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ティナヤとの出会いと初めての実戦 03

(相手は訓練を受けている、ヤバそうな魔術を使える連中。実戦が初めての俺が、変身しないで、この子を守り通すのは……どう考えても無理だよな)

 そう判断した朝霞は、世界間鉄道内で練習として変身した時を思い出し、即座に変身の準備を進める。世界間鉄道運営機構より、当座必要と思われる物を、朝霞達は支給されているのだが、その中には変身に必要な蒼玉粒も含まれていた。

 ペンダントのチャームが銀色のミニボトルになっていて、その中に幾つかの蒼玉粒や煙水晶粒が入っているのだ。朝霞達が身にまとっている黒いスーツは、世界間鉄道の中で支給を受ける際、朝霞達自身が選んだものだが、変身時に仮面に変える為に使われる事が多い帽子がセットになっていて、朝霞は黒いキャスケットを選んでいる。

 朝霞は胸元を開いて、手際良くミニボトルを右手で取り出す。緊張しているせいだろう、掌に汗がじっとり滲んでいるせいで、滑ってミニボトルが掌から逃れそうになるが、何とか中から一粒の蒼玉粒を取り出すのに成功。

(――練習通りにやれば、仮面に変えるのは……大丈夫な筈!)

 心の中で自分に言い聞かせながら、左手に持ったキャスケットに、朝霞は素早く六芒星を描く。緊張しているせいだろう、六芒星の形はいびつだ。

(まずったかな?)

 上手く六芒星が描けなかった為、不安に朝霞は襲われたが、それは杞憂。六芒星から噴出した青い炎に包まれ、黒いキャスケットは黒い仮面に変化する。

「六芒星の仮面? 小僧……貴様、聖盗だったのか!」

 この段階に至り、朝霞が聖盗だと気付いた黒衣の男達のリーダーは、驚きの声を上げる。他の黒衣の男達も、驚き……ざわめく。

(よし、後はこれを……かぶるだけだ!)

 練習でも仮面に変える段階までは、余り失敗しない程度には錬度が上がっていた。だが、問題は仮面をかぶってから。仮面者となる負荷に精神や身体が耐え切れず、練習の段階での成功率は、三分の一程度だったのだ。

 あと一週間くらいは、朝霞達は仮面者に安定的に変身出来る様になるなど、聖盗としての能力を一定以上まで高める修行の期間として、使う予定だった。本来なら聖盗として……仮面者での戦闘は、その後に経験する筈だったのである。

 だが、修行が未完成な段階で、朝霞は魔術師相手の戦闘の為、仮面者への変身をしなければならない状況に追い込まれた。現時点では失敗する可能性の方が、高いというのに。

 しかし、躊躇っている余裕など無い。既に敵は攻撃の準備を、整えつつあるのだから。朝霞は即座に、仮面をかぶる。

 仮面の六芒星から、青い炎が勢い良く噴き出る。全身が青い炎に包まれる中、朝霞は凄まじい負荷に、苛まれ始める。水深百メートル程の深さで、呼吸が出来ぬまま、強力な水圧に全身が押し潰されそうになっているかの様な負荷に、朝霞は精神集中を阻害される。

 変身を繰り返せば、身体が変身に慣れ、変身時の苦しみは殆どなくなるらしい。だが、まだ変身した数が少ない朝霞の場合、気を抜けば意識を失う程の苦しみなのだ。

(俺は……美里や他の人々の命を救う為に、この世界に来たんだ! こんな所でやられる訳にはいかないんだよ!)

 苦痛に意識を、何処かにもっていかれそうになりながら、必死で自分に言い聞かせ続ける朝霞の目に、青い炎越しに……怯えている少女の顔が映る。

(――この子だって、俺が変身出来なけりゃ、殺されちまうんだ! 人の命を助ける為に聖盗になろうって俺が、ここで耐え切れず変身失敗なんて真似、出来るかッ!)

 心の中で、そう言い切った直後……水中から地上に戻ったかの様に、全ての負荷が消え去る。人の命がかかっているという状況が、朝霞の心に力を与え、力を得た心が身体を支えたのか、朝霞は変身の負荷に耐え切ったのだ。

 青い炎は消え去り、黒い仮面をかぶった、身体の各所にプロテクターを装備した黒衣の忍者の如き、透破猫之神の姿に変身した朝霞が、姿を現す。

 ちなみに、朝霞の心の中では、数分が過ぎた様な感覚だが、実際には炎に包まれてから、二秒程度しか過ぎていない。

「俺って結構、やる時はやる男だよな……」

 仮面の下で安堵の表情を浮かべながら、朝霞は軽口を叩く。ギリギリの状態で成功したという自覚があるので、軽い言葉とは裏腹に、心の中では胸を撫で下ろしているのだ。

「――黒猫?」

 朝霞のかぶる仮面を目にした、少女の呟きである。猫耳の様に、上の方に飛び出してる部分が有り、目の部分も何処と無く猫の目を思わせる、透破猫之神の黒い仮面を目にした感想を、少女は口にしたのだ。

「黒猫か……いいね、それ。覚え易いし、呼び易い」

 少女が口にした言葉が、透破猫之神の仇名に似合いそうだと思った朝霞は、素直な感想を口にしつつ、身構える。確実に殺傷能力が有るだろう、バスケットボール大の大きさになっている火球を、朝霞や少女に向けて投げようとしている、黒衣の男達の姿を、朝霞の視覚が捉えたからである。

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