ティナヤとの出会いと初めての実戦 04
(どうする?)
朝霞は自問する。世界間鉄道の中での調査で、現時点での自分の仮面者としての能力は、大雑把に分かっている。速さと跳躍力、敏捷性などは、仮面者として最高レベルだが、パワーは程々、そして防御力は最低レベルというのが、朝霞の仮面者の基本的な性能。
「いわゆるスピードタイプの、紙装甲キャラって奴だね」
性能が分かった際、透破猫之神の防御力を、ゲーム好きらしい幸手は、そう評した。紙装甲というのは、ゲームなどで防御力が低いキャラなどを揶揄する言葉であり、朝霞も知っていた。
(火球の威力……正確には分からないし、透破猫之神は紙装甲だから、避けた方が無難か)
少女の盾となり、火球を身に受ける選択肢を放棄し、朝霞は少女を抱き抱える。そして、黒衣の男達が火球を放ったタイミングを見計らい、跳躍する。
直後、朝霞と少女がいた辺りの地面や、後ろにある塗炭の壁を、火球が直撃。爆竹が続け様に炸裂したかの様な音を響かせながら、炎の花が咲き乱れ、アスファルト風の素材で出来た道路と塗炭の壁が、燃え上がる。
(爆発するんじゃなくて、燃やすタイプの魔術なのか。これなら紙装甲の透破猫之神でも耐えられただろうが、この子は燃やされてたかもしれないな)
紙装甲と言えど、本物の紙の様に燃え易い訳では無い。ただ、ガソリンをぶちまけて着火した感じで燃え広がる為、朝霞が盾になって火球を受け止めていたとしても、燃え広がる炎に、少女の身体は焼き尽くされていた可能性が高かったのではと、朝霞は考えた。
「――このまま逃げ切れるか?」
着地した朝霞は、再度跳躍し、黒衣の男達から逃げようとする……が、黒衣の男達の動きは速く、朝霞は三人の黒衣の男達に、回り込まれてしまう。
黒衣の男達の素早さに、朝霞は驚きの声を上げる。
「速い! 仮面者でもない魔術師が、こんなに速く動けるものなのか?」
透破猫之神の本来のスピードなら、余裕で振り切れるレベルの速さではある。だが、まだ朝霞は透破猫之神での行動に、殆ど慣れていない、初心者といえる状態。
おまけに、少女の身長と体重は、朝霞を明らかに上回っている為、朝霞は本来の倍の重さで、動き回らなければならない。不慣れな上、重荷を背負っている状態では、透破猫之神がスピードに特化したタイプであっても、そのスピードを発揮出来ない。
「本来の倍以上の重量になってるから、スピード出し難いし動き難いんだよな。この子の体重が、せめて俺より軽ければ、逃げ切れたのかも……」
「そ、そう言う言い方すると、私が太ってるみたいに聞こえるから、止めてくれるかな?」
朝霞に抱えられている少女は、不愉快そうに抗議を続ける。
「少し普通の子より重いけど、それは背が普通より高いだけで、別に太ってる訳じゃないんだから!」
(うわ、この子面倒臭ぇ!)
やや呆れ気味に心の中で呟きつつ、逃げ切るという選択肢を朝霞は即座に捨て去り、攻撃に転じる。逃げ切れない以上、戦って倒すしか無い。
(こいつ等の戦闘力を封じたいが、幾らなんでも状況が良く分からない段階で、殺しちまうのはまずいから、奪う蒼で魔術式を奪う訳にはいかないか……厄介だな)
透破猫之神の右腕の能力……奪う蒼は、触れた物に仕掛けられた魔術式を、奪い取る能力。普通の物だけでなく、人体に施されている魔術式や、体内に仕込まれた魔術機構の魔術式を、身体に直接触れるだけで、奪う事も可能だ。
だが、物とは違い人体の場合、強引に魔術を奪うと、肉体や精神に深刻なトラブルを起こす可能性が有り、死に至る場合がある。朝霞は透破猫之神の能力を、世界間鉄道内でベルルに解析された際、そう説明を受けていた。
黒衣の男達は、おそらく犯罪者なのだろうと、朝霞も思っていはいる。それでも詳しい状況が分からぬまま、いきなり朝霞に人を殺せる訳が無い。ほんの少し前まで、朝霞はただの日本の高校生だったのだから。