物が誕生したことになります。
ギルドでは現状Aランクのアンデットに対抗できる冒険者がおらず対処に困っているのですよ」
「…」
あいつ、そんなに凄い冒険者だったのか。
通りで俺が一回死ぬはずだ。
それにしても奴が(魔物として)生きていたとは…。
いいだろう! この俺が再び奴に引導を渡してやる!
「まあ、こんなことFランクのザイカさんには関係のないことですけど」
「えー」
そりゃないぜとっつぁん。
人はランクによらないんだぜ。
「おそらく近日中にギルドで上位冒険者たちを募ってアンデット討伐に向かうと思いますのでそれまでは西の森には行かないようにしてくださいね」
「…ちなみに俺がそのアンデットを倒したりしたらどうなります?」
「ダメですよ。危険ですので」
「いえ、そのもしもの話で…」
「ダメですよ」
受付嬢にめっちゃ睨まれた。
怖いよ! この迫力! 本当に貴方はただの受付嬢ですか!?
「おい、何をもめている?」
「…ギルド長」
「えっ! ギルド長!?」
金髪オールバックのナイスミドルなギルド長が現れた!
スゲェ! 俺ギルド長と対面しちゃった!
サ、サイン貰おうかな…。
「お前が近頃話題の黒騎士か?」
「驚異の依頼達成率100%の期待の新人と言う話ですね。ギルド長の期待に応えられるようこれからも精進します」
「誰も期待していない」
「…ぷっ」
おい、受付嬢!
「…。それでお前は何をそんなに殺気立っていたのだ?」
「そ、その、こちらのFランクの方がアンデット討伐に行こうとしていたので」
受付嬢Fランクを強調してきたな。
ギルド長はそれを聞いて俺を睨む。
ひぃっ! 受付嬢以上の気迫にオラ吹き飛ばされそうだ。
「何のつもりだ? Fランク」
「いや、別にアンデット討伐に行くなんて言っていませんよ。
ただもしも俺みたいなFランクの冒険者がAランクの魔物を討伐したらどうなるのかなーって受付嬢に質問したつもりだったんですけど、勘違いされてしまったみたいですね~」
「…」
俺はちょっと嫌味っぽく受付嬢に言ってやった。
けけ、俺を笑った仕返しじゃい。
凄い殺気のこもった視線を返されたが気にしてないフリをする。
「ふん、FランクがAランクを討伐などありえん。返り討ちに会うだけだ」
「けれど自分よりも格上の魔物を運良く倒すことってないわけじゃありませんよね? その場合の対処はどうなっているんです?」
「随分自信家のようだな。いいだろう、ミライ教えてやれ」
「ギルド長!?」
受付嬢のミライさんはギルド長に反論しようとするが職務だと割り切ったのか俺に説明をはじめる。
「ギルドでは下位ランクの冒険者が偶然上位依頼を達成した場合、依頼書の報酬、又は特別報酬を出します」
「へー、意図的に達成した場合は?」
「…こちらからの罰則は特にありません。ですが普通はそのようなことはありません」
「命を捨てるようなものだからな。仮に達成したとしてギルドからは問題視され心象は悪くなり、同業の冒険者たちからも疎まれるだろう」
「そうです。冒険者はギルドのルールを破ることを嫌いますので」
「そ、そうですよね」
思ったより厄介だな。
ギルドと同業者を敵にするのは避けたいところだ。
だが奴は俺が倒さなければならない相手だ。
こっそり倒したらバレないんじゃね?
「下手な考えはやめておけ」
「うっ」
「それに『白騎士』がアンデットになっているということはそれを倒すほどの魔物か何かがいる可能性が高い」
あっ、それ俺です。
「分かりました。元々行く気はありませんでしたから他の依頼を受けます」
「そうしてください」
「じゃあこのハイウルフ討伐を」
「…」
ハイウルフの生息地は西の森が有名ですが何か?
別に西の森以外にもハイウルフは生息しているので問題はないはずでしょ?
ギルド長と受付嬢はやや呆れた顔で俺を見つめる。
「小僧…そうまでして討伐に行きたいのか?」
「な、なんのことですか? 僕は別に…」
「ザイカさんいい加減にしてください!」
やん、受付嬢がマジギレしている?
「なんだ、なんだ?」
「あのミライさんが大声を…」
「また黒騎士だぜ」
ほら、大声出すから周りに注目されちゃったよ。
俺はただハイウルフ討伐の依頼を受けたいだけなのに。
「はぁ~、小僧! 少し顔を貸せ!」
「ええっ!」
ギルド長の突然の発言。
俺は強制的にギルドの奥へ連れて行かれる。
あっ、やっちゃった?