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正解が見えない心休まらぬ休息 04

「いや、あの……そーいう事されると、脚が動かせないというか、俺が湯船から出れないんだけど」

 より深く触れ合う状態になった、幸手やティナヤの脚の感触に、戸惑いだけでなく、興奮と羞恥心を覚えながら、朝霞は言った。無論、股間は治まってはいないので、湯船から出ようにも出れないのだが。

 すると、そんな朝霞に神流が寄り掛かって来る。これまでは右隣に座り、身体が触れている程度の状態だったが、寄り掛かって来たせいで、肌は密着する状態になった。

 それだけではなく、躊躇い勝ちにではあるが、神流は左腕を朝霞の右腕に絡める。神流の胸の膨らみが、朝霞の肩から二の腕辺りに触れる形になる。

(む、胸……当たってんだけど)

 控え目とはいえ、柔らかな胸の感触を覚え、朝霞は焦る。

「お前も、まだ入ったばかりだろ。今日の修行は激し過ぎたから、半端じゃない疲労が溜まってる筈だ」

 照れているのか、目線を微妙に泳がせつつ、神流は続ける。

「あたし達には遠慮しないで、ゆっくり心と身体を癒せ」

(お前らが一緒だと、身体はともかく、心の方は癒されるどころか、落ち着かないんだよ!)

 朝霞は心の中で愚痴りつつ、理性を総動員して、興奮を鎮めようとする。とりあえず、裸の三人の姿が目に映らない様に、朝霞は目を閉じる。

 そんな朝霞の様子を目にして、三人は姦しい会話を始める。

「――こういう状況で、目を閉じて見ていないアピールするとか、ちょっと男として意気地が無さ過ぎるよね、朝霞っちは」

「別に見られたって構わないから、あたし達は一緒に入っているんだし。目とか閉じられたりする方が、むしろ変に意識し過ぎな気がして、嫌なんだけど」

「でも……私達の事を、ちゃんと女として意識してるからこそ、わざわざ目を閉じてるんじゃないかな? 恋人とか作らないアピールしてるけど、きっとあれ……無理してるんだよ」

「無理してるな、こいつは絶対、無理してる」

「本音では、女というか……私達に、興味有りまくりだよねー、朝霞っち。下着姿の時とか、絶対に胸をチラ見するし」

「するよねー」

「するする、ばれてないと思ってるかも知れないけど、朝霞は目が大きいから……何処見てるか、すぐに分かるのに」

(――いや、まぁ……確かに目に入るというか、つい……目が胸に行くのは事実なんだろうけど、そういうのは男の本能みたいなもんだし)

 朝霞は心の中で、弁解を呟く。口に出さないのは、この場面で口に出して弁解しても、おそらくその数倍の反論を食らうだろうと、察しがついているからだ。

(しかし、女三人寄れば姦しい……みたいな、諺があった気がするが、そのまんまだな)

 日本にいた頃、そんな風な諺の話を、耳にした覚えが朝霞にはあった。ガールズトークの場に、うっかり男一人で居合わせてしまった的な気まずさに、朝霞はげんなりする。

 湿度の高い空気と温かな湯は心地良く、身体は確実に癒されているし、魅惑的な裸体を晒す異性三人に囲まれ、肌を触れ合っている状況は、ハーレム的な極楽と言える状況。しかし、姦しい女三人に、自分をネタにガールズトークされる状況の居心地の悪さは、地獄といえる。

(こんな時は、どうするのが正解なんだろう? 正解が見えない……)

 極楽なのか地獄なのか分からない状況の中、朝霞は目を閉じたまま悩み続ける。そして、正解が見えぬまま……のぼせる程に湯船に浸かり続けた頃合、三人が満足げに湯船から上がり、バスルームを後にしたので、ようやく朝霞は開放された。

 朝霞は湯船から上がり、洗い場の椅子に腰掛け、湯の熱と興奮により、火照った身体を冷ます。そして、三人の声が洗面所を兼ねた更衣室となっている部屋から、遠ざかって行くのを確認してから、バスルームを出て更衣室に移動すると、身体を拭いて部屋着に着替え、疲れ切った様な表情で、肩を落としたまま自室に戻る。

 月明かりが射し込むだけの暗い部屋、灯りも点けずに、朝霞はベッドに倒れ込む。耳障りなスプリングの軋む音を、響かせながら。

(――何か、今日は色々……疲れ過ぎた)

 何もする気が起きず、そのまま朝霞は目を閉じると、程無く眠りの世界に落ち、寝息を立て始めた。気苦労から開放されたかの様な、安らかな寝顔で……。



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