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月光の下で触れ合う魂と唇 01

(――バニラの匂いがする)

 意識が朦朧とした中、甘いバニラの匂いを嗅ぎ取り、朝霞は心の中で呟く。

(さっき、アイス食べたばかりだって、バニラが言っていたから、そのせいだろう)

 バニラの匂いの元である、ティナヤの顔を確認しようとするが、何も見えない。そして、朝霞は気付く、自分が目を閉じている事に。

 仮面者となり、天橋市の夜空を舞っていたのなら、目を閉じていたままの訳が無い。朝霞は自覚する、自分が夢を……ティナヤと出会った夜の夢を、見ていたのだと。

(あれ? でも、バニラの匂いは……本当にするみたいだけど)

 朝霞は鼻を鳴らし、匂いを確認する。バニラの匂いは、夢では無い。顔を動かして鼻の向きを変え、匂いの元を探ろうとした朝霞の鼻……というか顔が、柔らかで滑らかな物に触れる。

 覚えが有る感触だが、それが何だか……思い出すまで、寝起きの朝霞の頭は、少しだけ時間がかかる。そして、思い出した朝霞は、驚き……まどろみもせずに目を見開いて、状況を確認する。

 夜の室内、窓から射し込む月明かりだけに照らされる、何時もより青みがかって見える白い肌が、朝霞の視界の殆どを埋め尽くしている。なだらかな稜線を描く山の様な膨らみが、呼吸の音と同調し、僅かに膨張と収縮を繰り返している。

 それは明らかに、肌も露な女の胸。感触に覚えがあった様に、見た目にも覚えがある、同居人の胸だった。バニラの匂いもするし、誰の胸だか大よそ、朝霞には見当がついたのだが、一応目線を上げて、朝霞は顔を確認する。

 すると、寝息を立てているティナヤの顔が、朝霞の目に映る。

「――バニラの匂いがするから、バニラだろうとは思ったけど、やっぱりバニラか」

 恥ずかしさを誤魔化す為に、呆れた感じを強調しつつ、朝霞は呟く。

「ん……バニラとか呼ぶの、止めて……くれるかな? ちゃんと、ティナヤ……ララルだって……名前、教えたんだから……名前で呼んで……よ」

 寝惚けたまま、ティナヤは朝霞の呟きに応えつつ、朝霞の身体に適当に絡めていた腕を移動させ、朝霞の頭を抱き締める。バニラの匂いのする胸の谷間に、朝霞の顔を押し付けるかの様に。

 柔らかな胸の感触を、楽しんでしまいたいという欲望を打ち消しつつ、朝霞は声を上げる。

「て、ティナヤ! 何してんだよ、俺のベッドで?」

 焦って声を上擦らせ、仇名で呼ぶのも忘れて、朝霞はティナヤの腕を振り解き、身体を起こす。

「え? あ……朝霞?」

 朝霞の声と動きのせいで、目が覚めたのだろう。ティナヤは薄目を開け……呟くと、眠たげに大きく欠伸をしてから、緊張感の欠片も無い、あどけない子供の様な表情で、朝霞を見上げる。

「夢……だったんだ。もう……朝なのかな?」

 壁にかけられた時計を一瞥し、朝霞は問いに答える。

「まだ夜中だよ、午前三時半」

「三時半! 起こすには、ちょっと早過ぎだと思うんだけど……」

 気だるげな動きで上体を起こすと、ティナヤは両腕を上に伸ばして、また大きく欠伸をする。身体を動かしたせいで、形の良い胸の膨らみが、誘う様に揺れる。

 目のやり場に困りながら、朝霞は問いには答えず、逆に問いかける。

「――何でティナヤが、俺のベッドにいる訳?」

「何でって……」

 小首を傾げ、少しだけ考えてから、ティナヤは惚けた口調で答を返す。

「油断と隙が有り過ぎな朝霞の場合、ベッドに女の子が潜り込んでる事くらい、別に珍しくは無いんだし、改めて理由を訊ねる様な事なのかな?」

 同居している訳じゃないオルガですら、たまに潜り込んで来るのだから、同居している三人が、何もしない訳は無い。ティナヤの言う通り、同居人の三人がベッドに潜り込んで来るのは、朝霞にとっては、珍しいという程の事では無い。

 その度に、朝霞は理性を総動員して、同居人達をベッドや部屋から追い出すので、性的な意味で深い関係に至ったりはしないのだが。

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