正解が見えない心休まらぬ休息 02
(――見た目より、柔らかい……とか考えてる場合じゃないよな、やっぱり)
控え目な部類の神流の胸に抱かれつつ、朝霞は必死で恥ずかしさと興奮を抑え込みつつ、神流の腕の中でもがく。幸手と違い、力強く抱き締められた為、息苦しかったのだ。
「か……神流もドサクサに紛れて、何をしているのかな?」
苛立ちを隠さず、ティナヤは神流を問い詰める。
「あ、いや……これはわざとじゃなくて! 偶然っ! ついうっかり!」
慌てて声を上擦らせつつ、神流が抱き締めていた腕を外したので、ようやく朝霞は身体の自由を取り戻す。だが、身体の……主に股間の部分は朝霞の自由にならず、興奮を抑え込むのに失敗した状態だ。
思春期の朝霞にとって、魅力的な三人の同年代といえる異性が、裸で間近にいる状態で、その中の二人に胸に抱き締められたのだから、性的に興奮してしまうのは、むしろ当たり前の反応と言える。だが、朝霞からすれば、それを三人に気取られたくは無い……下手すれば、これまでと人間関係が変わってしまう可能性すらあるのだし。
(やばい……これ見られる訳にはいかないな)
焦りつつ、朝霞は三人に背を向けると、湯船に向かって歩き始める。そして、湯桶で湯船の湯をすくい、身体にかけて石鹸の泡を洗い流すと、逃げ込む様に湯船の中に入り、浸かり始める。
(――見られなかったよな?)
心の中で自問しつつ、朝霞は三人の様子を探る。湯船から掌で掬った湯で顔を洗いつつ、その合間に洗い場の方にチラリと目をやり、同時に神経を尖らせて気配を探る。
既に三人は自分達の身体を洗う方に意識が向いたらしく、湯船に浸かった朝霞を気にしている様子は無かった。男の朝霞よりは、念入りに自分達の身体を、磨くかの様に洗っている。
おそらく、自分の股間の様子には、気付いていなかっただろう事に、朝霞は安堵しつつ、湯気で程好くフィルターがかかって見える、魅惑的な三人の肢体に、見蕩れそうになる。それぞれタイプこそ違うが、思春期の朝霞からすれば、目の毒といえる程の肢体の持ち主だ。
(やばい……あんなの見てたら、治まるものも治まらなくなるって)
タイル張りの湯船に肩まで浸かりつつ、朝霞は三人から目線を逸らし、壁に目をやる。目線の先で、湯船同様にタイル張りの壁の目地を、水滴が伝い落ちて行く。
色気とは無縁の、壁の水滴を見ている内に、興奮は次第に冷め、股間も治まり始める。
(もう少しで、治まりそうだな。まったく、風呂で疲れを癒すどころか、疲れちまうよ……心の方が)
交魔法の修行は、身体的な損傷は余り負わない様なのだが、精神力と体力の消耗は凄まじい。疲れ切った心と身体を、風呂と睡眠で癒そうと、朝霞は思っていたのだが、心の方は女性陣の風呂への乱入で、癒されるどころか乱されている状況にある。
そして、更に状況は朝霞の心を、乱す方向に流れて行く。
「――邪魔するよ」
余り女の子っぽくない語り口で、神流が声をかけてきたかと思うと、普段より赤味が増した、艶っぽい色合いの肌の神流が、朝霞の視界に入って来る。胸や股間は手で隠しているが、それでも同い年の裸の少女が目の前に現れるのは、朝霞にとっては衝撃的といえる状況だ。
神流は朝霞の右隣……洗い場に近い側に移動し、湯船から湯を溢れさせながら、腰を落として座り込む。朝霞の右隣で、湯船に浸かり始めたのだ。揺らめく湯に隠された気楽さか、既に胸や股間を手で隠してはいない。
胸の先端こそ見えないが、控え目の胸の膨らみの半分近くは、湯から出ているので、目を閉じるか、不自然に目線を逸らさない限り、朝霞の視界の隅に映ってしまう。