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覚悟と壁の向こう側 06

(――九分台に入った? いや、それだけじゃない……これまでのより、軽い!)

 これまで経験した、負荷が軽くなる六度の経験に、大差は無かった。だが、今回のは明らかに、負荷が軽くなる程度が違った。明らかに軽い。

(壁が……近付いているんだ!)

 朝霞は本能的に察する、負荷が何故、これまでより軽くなったのかを。九分台に負荷が軽くなる経験を六度繰り返し、朝霞の身体と心は、その状態に慣れ……耐性を得て、これまでより先の段階に、進みつつあるのだ。

 だが、これまでより負荷が軽いのは、楽では有るのだが、より落差が激しい。凄まじい負荷から開放された朝霞の身体と心は、緊張からの開放を求め、精神のたがを弛めんとする。

(駄目だ! ここで精神集中が乱れたら……また失敗しちまう!)

 半減したとはいえ、負荷がゼロな訳では無い。負荷が軽くなったからと、ここで精神集中が乱れたら、結局は負荷に耐え切れず、また意識を失って失敗に終わる。

(どうにかしないと……精神集中を乱さずに済む方法、何かないのか? 何か!)

 楽になったせいで、弛んでいく精神の箍を意識しつつ、それをどうする事も出来ない。そんな自分に歯噛みしつつ、朝霞は必死で頭を巡らす。様々な精神集中の方法が、朝霞の頭に浮かんでは消える。

 これまでに失敗した回も、色々と朝霞は試してはみたのだが、全て失敗に終わっていた。

(俺の精神が集中している……研ぎ澄まされているのは、どんな時だ?)

 自問する朝霞の頭に、盗む時や敵から逃げる時など、幾つかの候補が浮かぶ。そして、浮かんだ候補の中で、最も有効的だと思われる方法を、即座に朝霞は選択し、実行に移し始める。

「か……神流! 俺と……俺と戦えッ!」

 声を振り絞り、朝霞は神流に怒鳴りつつ、身構える。負荷がこれまでより相当に軽いせいか、声も出せるし、身体も動くのだ。無論、仇名で呼ぶ余裕は、流石に無いのだが。

「え? 何で?」

 神流は驚きの声を上げ、戸惑いの表情を浮かべる。朝霞の意図が、理解出来なかったからだ。

「精神集中を維持する為だ! 戦えば精神が研ぎ澄まされるし、負荷がかかる! 負荷が軽くなったせいで精神の箍が弛むなら、自分で負荷をかければ良いんだよ!」

「――成る程」

 神流自身も交魔法修行の際、負荷が急に軽くなったせいで、余計に精神の箍が弛んで精神集中が乱れ、失敗する経験を朝霞同様に繰り返している。故に、戦う事により自らに負荷をかければ、精神の箍が弛まずに精神集中を維持出来るかもしれないという、朝霞の意図が理解出来たのだ。

 無論、戦う際に精神集中するのも、武術に馴染んだ神流にとっては、当然の事といえる。

「理屈は分かるが、戦うと言っても……戦えるのか?」

 その場で、神流に習った突きや蹴りなどの型を、朝霞は披露する。普段より技の切れは、相当に落ちるが、戦えないという程に、動きは悪く無い。

「――これまでより、かなり負荷が軽いから……何とかなる!」

「了解」

 神流は蒼玉粒をミニボトルから取り出すと、黒いソフト帽に六芒星を描き込んで、素早く仮面に変える。仮面を被り、青い炎に包まれた神流の姿は、炎が消え失せた時には、布都怒志へと変わっていた。

 床がコンクリートで覆われている辺りに移動すると、鯉口を切って長刀を引き抜き、神流は構える。現在の朝霞相手なら、二刀を使う必要は無いとばかりに、両手で持った刀の切先を朝霞の目に向け、いわゆる中段の正眼の構えをとる。

 刀を裏返して峰を立て、切先を軽く泳がせて牽制すると、プロテクター状のパーツで守られている、透破猫之神の比較的防御能力が高い部分を狙い、大きく踏み出して小手を峰で打とうとする。加減はしているとはいえ、十分に速い打ち込みで、並の人間なら見切るのは難しい。

(右小手狙いか!)

 朝霞は神流の攻撃を余裕で見切り、回避しようとする。だが、半減したとはいえ、激しい負荷がかかった状態では、身体は普段通りには動かない。右手を引いて切先をかわそうとするが、間に合わずに……打たれる。

 苦痛と衝撃に、朝霞は苦しげに呻く。激痛は一瞬だが、手首の辺りどころか右腕全体に、痺れる様な痛みが残る。

 紙装甲と揶揄される透破猫之神とはいえ、手加減した上での峰打ちなので、身体が傷付いたりはしないが、痛みや衝撃自体は、かなりの物。だが、その痛みや衝撃が程良い負荷となり、むしろ朝霞の精神の箍を、引き締めさせる。

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