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ティナヤとの出会いと初めての実戦 05

 どう戦うべきか頭を巡らす朝霞の視界に、塗炭通りに数本立っている、街灯が映る。寂れた通りとはいっても、街灯すら設置されぬ程に、放置されている訳では無い。

 日本でいえば、歴史の教科書などに出て来る、大正時代の街灯を思わせるレトロなデザインで、高さは日本での一般的な街灯の倍ほどの高さがある。朝霞は後で知る事になるが、元々は旧市街地の繁華街で使われていた物が移設され、再利用されているのだ。

(――でも、直接奪わないでも、こいつ等の戦闘力を封じる方法なら、他にもあるか)

 街灯を目にして、その封じる方法を思い付いた朝霞は、抱き抱えていた少女を、一度路上に下ろす。そして、腰を落とす。

「背中にしがみ付いてな!」

 朝霞の指示に従い、少女は朝霞の後ろに回ると、首に両腕を回し、抱き付く様に背中にしがみ付く。

(これで、両手が一応は使える)

 少女を抱き抱えたままだと、両手が使えない為、朝霞は少女を背負にしがみ付かせたのだ。流石に両手が使えないままでは、ハンディが大き過ぎるので。

 再び、黒衣の男達が放った火球が数発、襲い掛かって来たので、朝霞は地を蹴り跳躍し、これを避ける。路面を焼く火球の炎で、塗炭通りは昼間の様に明るくなり、宙に舞った朝霞達を、熱風が襲う。

 真夏にキャンプファイヤーの前に陣取り、その熱気を身に受けているかの様な熱風を浴びながら、赤錆に覆われた古びた金属と、木製のパーツが組み合わされている街灯の頂点に、朝霞は降り立つ。闇雲に跳んで逃げたのでは無い、朝霞はこの古臭い街灯を狙って、跳躍したのだ。

「公共物の損壊にはなるんだろうが、緊急避難って奴だ……許せよ」

 誰にという訳でもなく、謝罪の言葉を呟きつつ、朝霞は腰を落とし、右手で街灯に触れる。すると、右の手甲に刻まれた青い六芒星が、青い閃光を放ち、青い稲妻の様に街灯の表面を駆け巡る。閃光はすぐに消え去り、朝霞が立ち上がると、街灯のライトの部分……発光魔術が仕掛けられた魔術機構が存在する部分から、魔術式が蛇の様に剥がれ落ち、朝霞の右手甲の六芒星に、吸い込まれてしまう。

 黒衣の男達のリーダーらしき男が、魔術式を奪われたせいで、光が失せた街灯の上に立つ朝霞を見上げながら、驚きの声を上げる。

「――魔術式を、奪ったのか?」

 街灯に仕掛けられた発光魔術の魔術式を奪うのが、朝霞の目的だった。魔術を奪えば、次にやる事は決まっている。炎で照らし出されて明るくなり、見易くなっている塗炭通りを見下ろし、朝霞は黒衣の男達の中で、やや仲間から離れている位置にいる男を見つけ出す。

(まずは、こいつだ!)

 朝霞は街灯の頂点を蹴り、その男に向かって、猫というよりは獲物を狙う猛禽類の様に急降下し、襲い掛かる。そして、着地すると同時に左拳の突きを放つ。

 黒衣の男は武術の心得が有る様で、朝霞の突きを右手で見事に受け流し、その威力を殺しつつ、直撃を避ける。素手であれば流石に、仮面者の突きを受け流し切るのは無理だろうが、黒衣の男は両腕に篭手を装着していて、それで受け流したのだ。

「この仮面者、パワーと攻撃力は、それ程では無いッ! スピードは速いが、動きは素人同然! 故に恐れるに足らずッ!」

 朝霞の左突きを受け流した黒衣の男は、声を上げながら反撃に転ずべく、左拳を燃え上がらせ始める。火球を作り出すのに使っていた、体内に仕込まれた魔術機構で、直接左拳を燃え上がらせたのだ、炎の拳で朝霞……もしくは少女を殴り付ける為に。

 だが、振り上げた炎の左拳を、黒衣の男は振り下ろす事が出来なかった。男が左拳を振り上げるのと同時に、朝霞の左手甲の六芒星が放った黒い閃光が、全身を稲妻の様に駆け巡ったかと思うと、六芒星から飛び出して来た魔術式の文字列が、蛇の様に男の右手から全身に絡み付いていたからである。

 男は朝霞の左突きを受け流すのには成功したが、受け流した男の右手と朝霞の左手は、触れたままになっていた。故に、朝霞に与える黒を発動され、街灯から奪ったばかりの魔術式を、その身に与えられてしまったのだ。

 身体の各所に黒衣の男は、幾つもの魔術機構を仕込んでいた。炎を自在に操る魔術機構や、通常の人間以上の運動能力やパワーを得る為の魔術機構などが。

 朝霞の与える黒により、男は全身を巡る様に仕掛けられている、通常の人間以上の運動能力やパワーを得る為の魔術機構の魔術式を、発光魔術の魔術式で、上書きされ始めてしまったのである。故に、拳を振り下ろそうとした時には、既に全身を巡る魔術機構の異常動作が始まり、身体がまともに動かなくなってしまっていた。

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