ティナヤとの出会いと初めての実戦 09
男達の動きは素早く、連携が取れていて、並の人間どころか戦闘訓練を受けた魔術師ですら、確実に仕留められただろう一斉攻撃。方向だけでなく、高く跳躍して弾道を描いて、襲い掛かる者もいれば、地上をダッシュして殴りかかる者、ヘッドスライディングでもするかの様に、足元を狙って飛び掛る者など、高さも様々。
この避けるのは至難といえる一斉攻撃は、神流でも避けられはしない。避けられはしないが、神流は抜いたままの脇差を上段、長刀を中段と下段をカバーできる高さで構え、その場で両刀を閃かせつつ一回転。
鈍い音と悲鳴を、塗炭通りに響き渡らせつつ、神流を狙った四人の黒衣の男達は、神流の周りから弾き飛ばされる。路上に叩きつけられる様に落下した男達は、路上の上で呻き声を上げつつ、のたうち回る。
「馬鹿な! 幾ら聖盗の仮面者であっても、今の必殺の連携を、易々と……」
リーダーらしき男は、愕然としながら、力なく言葉を漏らす。その程度に、四人による同時攻撃には、必殺の自信を持っていたのだが、その自信を打ち砕かれたのだ。
そんな男に、朝霞は気楽な口調で、語りかける。
「だから言っただろ、俺より強いって」
朝霞の右手は、地面に描かれた魔術式に触れている。リーダーらしき男を含め、黒衣の男達の注意が、神流と幸手に向いている隙を突いて、ミニボトルから取り出した煙水晶粒を使い、覚えたばかりの簡単な魔術式を書き切っていたのだ。
「こ、小僧……自分で魔術式をッ!」
右手の六芒星から青い稲妻の様な閃光を放ちつつ、書いたばかりの魔術式を、右手甲の六芒星の中に吸い込む朝霞を見て、リーダーらしき男は理解する。朝霞より強いと朝霞本人が語った、神流達に気を取られ、朝霞が自分で魔術式を書いて奪う蒼に奪わせ、与える黒を使える様になるのを、許してしまった事を。
「まだ詳しい状況は分かってないんだ、殺してないだろうな?」
朝霞の問いに、神流は頷く。
「峰打ちだから、死んではいないよ。狙ったのは脚と腕だけで、頭や胴体は避けたし」
「死んではいないけど、腕や脚が変な方向曲がってるよ……痛そう」
矢を番えたまま構えた弓を、リーダーらしき男の方に向けて牽制しつつ、幸手は神流に倒された男達の様子を、チラ見して確認。感想を口にする。
神流が旋風崩しで倒した三人に加え、峰打ちにした四人、そして朝霞が与える黒で動きを封じたのが二人。十人いた黒衣の男達の中で、無事なのは既にリーダーらしき男のみ。
既に勝負は決したといえる、この段階に至り、遠くからサイレンの音が聞こえて来る。サイレンの音は複数重なり合っていて、次第に近付いて来ている。
「パトカーのサイレンです。誰かが通報したんだ……」
朝霞の背中にしがみついたままの少女が、耳元で囁く。
「こっちの世界の警察にも、パトカーがあるんだな」
呟きながら、朝霞は少女を背中から下ろす。既に戦闘可能な敵は一人、逃げ回る必要は無いし、その唯一の敵を朝霞達が抑え込めば良いのだから、下ろしても大丈夫だと判断したのだ。
そして、朝霞は身構えつつ、リーダーらしき男との間合いを詰め始める。
「あんたの身体の自由は、奪わせて貰う。後は……この世界の警察や司法が、ちゃんと片付けてくれるだろう」
口惜しげに口元を歪めつつ、リーダーらしき男も身構え、両掌から炎を発生させる。炎はあっという間にバスケットボール大の火球となり、男の両掌の上で激しく燃え上がる。
「――どうやら我等は、ここまでの様だ! 皆の者、血の盟約を……今果たせッ!」
声を張り上げながら、リーダーらしき男は二つの火球を同時に放つ。