ティナヤとの出会いと初めての実戦 08
朝霞の目線の先にいるのは、街灯の残骸が燃える光に照らされた、黒と青の鎧に身を包んだ、姫武者の様な姿の仮面者、布都怒志となった神流。仮面に隠されているせいで、表情は分からないが、自分が手にしている長刀と脇差を、不思議そうな仕草で眺めている。
「旋風崩しって……二刀の高速回転で空気中に渦作って、相手の体勢軽く崩すだけの技なのに、人間が三人も吹き飛んじゃったんだけど……」
近くにいた一人だけを相手に、その体勢を崩すだけのつもりで放った、得意技の旋風崩しで、人が三人も吹き飛んでしまった事に、神流自身が驚いていたのだ。しかも、二色記憶者になった時点で、かなりパワーが上がっているのを自覚していたので、神流は割りと加減して、旋風崩しを放っていたのである。
吹き飛ばされた三人は死んではいないが、路面に身体を激しく叩きつけられ、大きなダメージを受けたのだろう、苦しげな呻き声を上げつつ、路上に転がっている。
「変身したら、威力や機能が上がるのは、お約束って奴でしょ」
神流より五メートル程後方にいる、胸当て以外にもプロテクターが幾つも装着された、黒と青の弓道着風の仮面者、天久米八幡女に変身している幸手は、当たり前だと言わんばかりの口調で続ける。
「私だって、一応は子供の頃に弓道やってた事はやってたけど、さっきの矢……この姿で射らなければ、あの火の玉みたいなのに、当たらなかったかも知れないよ」
先程、リーダーらしき黒衣の男が放とうとした火球を破壊したのは、幸手の放った矢だったのだ。
「弓道の弓矢には、自動追尾なんてないし……ゲームと違って」
幸手は弓の左手で握る辺りにある、ダイヤルを神流に見せる。ダイヤルには幾つかの文字が書かれていて、その中の一つが「自動追尾」となっている。狙い定めた物が逃げても、追いかけて当たる自動追尾機能の存在に気付き、その機能を使って、幸手は矢を射ったのである。
「ネトゲの弓使いが使う弓矢並に、色々と高機能みたいだ……私の弓矢」
長射程多機能、ただし透破猫之神程でないにしろ防御力が低く、パワーと攻撃力は程々。ただし移動能力と機動性は最低というのが、天久米八幡女の特徴だ。間違っても前線には出せないタイプである。
「――さっき火球を破壊したの、乳眼鏡だったのか!」
ようやく火球が破裂した理由を悟った朝霞は、幸手に声をかける。
「ギリギリ間に合って、良かったよ!」
照れた様に、幸手は頭を搔きながら、言葉を続ける。
「いやー、仮面者に変身するのに、神流っちも私も、三回失敗しちゃってさ。遅くなって悪かったね」
「仕方が無いだろ、まだ変身自体に慣れてないんだから」
そう言いながら、神流は朝霞達とリーダーらしき黒衣の男がいる方に歩いて来る。一応、黒衣の男達を警戒し、身構えつつ。幸手も神流に続き、朝霞達に歩み寄って来る。
リーダーらしき黒衣の男は、焦りの表情を浮かべつつ、苦々しげに呟く。
「――仲間がいたのか」
「ああ、ウチは三人組なもんでね」
朝霞はリーダーらしき男にプレッシャーをかけ、尚且つ意識を神流と幸手に向ける為に、その呟きに応じる。
「しかも、その中の一人は、確実に俺より強いから、やられる前に、逃げた方が良いと思うぜ」
そう朝霞が言い終わらぬ内に、黒衣の男達が四名、一斉に神流に向かって襲い掛かる。火球を作らずに炎で拳を燃やし、神流の周り四方向から、殴りかかったのだ。