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覚悟と壁の向こう側 07

 苦痛に呻いた朝霞を案じ、神流が問いかける。

「今の、強過ぎたか?」

「問題無い! むしろ、良い具合に気合が入るくらいだ! どんどん来い!」

 まだ痺れが残る右手を、軽く振りながら、朝霞は答える。

「――了解」

 少しだけ躊躇う素振りを見せるが、覚悟を決めて、今度は上段に構え、右上から袈裟斬りにしようとする……峰打ちなので、正確には斬るというより打ちこむのだが。透破猫之神の肩と胸にはプロテクターがあるので、袈裟斬りなら、プロテクターに当たる可能性が高い為、神流は袈裟斬りを選んだのだ。

 今度も朝霞は見切れはするが、かわしきれない。左肩を長刀の峰で打たれた朝霞は、苦痛と衝撃に呻き声を上げると、体勢を崩し、その場に左膝を突いてしまう。

(いや、これは……キツイわマジで……)

 左肩の骨が砕けないのが不思議な程の、衝撃と苦痛に苛まれながら、朝霞は心の中で愚痴を吐く。だが、左肩とその先の、じんじんとする痺れに似た痛みが治まらぬまま、朝霞は即座に立ち上がる。

 そして、左肩を打ってから、刀を戻して動きを止めた神流に、声をかける。

「止めるなよ、どんどん来いって言っただろ!」

 かなりの無理をして、朝霞が虚勢を張っているのは、声と動きから神流には察せられる。故に、神流は問いかける。

「いや、でも……本当に大丈夫か?」

「だから、問題無いって! 来ないなら、こっちから行くぞ!」

 問題が無い訳では無い、戦って攻撃を受ける形で、自らに過大な負荷をかけ、負荷が半減したせいで弛み始めた精神の箍を、無理矢理引き締めているのだ。既に限界に近い程に消耗している身体を、自分から消耗させ、追い込んでいるに等しい状態。

 そんな状態で、朝霞は神流に向かってダッシュし、ようやく痺れが消えつつある右拳で、殴りかかる。普段に比べれば数分の一のスピードであり、動作も現在の朝霞のレベルでは無く、武術の修行を始めた頃並に拙い。

 当然、そんな突きが神流に当たる訳も無く、神流は余裕でかわすと、擦れ違い様に中段で右から胸を打つ。本来なら右胴を打つところなのだが、透破猫之神の腹部にはプロテクターが無いので、ずらして胸を打ったのだ。

 胸を打たれた衝撃で、朝霞は呼吸が出来ず、激痛にも呻く事すら出来ずに、その場に崩れ落ちる。呼吸は衝撃で僅かに止まっただけなので、朝霞は激痛に堪えながらも、すぐに呼吸を再開し、立ち上がる……が、足元が覚束無い。

 明らかに、負荷によるダメージが蓄積し、戦える状態ではなくなりつつある、朝霞の肉体。だが、逆に精神の方は完全に引き締まったのか、これまでに無い程に、澄み切った状態に近付きつつあった。

 骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げ、打たれた箇所には痺れの様な痛みが残っている。それらは精神のノイズとなるのだが、それでも今の朝霞の精神集中は、最高といえる状態だった、

(精神集中の方は狙い通りだが……身体の方が、予想よりヤバいな、こりゃ)

 心の中で朝霞が呟いた後、不安げに朝霞の様子を見守っていた幸手が、腕時計で時間を確認しつつ、声を上げる。

「――もう十二分を超えてるよ。余り無理は、しない方が……」

「なーに言ってんのよ、無理はして当たり前でしょうが! 無理しないと手に入らない力に、手を出そうとしてるんだから、俺達は!」

 幸手同様、不安げな声のトーンの神流が、朝霞に問いかける。

「いや、でも……足元がふら付いてるけど、まだ続けるのか?」

「当然! さっさと、打ち込んで来いって!」

 苦痛と不快感に全身を苛まれ、消耗する身体に鞭打ちながら、朝霞は身構え、右手で手招きする。肩で息をしている程度に、体力が限界に近付いているのは、明白。

「――知らんぞ、どうなっても」

 気が進まないのだろう、神流は少し自棄気味に言葉を吐き捨てつつ、神流は左上段に構えると、袈裟懸けで斬り込む。今度は右肩のプロテクターを狙い、打ち込んだのだ。

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