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覚悟と壁の向こう側 08

(逆袈裟、右肩狙いか!)

 太刀筋を読んだ朝霞は、後ろに飛び退き、刀をかわそうとする。だが、朝霞の足は鉄球でも結び付けられているかの様に重く、思ったとおりに動かない。

 それでも無理に動かそうとした結果、足がもつれ……朝霞は体勢を崩してしまう。やや前のめりになる形で。

 手加減しているとはいえ、高速で振り下ろされた神流の刀が、体勢を崩した朝霞に迫る。しかも、朝霞が体勢を崩したせいで、本来の狙いである右肩を外れ、プロテクターに保護されていない右の首に、切先の先端が当たるタイミングで。

(――!)

 プロテクターで保護されていない部分でも、仮面者の装束は通常の銃弾や刀剣の攻撃なら、余裕で中の人間を守り切れる。だが、手加減した上での峰打ちであっても、プロテクター越しに、結構な痛みと衝撃を与える神流の打ち込みだと、無事で済むかどうかは分からない。

 しかも、朝霞の見切りでは、このままだと切先の部分が、喉を掻っ切る様に当たるだろう太刀筋。峰打ちであっても、切先は切れる。

 切れ味が鋭過ぎる、布都怒志の長刀の切先が、この形で当たれば、装束ごと喉が切られる可能性が高い。偶然、最悪と言える形の事故が、起こりかけているのだ。

(この太刀筋は危険だ! かわすのは無理でも、せめて当たり所をずらさないと!)

 朝霞は焦るが、既に理解している。この切先を、今の自分ではかわせない事を。負荷と消耗のせいで、動きが鈍り過ぎているからでは無い、仮に万全の状態の透破猫之神であっても、この間合いとタイミングで首に迫る切先は、おそらくはかわせない。

(死ぬのか……俺)

 そう朝霞が察した通り、透破猫之神の装束が耐え切るか、神流が寸前で刀を止めぬ限り、朝霞は死ぬ可能性がある。だが、神流が止めるには、既に太刀は朝霞に迫り過ぎていた。朝霞は死の恐怖に捉われるが、身を震わせる暇など無い、死をもたらすだろう刀は身を一度震わせるよりも短い時間まで、迫って来ているのだから。

(――冗談じゃない! こんなとこで、死んでられるかッ!)

 鈍っている身体とは違い、普段より澄み切った精神が実現する思考が、朝霞の頭から恐怖を追い出し、生き延びる為に瞬時に思考を巡らせる。そして、その答えを出す、生き延びる為のシンプルな答えを。

(今までの速さでかわせないなら、今まで以上の速さで、かわせばいい!)

 超えれば良いのだ、これまでの自分を、これまでの速さを、これまでの限界を。これまでの自分を超えようとするのを、妨げる障害が……壁が目の前に有るのなら、そんな壁など打ち壊して、その先に進めば良い。

 壁の存在を、朝霞は本当の意味で認識した。壁は存在するのだ、自分を安全なエリアに押し込め、守る為の壁が。だが、その壁の存在こそが、今の朝霞にとっては、命の危機を回避するのに、邪魔な存在なのだ。

(外じゃない、壁が有るのは……俺の中だ、心の中……)

 心……精神の中に壁があるのを意識したせいか、朝霞の視界が現実世界から精神の世界に切り替わる、六芒星が描かれた、蒼玉の様な色の、見上げる程に高く強固な城壁の如き壁として、朝霞の精神の中で、壁はイメージ化されている。精神の中で、朝霞はその壁を全力で殴り付けながら、心の中で叫ぶ。

(消え失せろ! 邪魔なんだよッ!)

 青い壁に稲妻の様な亀裂が走ったかと思うと、壁は蒼玉粒や蒼玉辺の如き欠片を大量に撒き散らしながら、轟音と共に崩れ始める。倒壊するビルの様に、青い壁は連鎖的に崩壊を続け、程無く青い瓦礫の山と変わる。

 崩れ去った壁の向こうは、眩い程の青白い光に満たされた世界。その光に吸い寄せられる様に、壁の向こうに朝霞が足を踏み入れ、その光を全身に浴びると、力が……これまで感じた事が無い様な強力な力に、朝霞の全身が満たされ始める。

(壁を越えたんだ! いや、越えたというより、壊して壁の向こうに進んだのか)

 自分が限界を超えたのを自覚した直後、朝霞の視界は現実世界に戻る。神流の刀の切先が、朝霞の喉元から数センチの辺りまで迫っている、現実の世界に。

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