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ティナヤとの出会いと初めての実戦 02

 黒衣の男達の動きは、鍛え上げられたラグビーやフットボールのチームの様に、良く訓練された集団の動きに、朝霞には見えた。

「攻撃魔術を使うし、動きも速い……只の暴漢連中じゃないな、こいつら。明らかに何か特別な訓練、受けてるって感じだ」

 朝霞は傍らにいる少女に、問いかける。

「君……何でこんなヤバイ連中に襲われてんの?」

「わ、分からないよ! 突然、襲われただけなんだから!」

 怯えているのだろう、震える声で、少女は問いに答える。

「何か恨みでも買うような真似とか、犯罪行為に加担したとか……そんな覚えは?」

「無いですッ! 自分で言うのも何だけど、真面目が取り得みたいな人生、生きて来てるから、そんな覚えとか全然無いよ!」

「――だったら、あっちに訊いてみるか」

 朝霞は黒衣の男達に、問いかけてみる。

「あんた達、何でこの子を襲ってる訳? さっきの魔術、明らかに殺すつもりだったじゃないか!」

 黒衣の男達は顔を見合わせる、どう反応するか迷っているかの様に。そして、数秒後……皆の視線が黒衣の男達の一人に集まる。おそらくは二十代から三十台だろう、他の者達よりは、明らかに年長に見える、初老といえる年齢層の男だ。

(あいつがリーダーか?)

 そう朝霞が心の中で自問した後、そのリーダーらしき男が、口を開く。

「――その娘の周りには、白い薔薇が咲き乱れている。故に、その薔薇が赤く染まる前に、その娘を殺さなければならない……」

 普通の喋り方では無い。アンダーグラウンドで活動する劇団の役者が、不条理演劇の台詞を口にしているかの様な、芝居がかった口調。

「何だ、そりゃ? 薔薇の色が白だろうが赤だろうが、どうでもいいだろう。それに、この子の周りに、薔薇なんて咲いていないぜ?」

 朝霞の言う通り、少女の周りに薔薇など存在しない。

「只の人間には、見る事の出来ない薔薇が、その娘の周りには咲いているのさ。小僧……何故、白い薔薇が赤く染まるのか、分かるか?」

「――知るかよ、俺は文系なんだ。植物には詳しくない」

「数多の人々の死体から血を吸い上げ、赤く……赤く染まるのだ。いつか、その娘の白い薔薇は。だから、その前に……白い薔薇の娘は、殺さねばならない」

「死体から血を吸い上げて染まるのは、桜と相場が決まっているの……知らないのか? まぁ、ここの連中が梶井基次郎を、知る訳は無いんだろうが」

 軽口を叩きつつ、朝霞は黒衣の男達の様子を観察する。爪先立ちの半身で構え、先ほどと同じ攻撃魔術を発動したらしく、掌の上に火球が出現し始めている。まだビー玉やピンポン玉程の大きさだが、すぐに先程同様、バスケットボール大になるだろう。

(魔術式を描く様子は無かったし、略式での発動の様子も無かった。魔術機構が仕込まれた武器を手にしてはいないから、体内に魔術機構を埋め込んでいるのか?)

 世界間鉄道の中で、受けたばかりの魔術の講義を思い出し、朝霞は敵が何をしたのか、理解しようとする。だが、魔術の存在を知ったばかりで、攻撃魔術で攻撃してこようとしている魔術師と対峙したのも初めてだった為、この時の朝霞は気付かなかった。

 通常のエリシオン式魔術は、ソロモン式と違い、人体に魔術機構を仕込めない(厳密には仕込める魔術も存在するが、安定的に使えず危険である為、禁術扱いとなっている)。つまり、体内に魔術機構を仕込んでいるらしい黒衣の者達は、流派自体が禁術扱い(ソロモン式は世界間鉄道関係者や聖盗関係者のみ、禁術として扱われないが、それ以外の者にとっては禁術扱い)、もしくはエリシオン式の禁術を使っていた可能性が高いのだが、未熟だった朝霞は、そこまで考えが回らなかったのである。

 ちなみに、体表や体表に近い部分に仕掛けられた、魔術機構や魔術式なら、魔術に通じた者には、その場所くらいは視認出来る。どの様な魔術だか判別するのは、難しいが。

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